娘のお弁当を気に入ってくれていたお友だちのなかに、同じクラスの男の子がいました。
娘から「『ミートボールいいなぁ』って言ってたよ」と聞いていた数日後、その男の子のお母さんから突然声をかけられたのです。
お弁当が思わぬ騒動のきっかけに
そのママ友は、高級住宅街に住んでいることで有名な方。いつも華やかな服装に高価そうなアクセサリーを身につけ、代々病院を経営する家に嫁いだことで周囲でも有名でした。
最初は「レシピでも聞かれるのかな」と思ったのですが、表情は険しく、開口一番こう言われたのです。
「うちの子に安っぽい料理のことなんて吹き込まないでください」
「特に小さいうちは味覚を鍛えるのが大事なんですから」
あまりに一方的に言われて、私は言葉を失いました。そもそも、責められるいわれもありません。
しかし、私はその場を収めたくて謝罪。そして「普段はどんなお弁当を作られているんですか?」と尋ねると、待っていましたと言わんばかりに彼女は語り出したのです。
「伊勢海老のグラタンにブランド牛のステーキ、それから鰻丼も入れることがあるの」
まるで高級レストランのメニューを聞いているようでした。
さらに、「うちはお宅みたいに安い材料のお弁当なんて持たせませんから」と言われ、私は返す言葉がありませんでした。
その一方で、息子さん本人はその日もママ友のいないところで「みんなのお弁当、おいしそう」「きんぴらごぼうとか、切り干し大根とか、食べてみたいなぁ」とうらやましそうに話しているのです。
そんな息子さんの気持ちを知ってか知らずか、そのママ友は幼稚園に来るたびにお弁当の話題を持ち出すように。私だけでなく、周りのママ友まで見下すような発言を繰り返すようになっていきました。
運動会でも続いたお弁当マウント
しばらくして、幼稚園の運動会の日――。
その日は家族みんなでお弁当を食べることになっていたため、私は娘のリクエストを聞き、前日から下ごしらえをしていました。私と夫がお弁当を食べる準備をしていると、例のママ友一家が隣に……。
私が作ったお弁当を見るなり、「相変わらず庶民的で貧相なお弁当ね」と笑ったママ友。たしかに、向こうのお弁当は高級食材が並ぶ豪華な内容でした。
私や夫からしたらママ友一家のお弁当がうらやましくて仕方ないのですが、当の息子さんはうちのお弁当をうらやましそうにちらちらと見つめています。きっと、以前「おいしそう」と言ってくれたミートボールのことを覚えていたのでしょう。
見栄のために犠牲にしたもの
そこへ少し遅れて、ママ友の夫がやってきました。やはりお医者さんのようで、穏やかな雰囲気で、私たち家族にも気さくに声をかけてくださいました。
「いつも息子から『お弁当がおいしそうなんだ』と聞いています。今日も本当においしそうですね」
「私も子どものころはミートボールが大好きだったなぁ」
その言葉を聞いた瞬間、ママ友の表情が変わりました。そしてすぐさまいつものように、「息子にはそんな安っぽいものは食べさせないわ」「うちは高級食材しか使わないもの」とこちらに聞こえるように言ってきたのです。
私は慣れっこだったのでスルーしようとしたのですが、それを聞きとがめたのはママ友の夫。
「……最近、食費が異常に高いと思っていたんだが……全部これのためだったのか」
ママ友の夫によると、ママ友は高級食材をクレジットカードで次々と購入していたようです。それも、すべて週2回のお弁当のために……。
「高級食材ばかり食べさせればいいってものじゃない」
「大事なのは栄養バランスと食育だろう」
静かに、しかし厳しく話したママ友の夫。その言葉を受けて、ようやくママ友も自分の行動を振り返ったようでした。
意外なお願い
後日、例のママ友は私に頭を下げました。
「今まで本当にごめんなさい」
「もしよかったら、おかずの作り方を教えてもらえませんか」
正直、すぐに許せる気持ちにはなれませんでした。しかし、息子さんが「あのミートボールを食べてみたい」と話しているそうで、私は断ることができませんでした。
それから一緒に料理をする機会を作り、普段作っている家庭料理を伝授。ママ友はもともと料理が得意だったようで、「ここにこの野菜を入れてみたらどうかな?」など、いろいろな提案をしてくれるまでに。もちろん、息子さんもママ友の料理に大喜びでした。
さらに後日、ママ友の夫から「ありがとうございました」と、新鮮な野菜やお肉をたくさんいただいたこともあって、私も心が晴れました。
子どものお弁当は、親同士が競い合うためのものではありません。豪華さよりも、子どもが笑顔で食べられること、そして栄養のバランスや食べる楽しさを伝えることのほうが、ずっと大切なのだと改めて感じた出来事でした。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。