妹から告げられた結婚式への本音
妹とは、ここ数年で少しずつ距離ができていました。生活費や急な出費の相談はしてくるものの、それ以外の連絡にはあまり返事をしなくなっていました。私も「今まで甘やかしすぎたのかもしれない」と感じながらも、妹が困っているならと、つい手を貸してしまっていたのです。
妹の婚約者であるB男さんについても、正直なところ気がかりがありました。B男さんは、私の取引先とも関わりのある会社の社長の長男で、いずれ後を継ぐ立場だと聞いていました。ただ、業界内では仕事への向き合い方や取引先への態度について、気になる話も耳にしていました。
そんな中、珍しく妹が家を訪ねてきました。どうやら、結婚式の話をしたいようです。
「お兄ちゃんも一応、親族だから来てもいいよ。でも、結婚式ではあまり目立たないでね」
私は一瞬、言葉の意味がわかりませんでした。すると妹は、当然のように続けました。
「B男さん側は大きな会社の関係者も来るの。お兄ちゃんの会社とは規模が違うから、恥ずかしいのよ」
その言葉に、私は胸が締めつけられるような気持ちになり、「わかったよ。あまり目立たないようにする」とだけ答えるのに精いっぱいでした。妹にとって私は、親代わりに支えてきた兄ではなく、結婚相手の家に見せるには都合の悪い存在なのだと感じました。
兄として線を引くと決めて
その話を終えた後、私はしばらく考え込みました。生活費や引っ越し費用、ちょっとした困りごと。妹が頼ってきたとき、私はできる限り応じてきました。両親がいない分、自分が支えなければと思っていたからです。
けれど、妹はもう大人です。結婚して新しい家庭を持つ以上、これまでのように私が何でも受け入れ続けることは、妹のためにもならないのではないか。そう思うようになりました。
私は妹に、「結婚式には出席する。ただ、それを機にこれまでのような金銭的な援助や生活面のサポートには、区切りをつけたい」と話しました。普段なら何でも受け入れる私がはっきり線を引いたことで、妹は「結婚するからって、急に突き放すの?」と戸惑っているようでした。
私は落ち着いて答えました。
「冷たくしたいわけじゃないよ。結婚式には兄として出席する。でも、その後は、これまでみたいに何でも私が支える関係は終わりにしたい。これからは、自分で選んだ生活に責任を持ってほしい」
兄として突き放すようでつらくもありました。けれど、結婚式を最後に、妹との関わり方を変えることも、今の私にできる支え方なのだと思いました。
結婚式で明らかになった見下し
当日、私は親族席で静かに過ごしていました。披露宴の歓談中、B男さん側の参列者の中に、仕事でお世話になっている取引先の方が何人かいることに気付きました。
B男さんの会社は私の工場と同じ業界に関わっているため、共通の取引先がいても不思議ではありません。とはいえ、妹から「目立たないで」と言われていたこともあり、私は軽く会釈をするだけにして、こちらから仕事の話を持ち出すことはしませんでした。
しばらくすると、新郎新婦が各テーブルを回る時間になり、妹とB男さんが私のいる親族席の近くまで来ました。そのとき、B男さんが私を見て、笑いながら言ったのです。
「お義兄さんですよね。小さな工場をやっているとか。今日はお忙しい中ありがとうございます」
一見あいさつのようでしたが、どこか小バカにしたような言い方でした。妹も止めるどころか、気まずそうに笑っているだけです。
さらにB男さんは続けました。
「お義兄さんも製造関係のお仕事なんですよね。うちとは扱う仕事の規模もだいぶ違うと思いますけどね」
その声が少し大きかったのか、近くを通りかかったB男さん側の参列者がこちらに気付いたようでした。それは、先ほど私と会釈を交わした取引先の方でした。その方は、穏やかな声でこう言いました。
「失礼ですが、こちらの方には弊社も何度も助けていただいています。規模だけで判断できる仕事ではありませんよ」
さらに、やりとりが聞こえたのか、別の取引先の方も「私もいつもお世話になっています。対応が丁寧で、信頼している取引先です」と続けてくださいました。
妹とB男さんは、明らかに動揺していました。私が何かを言い返したわけではありません。ただ、これまでの仕事を見てくださっていた方々が、その場で静かに事実を話してくれたのです。
代替わりが進んで起きた変化
それからしばらくして、B男さんは父親の会社で、経営に深く関わる立場になったと聞きました。いずれ後を継ぐ人だとは聞いていましたが、実際に代替わりが進むにつれ、取引先との関係にも少しずつほころびが出てきたようでした。
詳しい事情まではわかりません。ただ、B男さんの仕事への向き合い方や、取引先や協力会社への態度については、以前から不安視する声があったようです。結婚式での言動も、そうした一面を周囲に印象づけるきっかけになってしまったのかもしれません。
そんなころ、妹から泣きながら連絡がありました。
「B男さんとうまくいっていない。お兄ちゃん、助けて」
胸が痛まなかったわけではありません。けれど、以前のようにすぐ何もかも引き受けることはしませんでした。兄妹だからといって、どちらか一方が支え続ける関係のままではいられないと感じていたからです。
まとめ
私が本当に大切にしたかったのは、妹を甘やかすことではなく、自分の足で立ってほしいと願う気持ちでした。そして同時に、私自身が大切にしてきた仕事や、社員たちの努力や誇りを軽く扱われたくないという思いでもありました。
今も妹との関係が元通りになったわけではありません。それでも、必要以上に背負いすぎることをやめたことで、私はようやく自分の人生と仕事に真っすぐ向き合えるようになった気がしています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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