前夜の衝撃的な電話
式の前夜、最終確認を終えて店を閉めようとしていた時のことです。式場の担当プランナーから、信じられない内容の電話が入りました。
「あ、もしもし? 明日の結婚式なんですけど、急遽中止(キャンセル)になりました。なので、花も全部キャンセルで。代金はキャンセル料として式場側で処理するので、明日は来なくていいですよ」
あまりの衝撃に言葉を失いました。あの仲の良かった二人が、一体どうして……。
「彼女、今どれだけ落ち込んでいるだろう」
そう思うと、僕から確認の電話を入れるのも憚られ、せめて彼女の心に寄り添うつもりで、準備していた花を静かにバックヤードへ下げたのでした。
怒りの鬼電と消えたプランナー
翌朝、店を開けた途端にスマホが鳴り響きました。新婦のお父様からです。
「おい! 娘の式の花が一つも届いてないぞ! どうなってるんだ!」
怒鳴り声に、僕は混乱しました。「昨日、中止になったと伺いましたが……」と伝えると、電話の向こうでお父様が絶句。
「中止なわけがあるか! 午後から式が始まるんだぞ!」
お父様の話では、当日になって担当プランナーが無断欠勤。式場は代わりのスタッフが対応に追われ大混乱しており、花の件がなかなか確認できないため、痺れを切らしたお父様が直接僕に連絡をくれたとのことでした。

執念のリカバリーと因果応報
「すぐに向かいます! 花はあります!」
混乱を振り払い、僕はスタッフ総出で車に花を積み込み、式場へ急行しました。
到着すると、騒然とする式場の裏口付近に、中を覗き込む不審な女の姿がありました。
僕が「お待たせしました! 花をお持ちしました!」とその横を通り抜けようとした瞬間、その女がいきなり僕が持っていた花入りのバケツを思い切り蹴飛ばしてきたのです。
ガシャーーン! という激しい金属音と水しぶきが、裏口に鳴り響きました。
「な、何を……!」
呆然とする僕の前に、奥から血相を変えた式場の支配人が駆け寄ってきました。 「お前! こんなところにいたのか! 一体どういうことだ!!」
どうやらその女こそが、無断欠勤したプランナーでした。彼女は現場のパニックを、歪んだ笑みを浮かべながら眺めていたのです。
なぜこんな酷いことをするのか……。疑問と激しい憤りを感じましたが、今は彼女にかまっている暇はありません。
幸い花は多めに持ってきていたので、「あとはお願いします!」と支配人に叫び、僕はそのまま会場に滑り込みました。
馴染みの彼女が泣きそうな顔で立ち尽くしているのを見て、「遅れてごめんね! プロポーズの時より綺麗にするから!」と声をかけ、渾身の力でセッティングを開始。
結婚式の開始直前、会場は彼女が夢見た通りの、彩り豊かな花々で埋め尽くされました。
明らかになった全貌と、それぞれの末路
後日、新郎新婦が揃って店を訪れ、丁寧な謝罪と感謝の言葉をくださいました。
実はあのプランナー、打ち合わせの最中に新郎へ執拗に好意を寄せていたそうです。新郎は一度「二人で会いたい」と迫られた際、きっぱりと断っていましたが、彼女はその屈辱を根に持っていました。そして新婦が最も大切にしていた「花」を標的に、最高の記念日を最悪の思い出に塗り替えようと画策したのです。
当日、わざわざ式場に現れたのも、「自分が壊した式で新郎新婦が絶望する姿を、この目で確認してやりたい」という恐ろしい執着心からだったようです。
しかし、その卑劣な行為が許されるはずもありません。
プランナーは解雇処分に。式場への損害賠償はもちろん、新郎新婦の思い出を故意に踏みにじろうとした背信行為に対し、法的な代償をきっちりと支払うことになりました。
こうして騒動は収まり、僕はまた、花と向き合う静かな日常へと戻りました。
今日も僕は、店先で心を込めて花を束ねています。彼女がまた、幸せな笑顔で店に寄ってくれる日を楽しみにしながら。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。