華やかな世界を求めた元恋人と、地道に生きる私
そんな私には、かつて結婚を考えていた恋人がいました。しかし、彼女は徐々にブランド物や華やかな交友関係を好むようになり、地道に働く私のことを「地味でつまらない」と見下すようになっていったのです。
最終的に、彼女は「私と底辺じゃ住む世界が違うの」という言葉を残し、彼女が勤める大手企業の派手な先輩社員の元へ去っていきました。当時はひどく落ち込み、自分の生き方を否定されたような葛藤もありましたが、仕事仲間たちに支えられ、なんとか前を向くことができました。
それから数年。私は社内で重要なプロジェクトの責任者を任されるようになり、忙しくも充実した毎日を送っています。派手さはありませんが、自分の作ったシステムが世の中の役に立っているという実感があり、心穏やかな幸せを感じていました。
大企業のロビーで起きた、思いがけない遭遇と嘲笑
ある日、業界でも規模の大きな企業から、「ぜひ自社に導入したい」と熱烈なオファーを受けました。数カ月に及ぶ入念な打ち合わせを経て、いよいよ最終的な契約を結ぶ日。私は指定された、見上げるような高層ビルのエントランスロビーへと足を運びました。担当者が迎えに来てくれるのを静かに待っていたときのことです。
「あれ……? もしかして、そこにいるのって」
不意に背後から声をかけられ振り返ると、そこには見覚えのある顔がありました。数年前に私を振った元恋人と、彼女が乗り換えたあの先輩社員が、腕を組んで立っていたのです。
二人は私の地味なスーツ姿をジロジロと眺めると、ロビーに響き渡るような声で笑い始めました。
「ウチに飛び込み営業でもしに来たの? ウチと契約とれた?w」
「例の底辺の元カレかw 相変わらず貧乏くさいな」
「本当にね。私と底辺じゃ住む世界が違うの、まだわかってないみたい。さよならw」
彼女たちは、私がこの大企業に頭を下げて仕事をもらいに来た下請け業者だと完全に勘違いしていました。通りかかる他の社員たちが何事かと振り返る中、二人は嘲笑い続けます。かつて私を深く傷つけた軽蔑の眼差しが、再び私に向けられていました。
湧き上がる怒りと、プロフェッショナルとしての決断
「俺とは住む世界が違うんだよ。俺の会社、近いうちにあの会社を買収する予定なんだ。事業規模が一気に大きくなるから、新しいシステムを導入することになってさ。今日はそのシステム会社との打ち合わせなんだ」
彼は周囲に人がいることも気にせず、まだ公表されていない買収計画を堂々と口にしました。
「この人、その大きなプロジェクトの担当に選ばれたの。会社から期待されている証拠よ」
元恋人も彼の腕に寄り添いながら、勝ち誇ったように笑っています。
しかし私は、二人の言葉を聞きながら、別の意味で強い不安を覚えていました。
未公表の買収計画を、来客も行き交うロビーで平然と話している。しかも彼は、これから導入するシステムに関わる担当者だというのです。
このような人物に、企業の重要なデータを扱うシステムの運用を任せて、本当に問題はないのでしょうか。
二人の下品な笑い声を聞きながら、私の心の中で一つの明確な決断が固まりました。どんなに大きな利益になる相手でも、企業としての信頼関係が築けないのであれば、この契約は結ぶべきではない、と。
担当部長の登場、形勢が逆転する瞬間
私が無言で立っているのを「言い返せずに怯えている」と勘違いしたのか、二人の笑い声はさらに大きくなりました。その時です。
「君たち、そこで何を笑っているんだ!!」
フロアの奥から、血相を変えた初老の男性が走ってきました。今回、熱烈にシステム導入をお願いしてきていた、先方のシステム開発担当部長です。息を切らした部長の登場に、二人は「あ、部長。実はいま、変な飛び込み営業が……」とヘラヘラ笑いながら答えようとしました。
「何を言うんだ! その方は……!」
部長は二人の言葉を遮り、雷が落ちたような大声で怒鳴りつけました。
「この方は、うちへのシステムの導入をお願いしている、あの会社のプロジェクト責任者の方だぞ!!」
その瞬間、元恋人と先輩社員の顔から、サーッと血の気が引いていくのがわかりました。大きく目を見開き、信じられないものを見るように私を見つめています。
私は静かに口を開きました。
「部長。本日は契約書へのサインに参りましたが、先ほどこちらの社員の方から『底辺』だとご指導を受けました。来客に対し、ロビーでこのような発言が飛び交う環境は、機密情報を扱うシステムを構築する上で、コンプライアンスや情報管理の観点から非常に強い不安を感じます。」
怒鳴ることもなく、ただ淡々と事実だけを告げ、私はその場に背を向けました。
崩れ去ったプライドと、私の新しい日常
「待ってください! どうか考え直して……!」という部長の悲痛な叫び声と、呆然と立ち尽くす二人の姿を背に、「一度社内で検討し直させてください」と告げ私はビルを後にしました。
後日、業界の知人から聞いた話によると、彼らの会社ではちょっとした騒動になったそうです。
重い始末書を書かされた二人は、その期の人事評価が最低ランクまで落ち込み、社内でも「あいつらのせいでプロジェクトが頓挫した」と白い目で見られるようになり、花形部署から外され、今ではすっかり肩身の狭い思いをしているそうです。
一方の私たちはありがたいことに、私たちの理念に共感してくれる別の優良企業からすぐに良い条件でのオファーをいただき、今は新しいパートナーと共に順調にプロジェクトを進めています。
過去の呪縛から完全に解放された今、私を信じてついてきてくれるチームの仲間たちと一緒に、これまで以上に充実した清々しい日々を送っています。
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人を見た目や勝手な思い込みで判断し、見下すような態度は、いつか必ず自分自身の首を絞める結果になって返ってくるものですね。
仕事でもプライベートでも、相手への敬意や思いやりを忘れた言動は、これまで築き上げてきた信用を一瞬で崩してしまいます。どんな立場になっても決して謙虚さを忘れず、周りの人と誠実に向き合う関係性を大切にしながら生活していきたいですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。