「今日の商談、キャンセルで」
A課長は前職時代から、何かと僕を見下すような言動が多い人でした。独立を報告した際も、「お前が社長? まあ、半年もてばいいほうじゃないか(笑)」と鼻で笑われたことがあります。
そんなある日、A課長から突然電話がかかってきました。電話に出ると、A課長はあいさつもそこそこにこう言ったのです。
「今日の商談だけど、キャンセルで」
僕は一瞬、何を言われているのかわかりませんでした。「え? 商談って……」と聞き返そうとすると、A課長は鼻で笑うような口調で続けました。
「お前のところみたいな零細企業には荷が重い案件だろ(笑)。無理してうちと仕事しなくてもいいんじゃないか?」
突然の嫌味にも驚きましたが、それ以上に疑問だったのは、そもそもその日、A課長の部署はもちろん、普段取引のある部署とも商談の予定など入っていなかったことです。
「ちょっと待ってください。今日は御社との商談の予定なんて――」
そう言い終わる前に、「じゃ、そういうことだから」と一方的に電話を切られてしまいました。
何度スケジュールを確認しても、やはり商談の予定は入っていません。
「いったい何だったんだ……?」
気にはなりましたが、こちらには心当たりがないため、そのまま仕事に戻りました。
数時間後、別の担当者から謝罪が
その日の午後、今度は前職の別の担当者から電話がかかってきました。
「本日、弊社のAが大変失礼な連絡をしてしまったようで、申し訳ありません」
突然謝られ、僕はますます混乱しました。
「あの……今日の商談をキャンセルすると言われた件でしょうか? でも、今日は御社との予定はなかったはずですが……」
すると相手は、申し訳なさそうに事情を説明してくれました。実はA課長は、別の会社との商談に出る予定だったそうです。ところが、スケジュールに登録されていた社名を見て、僕の会社だと思い込んでしまったのだとか。
本来の商談相手は、僕の会社と同じ業界で、社名の一部もよく似ていたそうです。
A課長は詳しい内容を確認しないまま、「僕の会社との商談だ」と決めつけ、勝手にキャンセルしようとしたようでした。
しかも、A課長は僕に電話をしたことで「先方にはキャンセルを伝えた」と思い込み、本来の商談相手には何の連絡もしないまま、約束の場所にも現れなかったとのこと。
約束の時間になってもA課長が来ないため、先方から会社に問い合わせが入り、そこで初めて商談相手を勘違いしていたことが発覚したそうです。
「こちらの確認不足でご迷惑をおかけしました。本当に申し訳ありません」
そう謝られましたが、僕としては実際に商談をすっぽかされたわけではありません。それでも、A課長が相手を僕の会社だと思った途端、内容も確認せず一方的に断ろうとしたことには、なんとも言えない気持ちになりました。
勝手な思い込みの代償
後日、前職時代から付き合いのある知人と話す機会があり、あの日の件について少し聞きました。
A課長がすっぽかしたのは、今後の取引につながる大事な商談だったそうです。先方は当然かなり怒っており、取引の話はいったん見送られることになったのだとか。
さらに、A課長が相手企業や案件の内容をきちんと確認しないまま、勝手な判断で商談をキャンセルしようとしたことも社内で問題になったそうです。
以前からA課長は、相手の立場や会社の規模によって態度を変えるところがあり、周囲から注意されることもあったとのこと。今回の一件も重なり、しばらくして別の部署に異動になったと聞きました。
僕だけでなく、今の会社まで軽く見られたことに腹立たしさはありました。けれど今回の出来事を通して、会社の規模や肩書だけで相手を判断することの危うさを改めて感じました。
僕自身も、どんな相手や仕事に対しても思い込みで判断せず、一つひとつ誠実に向き合っていきたいと思っています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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