突然の送迎依頼
義弟夫婦が新居を構えて数年がたったころのこと。ある日突然、義母から電話がかかってきました。「ねえ、明日から上の子の送迎、お願いできない? 毎朝8時に次男の家に寄って、そのまま幼稚園まで送ってあげてよ」
……いくらなんでも唐突すぎます。朝の8時といえば、こちらも出勤前でまさに戦場。とても引き受けられるお願いではありません。事情を聞くと、義弟の奥さんが2人目を妊娠し、体調を崩しているとのことでした。それを聞きつけた義母は「私が助けてあげなきゃ!」とすっかり張り切っているようでした。
というのも、義母は昔から義弟を溺愛し、義弟夫婦に良い顔をしたがるタイプ。要するに、「頼れるお義母さん」をアピールしつつ、面倒な送迎は私に丸投げするつもりなのでしょう。
「お義母さん、大変なのはわかりますが、私も仕事があって朝はまったく余裕がないんです。送迎はどうしてもできません。ごめんなさい」私がきっぱり断ると、義母は不満げにブツブツと文句を言っていましたが、なんとか電話を切りました。念のため、直後に「仕事があるため送迎はできません」とLINEも送り、既読になったことを確認しました。これで一件落着かのように思えたのですが……。
かみ合わない話
そして迎えた、例の送迎開始予定日。朝8時を過ぎたころ、義弟の奥さんからメッセージが届きました。「今朝、迎えに来てもらえると聞いていたのですが、何かありましたか? 私はお義母さんに送迎代を預けていて、『お義姉さんに渡してお願いしたから』と聞いて待っていたのですが……」
メッセージの内容に目を疑いました。私は慌てて彼女に直接電話をかけました。「ごめんなさい、私、お義母さんからお金なんて受け取っていないし、そもそも朝の送迎は仕事があるから無理だって昨日お断りしたの」「えっ!? そうだったんですか!?」あまりの食い違いに、2人とも驚くばかり。
しかし、話をすり合わせるうちに、義母への疑念が浮かびました。義母は私が断った事実を伝えず、送迎が行われなかった責任まで私に押しつけようとしているのではないか……? そして、義弟の奥さんが預けた送迎代は、いったいどこにあるのでしょうか。
「これはもう、お義母さん本人に直接確認するしかないね」そう考えた私たちは、帰宅した夫に経緯を伝え、義弟夫婦とともに義母へ事情を問いただすことにしたのです。
家族会議で判明した送迎代の行方
体調の優れない義弟の奥さんに配慮し、週末、義弟のマンションに集まって話し合うことに。リビングのソファに座るなり、まずは私が口を開きました。「お義母さん、どうして私が送迎を引き受けたことになっているんですか? それに私、送迎代の話なんて何も聞いていません」
義母は一瞬ぎくりとした様子を見せましたが、すぐに私のほうを指さして声を荒らげました。「あ、あら……、送迎代なら、この前あなたに直接渡したわよ! あなたがすっとぼけてるんじゃないの!?」
苦し紛れに罪をなすりつけようとする義母に、夫がすかさず割って入ります。「母さん、妻は送迎を頼まれた電話の直後に『仕事だから無理です』って断りのLINEも入れてるだろ。ほら、しっかり既読になってるじゃないか。ハッキリ断った人間に、どうやってお金を渡したんだよ」
義弟の奥さんも、険しい表情で義母に問いかけました。「お義母さん……。私が渡したお金は、どうしたんですか? お義姉さんには頼んだってうそまでついて……。私たち、危うくもめるところでしたよ」
義母はみるみる焦り始めました。そしてついに、「……ちょっと今月ピンチで、自分のお小遣いにしようと思ったのよ! でも、あとでちゃんと返すつもりだったのよ!」と、ばつが悪そうに視線を泳がせ、送迎代を使い込み、私に責任を押しつけていた事実を認めたのでした。
取り戻した平穏と深まった絆
義母は後日、送迎代を全額返金することに。さらに、息子たちから「今後、私たちには一切口出ししないこと」ときつく釘を刺されました。自分の都合で周囲を振り回した結果、義母は息子たちに距離を置かれ、今は少し寂しい思いをしているようです。
とはいえ、この騒動は悪いことばかりではありませんでした。話し合いの後、帰ろうとする私たちを玄関で見送ってくれた義弟の奥さんが、ホッとした笑顔で声をかけてくれたのです。「お義姉さん、今日は本当に心強かったです。これからはお義母さんを通さず、直接連絡を取りましょうね!」
この一件をきっかけに、彼女とは本音で話せるようになり、かえって絆が深まりました。今では彼女も無事に出産を終え、時折お互いの家を行き来するほど親しい関係になりました。
◇ ◇ ◇
家族や親しい人であっても、自分の都合をかなえるために利用してよい存在ではありません。相手の時間や労力にも価値があることを忘れず、頼るときほど誠実であることが大切です。互いの思いや事情に目を向け、大切にし合える関わり方を心がけたいですね。