夫の不自然な変化
夫への違和感は、帰宅時間の乱れと、家での態度の変化から始まりました。会話は減り、返事はそっけない。スマートフォンを常に伏せ、風呂場にまで持ち込むようになったのです。
決定的な瞬間を見たわけではありません。それでも不自然さは積み重なっていきました。私はカード明細や外出の記録を残し、知人にもそれとなく様子を尋ねました。その結果、夫が特定の女性と不倫関係にあることがわかりました。
数々の証拠を前に、夫は「別れたくない」「本気じゃなかったんだ」と繰り返しました。しかし、裏切りによる心の傷はそうそう癒えません。私が離婚と慰謝料請求をつきつけると、夫はうなだれながらも同意したのです。
義母からの電話は、その数日後のことでした。
「離婚なんて考え直しなさい」
「しかも慰謝料なんて、息子がかわいそうでしょう」
「専業主婦のくせに何を偉そうに」
最初は、義母と話がかみ合わない理由がわかりませんでした。しかし聞いていくうちに、夫が自分に都合のいい説明だけをしていることに気づきました。
私が冷たくなった。家のことをしなくなった。夫は黙って耐えてきた――そんな話にすり替えられていたのです。
「本当なら、うちの息子から離婚を切り出してもいいくらいなのに」
「慰謝料というのは、原因を作った側が払うものなのよ」
事情を知らない義母は、私が夫に慰謝料を払うべきだと言います。私が説明しようとしてもすぐに遮られ、聞く耳を持ちません。
電話を切ったあと、どっと力が抜けました。何を言っても通じない相手に責め立てられたことで、怒りより先に、ひどい疲労感だけが残ったのです。
義母の電話は止まらず
その後も、義母からの電話は何度も続きました。内容はどれも同じです。
「離婚なんて考え直しなさい」
「慰謝料まで請求するなんて、ひどい女ね」
「あの子が泣いていたわ。あなたが追い詰めたんでしょう」
私は、弁護士と相談のうえで、相応と判断された300万円の慰謝料を請求していました。にもかかわらず、夫は自分の不倫を隠したまま、私だけを悪者にする説明をしていたようでした。
夫に本当のことを義母に話してほしいと伝えましたが、返ってきたのは「母さんに言わないでくれ」の一言だけ。
離婚については合意し、離婚届を提出するだけになっていたものの、夫からの慰謝料の支払いは一向に進んでいませんでした。弁護士を介して、書面を取り交わしていたにもかかわらず……。
事実が捻じ曲げられ、まるで私が加害者のようにされている。その理不尽さがどうしてものみ込めず、気づけば一睡もできないまま朝を迎えていました。
離婚後に届いた内容証明
それからも義母からの電話はかかってきましたが、結局私たちは離婚。住んでいた部屋は私が独身時代から借りていたものだったので、元夫が出ていきました。
しかし離婚成立から1週間後に、元義母から内容証明郵便が届いたのです。中身を読んで、思わず座り込みました。
「一方的に離婚を迫った」
「精神的苦痛を与えた」
そこには、「一方的に離婚を迫られ、精神的苦痛を受けた」として、500万円を支払うよう求める文言がありました。差出人欄には、法律事務所らしき名称も記されていて、私は一気に血の気が引きました。
どういうことなのかたしかめようと私が電話をかけると、義母は電話口でもこう言いました。
「こんな一方的な離婚で、うちの息子にバツをつけて!」
「慰謝料500万円払わないと訴えるわよ。こっちは弁護士にも相談してるんだから!」
その言葉を聞いて、怒りや戸惑いよりも先に諦めの感情が湧きました。
何を説明しても意味がない。事実ではなく、元夫にとって都合のいい話しか採用されない。私が直接元義母と話していても、何ひとつ進まないのです。
「観念しなさい、こちらは本気だからね」
さらに何か言い募ろうとする義母を、私は初めて遮りました。
「ぜひお願いします」
「あと今後のことは、代理人を通していただければ」
元夫の不貞に関する証拠は、すでに弁護士へ提出済み。慰謝料の合意書もあり、支払いの遅れも記録に残っています。そう伝えると、義母は「え?」と言ったあとに言葉を失いました。
「……そんなの、嘘よ」
そう言いながらも、元義母の声は明らかに弱くなっていました。
嘘がばれたあとで
翌日、再び元義母から連絡が。元夫を問いただして不倫の事実を確認したらしく、前日の勢いはありませんでした。
それでも「浮気したのは悪いけれど、原因はあなたにもあるんじゃないかしら」「不倫ってあなたは言うけど、ただの仲の良いお友だちかもしれないし……」と言う元義母。しかし、こちらには元夫と不倫相手のやり取りの履歴や宿泊記録まであるのです。
「証拠の内容を確認したうえで、そうおっしゃるのですか」と問い返すと、義母は言葉を濁しました。
「お義母さんが送ってきた内容証明についても、弁護士に相談済みですから」
「私に直接ではなく、今後はそちらを通してください」
そう言うと、義母は態度を一変させました。
「私だって、息子に嘘をつかれてたのよ? あなたと一緒で被害者よ」
「勘違いしただけなんだから、そんなに大ごとにしなくたっていいじゃない」
今まで一切聞く耳を持たなかったのに……。急に歩み寄るような姿勢を見せてきた元義母に、私はあきれることしかできませんでした。
その後――。
元夫からは「母さんに全部話したな!」と怒りの電話が来ました。元夫は実家に戻っていたようですが、私のせいで居づらくなったと言っていました。しかし、もはや私には関係のないことです。
私が慰謝料の支払いが滞っていることを指摘すると、元夫は一方的に電話を切りました。弁護士を通じて繰り返し支払いを催促すると、ようやく元夫は慰謝料を合意書通りに支払いました。
それからしばらくは、電話が鳴るだけで体がこわばり、ポストを見るだけで呼吸が浅くなる日々を過ごしました。自分に非がないことは十分に理解しているつもりでしたが、一方的に責められることで心身ともにダメージが積み重なっていたのかもしれません。
すべてが終わり、自分のペースで生活できるようになって、ようやく私は緊張を解くことができるようになったのです。冷めた料理を温め直すことも、帰ってくるかわからない相手を待つことももうありません。まだ完全に回復したとは言えません。だからこそ、今は自分を第一に、生活を整えていこうと思います。
【取材時期:2026年3月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。