正社員になった私と、ゲームざんまいの夫
夫はなんとか新しい仕事を見つけたものの、給料は以前よりも少なくなってしまいました。家計に余裕がなくなり、マイホームのために続けていた貯金も難しい状況に。
そこで私は、当時パートとして働いていた職場に相談し、正社員登用を目指すことにしました。
ただ、正社員になれば勤務時間が長くなるため、これまでのように私ひとりで家事や育児をこなすのは難しくなります。そのため、夫に保育園のお迎えや帰宅後の娘の世話をお願いしたのですが……。
「無理だよ、そんなの! 俺だって仕事で疲れてるんだから」
夫はそう言って、まともに話を聞こうともしてくれませんでした。
娘が生まれたばかりのころは、「やっぱり自分の子はかわいいな」と喜んでいた夫。しかし、実際の育児にはあまり積極的ではありませんでした。
以前、私が親友の結婚式に出席するため、数時間だけ娘の世話をお願いしたことがありました。ところが、帰宅すると娘は大泣きしており、夫はその横で眠っていたのです。
そんなこともあったため、夫に育児を任せることに不安がありました。
結局、私は保育園の延長保育を利用しながら、正社員として働き始めることに。朝から夕方まで働き、娘を迎えに行ってから帰宅すると、待ち受けているのは夕食の準備や洗濯などの家事。
一方、私より早く帰宅していた夫は、洗濯物を取り込むことすらせず、ソファでゲームをしてばかり。
「おかえり! 腹減ったから早くメシ作ってよ!」
私が娘を連れて帰ってきても、そんな言葉をかけるだけ……。何度か家事の分担について話し合おうとしたものの、夫はいつも同じような返事を繰り返しました。
「俺は家事が苦手なんだってば。そういうのわかって結婚したんでしょ?」
苦手だからといって、何もしなくていいわけではありません。
私だって仕事で疲れていましたし、娘の世話をしながらすべての家事をこなすのは大変でした。それでも夫は、私の負担を減らそうとはしてくれなかったのです。
そんなある日、帰宅早々、いつものように夕食を催促された私は、とうとう我慢の限界を迎えました。
「少しくらい家事や育児を分担してよ! 私だってフルタイムで働いてるんだよ!? どうして全部私がやらなきゃいけないの!」
そして、その日の夫の夕食には、買い置きしてあったカップ麺を渡しました。夫は不満そうな顔をしていましたが、私はそれ以上何も言わず、娘の世話を続けました。
夫からうれしい提案!しかし旅行当日……
翌朝、夫が珍しく真剣な顔で話しかけてきました。
「昨日のこと、俺なりに考えたんだけどさ。毎日仕事も子育ても大変だろ? 今度、温泉に行ってゆっくりしようよ!」
突然の提案に、私は驚きました。
夫はさらに、「旅行代もなんとかするからさ。これからもおいしいごはんを作ってほしいし」と続けました。
最後の言葉は少し引っかかりましたが、私の大変さを少しは理解してくれたのかもしれないと思いました。それに、家計のことを考えると旅行など当分無理だと諦めていたので、素直にうれしかったのです。
「ありがとう。楽しみにしてるね」と言って、私は久しぶりに、夫に笑顔を向けました。
ところが、旅行当日――。
温泉地の最寄り駅に到着して改札を出ると、そこには遠方に住んでいるはずの義両親と、夫の親戚たちが待っていたのです。
思いがけない顔ぶれに驚き、夫に事情を尋ねると……。
「ああ、旅行代を母さんに相談したんだよ。そしたら、せっかくだからみんなで行こうって話になってさ!」
夫は悪びれる様子もなく、そう答えました。
私を労うための旅行だと聞いていたのに、いつの間にか親族旅行になっていたのです。しかも、義父は私たちの顔を見るなり、夫にこんな言葉をかけました。
「仕事も家事も育児も頑張ってるんだってな。大変だろうけど、偉いじゃないか!」
私は耳を疑いました。
話を聞くと、夫は義母に「仕事をしながら家事や育児も頑張っているので、少し息抜きがしたい」と相談していたようなのです。それを聞いた義母が、旅行代の援助を申し出たのだとか。
実際には、夫は家事や育児をほとんどしていません。それなのに、自分ばかり頑張っているかのように話していたことがわかり、私はあきれてしまいました。
ただ、義両親や親戚たちは、夫が普段ほとんど家事や育児をしていないことを知らず、久しぶりの家族旅行を楽しみにしている様子でした。その場で事情を説明して雰囲気を壊すのもためらわれ、私はひとまず旅行に参加することにしたのです。
しかし、すぐにその判断を後悔することに……。
旅館へ向かう途中、みんなでソフトクリーム店に立ち寄ったときのこと。夫は私に荷物番を頼み、親戚たちと一緒にソフトクリームを買いに行ってしまいました。私は娘を抱っこしながら、家族3人分の荷物を見ていました。
しばらくしてソフトクリームを買って戻ってきた夫。私がソフトクリームを受け取ったちょうどそのとき、娘が急に体を動かしたのです。とっさに娘を抱き直そうとした私は、受け取ったばかりのソフトクリームを地面に落としてしまいました。
すると夫は、私に代わって娘を抱っこしてくれるどころか、不機嫌そうな顔でこう言いました。
「はぁ? せっかく買ってきてやったのに、何やってんだよ!」
ソフトクリームを落としたことよりも、夫の言葉のほうがずっと悲しく感じられました。
そのまま夫は自分のソフトクリームを食べ続け、私は娘を安全なところに座らせて、落としてしまったソフトクリームの後始末。
私を労うための旅行だと言っていたはずなのに、どうしてこんなに気をつかってばかりなのだろう……。そう考えると、せっかくの温泉旅行を楽しむ気持ちも薄れてしまいました。
温泉に入る暇もない私。義母に事情を打ち明けると…
旅館に到着すると、夫は「先に温泉に入ってくる!」と言い残し、ひとりで大浴場へ。私は部屋で娘の着替えを済ませたり、荷物を整理したりと、相変わらず慌ただしく過ごしていました。
夕食の際も娘の食事を手伝うのは私の役目。夫は親戚たちとの会話やお酒を楽しんでいました。
その後、娘を寝かしつけていると、夫は親戚たちと旅館のバーへ。酔って部屋に戻ってきたころには、私はすっかり疲れきっていました。
翌日も状況は変わりませんでした。
夫は何かと私に荷物番や娘の世話を任せ、自分だけ観光を楽しんでいたのです。ついに我慢できなくなった私は、娘が眠っている間に、夫を部屋の外へ呼び出しました。
「ねえ、今回の旅行って、私を労うためのものだったよね? 私、まだ一度もゆっくり温泉に入れてないんだけど……」
すると夫は、面倒くさそうにため息をつきました。
「せっかく旅行に来たんだから、そんなことで文句言うなよ。嫌なら帰れば?」
その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが切れました。これまで何度も家事や育児の大変さを伝えてきましたが、夫は私の気持ちを理解しようとしてくれませんでした。
今回の旅行でも、私のことなど少しも考えていなかったのです。
「……わかった。じゃあ、娘と帰るね」
私はそう告げると、部屋に戻って荷物をまとめました。そして娘を連れてロビーへ向かうと、売店でお土産を見ていた義母に声をかけられたのです。
「どうしたの? そんな大きな荷物を持って」
私の様子を見て、何かあったのではないかと心配してくれた義母。私は少しためらいましたが、思い切ってこれまでの事情を打ち明けました。
夫が普段から家事や育児に協力してくれなかったこと。今回の旅行も、私を労うためだと聞いていたこと。そして、旅行中もほとんど娘の世話を任され、夫から「嫌なら帰れば」と言われたこと。
話しているうちに、それまで我慢していた気持ちがあふれ、思わず涙が出そうになりました。
義母は驚いた表情をしつつも、最後まで私の話を聞いてくれました。そして、深いため息をついたのです。
「そんなことになっていたなんて……。息子は、自分が家事も育児も頑張っているから、たまにはゆっくりしたいって言ってたのよ」
夫が家ではほとんど何もしていなかったことを改めて伝えた私。すると義母は、怒りを隠せない様子でした。
「自分ばかり大変な思いをしているように話して、あなたには全部押しつけていたのね。情けないわ……」
そして、私に向かって頭を下げました。
「久しぶりの家族旅行がうれしくて、あなたが大変な思いをしていることに気づかなかったわ。ごめんなさい」
私は慌てて首を振りました。義母に謝ってもらいたいわけではなかったからです。
しかし、義母は続けて、こんな提案をしてくれました。
「せっかく来たんだから、少しでもゆっくりしていってほしいわ。もちろん、無理に引き止めるつもりはないけれど……。息子とは私たちからも話をさせて」
義母は義父にも事情を伝え、夫と話し合ってくれることになりました。それまで義母との関係は悪くありませんでしたし、夫の言動を真剣に受け止めてくれたこともうれしく感じました。
私は少し考えた末、その日は帰らず、もう一度部屋に戻ることにしたのです。
ようやく温泉を満喫!
私と娘が部屋に戻ってしばらくすると、義両親から呼び出された夫が部屋に戻ってきました。夫は私の顔を見るなり、不満そうに話し始めました。
「なんだ、結局帰らなかったんだ。さっき父さんたちに急に呼ばれてさ、いろいろ言われたんだけど……。あ、お茶淹れてくれない? 熱すぎないやつね」
そのとき、夫の後ろから一緒に部屋へ入ってきた義母が、厳しい口調で言いました。
「お茶くらい自分で淹れなさい! あなた、さっき私たちが話したことを何もわかってないの?」
夫は驚いたように振り返りました。義父もあきれた様子で、夫に注意しました。
「お前は奥さんが毎日どれだけ大変な思いをしているかわかっているのか。仕事をしているのはお互いさまだろう」
さらに義母は、「今まで家事や育児を任せきりにしていたんだから、旅行中くらいはあなたが娘の面倒を見なさい」と言いました。そのうえで、私にはやさしく声をかけてくれたのです。
「娘ちゃんのことは心配しないで。私たちも一緒に見ているから、あなたは温泉でゆっくりしてきて」
私はありがたく、その言葉に甘えることに。
久しぶりに時間を気にせず温泉に浸かると、張り詰めていた気持ちが少しずつほぐれていきました。温泉を出たあとは、ひとりで近くのお店を見て回り、娘へのお土産を選びました。
ほんの数時間でしたが、自分のペースで過ごせたのは本当に久しぶりのことでした。
部屋に戻ると、夫がぐったりした様子で座っていました。聞けば、私が外出している間、娘の食事や着替えなどを夫が中心になって行い、義両親が必要に応じて手伝ってくれていたそうです。
夫は私を見るなり、「子どもの世話ってこんなに疲れるんだな……」とつぶやきました。
すると義母が、すかさず言いました。
「それを奥さんは毎日やっていたのよ。少しは大変さがわかったでしょう?」
黙り込んだ夫を見ながら、私はこれをきっかけに少しでも夫が変わってくれたらと思いました。しかし、翌日、夫の口から信じられない言葉が飛び出したのです。
夫の本音を聞いて決意したこと
旅行最終日、チェックアウトを済ませたあと、義母が夫に話を切り出しました。
「今回の旅行代は私たちが出したけれど、あなたは奥さんを労うための旅行だと言って誘ったんでしょう? それなのに、自分だけ楽しんでいたなんて……」
義母は、今回の旅行について夫に反省を促しました。そして、これからは家事も育児も夫婦で協力するように、と伝えてくれたのです。
ところが夫は、不満そうな表情を浮かべました。
「昨日はちゃんと面倒見たじゃん! それなのに、まだ俺に育児をやれって言うの?」
義母が「昨日1日だけじゃ意味がないでしょう」と返すと、夫はさらに衝撃的な発言をしたのです。
「そもそも俺、子どもってそんなに好きじゃないんだよ。これからもずっと育児をやらなきゃいけないのかと思うと、正直嫌なんだけど」
私は言葉を失いました。
夫が育児に消極的なことは、これまでも十分にわかっていました。しかし、娘の父親である夫が、これほどはっきりと育児を拒むとは思っていなかったのです。
義両親も驚いた様子でした。
義父が「自分の子どもだろう。好き嫌いで責任を放り出していいわけがない」と諭しましたが、夫は納得していない様子。そんな姿を見て、私はようやく決心がつきました。
「……わかった。そこまで育児をしたくないなら、もう一緒に暮らしていくのは難しいと思う。離婚する」
夫は驚いていましたが、私の気持ちは変わりませんでした。
これまでも何度も助けを求め、そのたびに期待を裏切られてきました。今回の旅行で改めて、夫には私の大変さを理解しようとする気持ちがないのだと感じたのです。
義母も、私の決断を無理に引き止めようとはしませんでした。
「本当に申し訳ないことをしたわ。娘ちゃんのこともあるし、これからのことはきちんと話し合わないとね」
その言葉に、私はうなずきました。
帰宅後、私は娘との今後の生活について考え、離婚に向けた準備を始めました。まずは自治体の法律相談を利用し、財産分与や養育費、親権などについて確認。そのうえで、夫と話し合いを重ねました。
最初は離婚を拒否していた夫でしたが、私がすでに気持ちを固めていることを理解したようで、最終的には離婚に同意。娘の親権は私が持ち、養育費についてもお互いの収入などを踏まえて金額や支払方法を決め、取り決めを書面に残しました。
こうして、私たちは結婚生活に終止符を打ったのです。
離婚後、元夫は勤めていた会社を辞め、遠方にある実家へ戻ったそう。その後は地元の工場で働きながら、実家の農業も手伝っていると聞きました。
一方、私は勤務先に相談して社宅へ引っ越し、娘との新しい生活を始めました。生活に不安がなかったわけではありませんが、毎日のように夫の言動に振り回されることがなくなり、以前よりも気持ちに余裕が生まれました。
義母とは離婚後も時々連絡を取り合い、娘の成長を喜んでくれています。
あの温泉旅行は、私にとって決して楽しい思い出ばかりではありませんでした。それでも、夫との関係を見つめ直し、自分と娘のこれからを考えるきっかけになったことはたしかです。
これからは娘との時間を大切にしながら、私自身も笑顔で過ごせる毎日を築いていきたいと思っています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。