昔は、脂っこいものや甘いものを食べると母乳がドロドロになり、乳腺をつまらせて乳腺炎になることがあるので控えるように、と指導されていた時代がありました。現在でも、その指導が根強く残っていることもあり、母乳をあげているママが、おっぱいのために揚げ物やケーキなど脂肪分の多い食事を控えているというお話を聞きます。また、その他にもおっぱいのために控えているものもあり、それがストレスに感じているママもいるようです。
授乳中の食事制限が本当に必要なのでしょうか? 母乳育児の専門家である国際ラクテーションコンサルタントとしてお答えします。
ママの食事は母乳の成分に影響する?
母乳育児には、通常より負荷した栄養が必要です。日本人の食事摂取基準では、プラス350kcalとされています。総摂取カロリーが1500kcal以上であれば、母乳量は減少しません。また、余分に食べても母乳量は増えないとされています。
ママたちが気になっている食事中の脂肪ですが、摂取量によって母乳中の脂肪酸組織が変化します。また、食事による摂取だけでなく、もともとママがもっている体内の脂肪の貯蔵量が多いと、母乳中の脂肪成分が多くなることがあるます。一方、たんぱく質やビタミンB12、ナトリウム、カルシウム、鉄などは、食事やママの体内の貯蔵量に影響されることはなく母乳中の成分は一定であるとされています。
揚げ物や甘いものを食べると乳腺炎になる?
先ほどもお話した通り、食事により脂肪の摂取量が増えると母乳中の脂肪成分も増えることがあります。しかし、母乳(成乳)の脂肪球の直径は2.0〜6.0μmと小さく、母乳中において脂肪球同士がくっついてしまうということはありません。
母乳の出口である、乳管は出口に近い部分は2mm程度で脂肪球の直径の300倍以上であり、射乳反射で飛び出す時は約58%拡張します。そのため、母乳中の脂肪成分が増えても、乳管をつまらせるほどの影響はないといわれています。
カフェインの母乳への影響は?
カフェインは、母乳中に移行して、移行量が多いと赤ちゃんが眠らなくなったり落ち着かなくなったりするなどの症状がみられることがあります。成人に比べて新生児は半減期(半分に代謝される時間)が長く、とりすぎに注意しましょう。
特に生後3週未満の児や早産児はカフェインの代謝が遅いためより少なめにしましょう。それ以降でしたら、1日1〜2杯程度のコーヒーを飲んでも影響は少ないといわれています。
アルコールと食事に含まれるアルコールの母乳への影響は?
アルコールは、分子が小さいために母乳中へ移行しやすいのですが、アルコール10g以下(ビール250ml、ワイン100ml、日本酒80ml)であれば問題ないとされています。アルコールは通常2〜2.5時間で血中から消失します。もし飲むのであれば、授乳したあとにほんの少量程度に留めておき、その後の授乳は3時間くらいあけると安心ですね。
しかし、アルコールの代謝は個人差があること、アルコールは母乳分泌抑制作用があるために、慢性的な飲酒は避けましょう。ノンアルコールのビールやカクテルなどもたくさん販売されています。食事やお菓子に含まれるアルコールに関しては、少量であり、加熱していればアルコール成分は飛んでいることもあるため、あまり気にされなくても大丈夫かと思います。
授乳中は、カロリー消費が多く通常よりプラスした栄養が必要です。寝不足や育児ストレスなど蓄積しやすい時期かと思います。食事制限によるストレスなく、美味しい食事やおやつで、毎日頑張っているママへのご褒美として、元気を回復させたいものですね。
<引用・参考文献>
日本ラクテーションコンサルタント協会 第45回母乳育児支援学習会in東京
山本よし子「Q脂肪の多いものを食べると乳管がつまる?(母乳の生化学)」
日本ラクテーションコンサルタント協会 第43回母乳育児支援学習会in東京
田中奈美「産後の母親の健康 薬、食事、不妊治療など」
日本ラクテーションコンサルタント協会 第39回 母乳育児支援学習会in東京
齋藤朋子「母乳と薬剤〜とりあえず母乳はやめましょうと言わない支援者になろう〜」