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「家じゃない!」施設から一時帰宅した父が叫んだ直後、母の涙で空気が変わったワケ

70代後半の私の父は、1年ほど前に足の手術で入院してから回復が思わしくなく、退院後はそのまま介護施設に入所しています。ここ数カ月は、認知症によるものと思われる言動が目立つようになりました。そんな中、月1度の一時帰宅で家に戻った父に異変が発生、「もう帰る」と取り乱し始めます。予想外の事態に、私と母は、厳しい介護の現実と家族の尊さをかみ締めることになるのです。

この記事の監修者
監修者プロファイル

医師菊池大和先生
医療法人ONE きくち総合診療クリニック 理事長・院長

地域密着の総合診療かかりつけ医として、内科から整形外科、アレルギー科や心療内科など、ほぼすべての診療科目を扱っている。日本の医療体制や課題についての書籍出版もしており、地上波メディアにも出演中。
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月に1度の一時帰宅…父を囲んで家族だんらん

介護施設で暮らす70代の私の父は、今では自分の力で歩くこともできなくなり、車椅子の生活。また、少しずつ認知症が進んでいました。

 

ある日、月に1度の外出許可をもらい、日帰りで帰宅した父。初めは家の中をキョロキョロ見渡し、久しぶりのわが家に、車椅子の上で少し落ち着かない様子でした。

 

「お父さん、認知症の影響もあるのかな?」と、私が母に目くばせすると、母も苦笑いでした。しかし、しばらくすると父も慣れ、いつも通りのくつろいだ笑顔に。私たち3人は、テーブルを囲んで座りました。

 

母が、父の好きなみかんをむいて差し出すと、父は口を大きく開けてうれしそうな様子。昼食には、母が朝から腕を振るった手料理を「うまい、うまい!」とおなかいっぱい食べました。午後はテレビのBSをつけ、みんな大好きな大相撲中継を見ながら、あの力士だこの力士だと大盛り上がりでした。

 

「やっぱりわが家がいいね、お父さん」と言うと、「じゃぁ、じゃぁ」と答える父。入院する前と何ら変わらない父の穏やかな顔と、いつものような風景に、「お父さん、大丈夫だ」と私は心からほっとしていたのです。

 

おやつを食べ、しばらくすると父が豹変

しかし、思いがけない出来事は突然起こりました。3時のおやつを食べ終え、父がソファベッドでうたた寝をして、目を覚ました直後のことでした。

 

父の視線が定まらないような感じになり、

 

「もう帰る! あっちに帰る。早く連れて行け!」

 

地鳴りのような大声が家中に響き渡りました。介護施設からの迎えの車が来るまで、まだ1時間以上ありました。

 

「お父さん、何を言ってるの? ここが家だよ」と母がなだめますが、父の耳には届きません。

 

「違う! ここは家じゃない! 帰る」

 

と父は叫び、まるで迷子になった子どもが不安でおびえるような、これまで見たこともない形相になっていました。

 

車椅子を猛然と動かそうともがき、リビングの壁や家具にドンドンとぶつかりながら、動き回り始めたのです。

 

「危ない! お父さん止まって!」と母は行く手を阻みますが、父はものすごい勢いで跳ねのけようとしました。2人は大きな窓の前でもみ合いになり、車椅子ごとガラスに突っ込みかねない状態になりました。

 

 

困り果てたそのとき! 母が抱きしめると…

もう力づくでは止められないと、私が途方に暮れたそのときでした。母が一歩も引かない覚悟で、父が乗る車椅子の前に立ちふさがり、そして激しく取り乱す父の体を力強く抱きしめたのです。

 

言葉はありません。母の目からはポロポロと涙がこぼれ、父の顔の上に落ちていきました。

 

すると、さっきまで激しく取り乱して叫んでいた父の動きが、ピタッと止まったのです。静まり返ったリビングには、母の静かなすすり泣きだけが響きました。

 

しばらく沈黙が続いた後、父の強張っていた肩の力がふっと抜けたのがわかりました。そして父は、自分の頭上で泣いている母の顔をじっと見つめ、まるで夢から覚めて、いつもの父に戻ったかのように、ぽつりとつぶやいたのです。

 

「お母さん……どげんしたんよ」

 

いつものやさしくて、穏やかな父の声。母と私は思わず力が抜けました。母は泣き笑いしながら、「どげもせんよ」と、父の背中をなでながらやさしくつぶやいたのです。

 

その後の父は、まるで何事もなかったかのように、のんびり過ごしました。そして介護施設から迎えが来るまでの間、穏やかな笑みを浮かべ、ずっと母の手を握りしめていました。

 

まとめ

私たちはこの出来事で、父の認知症が進行しているかもしれないという現実を、痛いほど突きつけられました。今後の暮らしが体力的にも心理的にも大変になることを覚悟するとともに、父との時間を後悔のないものにしたいという思いが固まりました。

 

あのとき、母が無言で伝えた思いが、父の心にも届いたのではないかと感じています。これから先も、家族で支え合いながら、父が少しでも穏やかに過ごせる時間を大切にしていきたいと思っています。

 

 

※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。記事の内容は個人の感想です。

※本記事の内容は、必ずしもすべての状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて医師や専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願いいたします。

 

監修:菊池大和先生(医療法人ONE きくち総合診療クリニック 理事長・院長)

著者:雪嵐 ルイ/40代女性。高齢の母とラブラドール犬との3人暮らし。酒は飲めないが、酒にまつわる香りを好む。ある一つの酒のにおいが好きな香りフェチ。

イラスト:エェコ

 

※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2026年6月)

 

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