母のために作った夕食だったのに
その日、私は朝から母のために夕食の作り置きをしていました。最近の母は、手作りよりもスーパーの弁当を好むようになっていました。少しでも栄養バランスの良い食事をとり、元気でいてほしい。そんな思いで作っていると、突然、母が怒り出したのです。
「また私に食べさせようとして! 私はあんたの作ったものなんて食べない!」
思いがけない言葉に私も腹が立ちましたが、言い返せば、お互い感情的になるだけだと思いました。私は何も言わず、気持ちを落ち着かせるために2階へ上がりました。
母のひと言に胸が締め付けられ
すると、1階のリビングから母の怒鳴り声が聞こえてきました。
「あんたなんか大嫌い!」
「もう一緒にいたくないから施設に入る!」
「ケアマネに電話して!」
そんな言葉が聞こえてきて、足が止まりました。
何でそんなことを言うんだろう……。そう思うと悲しくて、言い返す気力も失われました。
「施設だけは絶対に嫌」と言っていた母が、自分から施設に入ると言うのです。それほど私と一緒にいたくないということなのか。そんな思いが頭をよぎり、胸が締め付けられました。
理由がわかっても消えない悲しさ
数日後、落ち着いた母は「あのときは、今すぐ食べなさいと言われると思った」と話してくれました。
認知症では、時間や場所がわからなくなったり、周囲の状況や相手の意図を正しく受け止め、判断することが難しくなったりする場合があります。母にも、そうした影響があったのかもしれません。そのことは理解しています。
理由がわかっても、あの日母に言われた言葉は、今も心から消えません。
家が大好きで、「施設だけは絶対に嫌」と言っていた母を知っているからこそ、そして仲が良かったからこそ、以前とは異なる言葉を聞き、認知症が母の言葉や反応、親子の関係性まで変えてしまったように思えたからです。
認知症の影響があると理解することと、介護する家族が傷つかないことは、決して同じではないと感じています。
まとめ
認知症の症状が現れる前の母は、私にとって一番の味方でした。だからこそ、母から強い言葉をぶつけられると、認知症の影響かもしれないと理解しようとしても、簡単には割り切れません。
母にとっては「病気に言わされた言葉」だったのかもしれません。それでも私の中には、これまで積み重ねてきた親子の時間があります。今は、その絆が一方通行のように感じられる日もあります。それでも私は、認知症になる前の母を知っています。だから今日も、母の娘でいたいと思うのです。
※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。記事の内容は個人の感想です。
※本記事の内容は、必ずしもすべての状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて医師や専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願いいたします。
監修:駒形依子先生(こまがた医院院長)
著者:橘 あおい/40代女性。認知症の家族を在宅介護しながら、日々の出来事や感じたことをもとに執筆をおこなっている。自身も乳がんの手術・治療を経験しており、介護や病気と向き合う中で感じた不安や戸惑い、言葉にしづらい気持ちを、読者に寄り添いながら丁寧に言葉にすることを大切にしている。
イラスト:山口がたこ
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2026年7月)
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