先天性筋性斜頸とは
先天性筋性斜頸とは、耳の下から鎖骨の根本に向かって伸びている筋肉である「胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)」が拘縮することにより、頭部が傾く状態です。
生後約1週間で胸鎖乳突筋部にこぶを確認できることが多く、生後2~3週に渡って徐々に硬く大きくなっていきます。こぶは自然に軟らかく小さくなっていき、生後数カ月から1歳くらいまでには改善することが多いとされています。しかし、こぶが硬くなったままの場合もあり、改善がみられない場合は2~3歳までに手術が必要とされています。
筋性斜頸は、首が向かない方向へ向かせようとしても、非常に動きにくい状態です。こぶがない方向へ顎が向き、こぶがある方向へ頭部が傾きます。右側の胸鎖乳突筋にこぶがある場合は、顎が左に傾くため、顔全体としては右に傾いて見えます。左側の胸鎖乳突筋にこぶがある場合は、顎が右に傾き、顔全体は左に傾いて見えます。斜頸を放置すると、時間の経過と共に頭部が変形し、脊椎(せきつい)が側弯(そくわん)したり、傾いている方向へ目や眉が引き伸ばされたりします。
斜頸は、こぶと顔の向きを確認するだけで容易に診断できますが、向きぐせとの鑑別が必要です。なお、首のこぶだけ確認できて、首の運動制限がみられない場合には、頸部のリンパ節の炎症による腫れや甲状腺腫瘍などを疑わなければなりません。
また、斜頸には筋性斜頸のほかに次のような種類があります。
・骨性斜頸(こつせいしゃけい)
頸椎や胸椎(きょうつい)に先天性の奇形があることで、首が傾きます。
・炎症性斜頸(えんしょうせいしゃけい)
中耳炎や扁桃炎などの炎症が頸椎におよぶことで起こる斜頸です。そのまま固まってしまうこともあり、入院をしてけん引療法をおこないます。
・眼性斜頸(がんせいしゃけい)
眼の運動に関わる筋肉の異常によって斜頸になります。何かを集中して視ることで首の傾きが大きくなるため、テレビなどを見るようになる生後6カ月以降に発見されることが多いです。
いずれの場合も放置することでさまざまな問題が発生する恐れがあるため、首を傾けていることが多いと感じたら、自己判断せずに受診しましょう。
先天性筋性斜頸の原因と発生率
先天性筋性斜頸の原因は明らかになっていませんが、おなかの中の赤ちゃんの胸鎖乳突筋の圧迫説が有力です。発生頻度は100人に2~3人とされており、右側にやや多いとされています。なお、発生頻度に男女差はありません。
先天性筋性斜頸の治療法は? 手術は必要?
これまでは先天性筋性斜頸の治療は、マッサージなどがおこなわれていましたが、斜頸を起こしている側を軽く伸ばすように寝かせて、経過観察することが多いようです。また、こぶがある側(赤ちゃんが向けない方向)から赤ちゃんをあやしたり授乳したりして、自発的に向けない方向へ向けさせるようにします。近年では新生児期からのストレッチが有効とする報告もあるようですが、日本では普及していません。
1歳6カ月を過ぎても改善がみられない場合は、手術を検討します。首のしわに沿って切開するため、比較的手術の痕は目立ちにくいとされています。術後は、首を安静にするために4~5日は入院し、退院後は首を固定するカラーを装着します。手術をおこなう時期は、2~3歳ごろです。
わずかな斜頸であるために放置して、全身に悪影響が及ぶケースもあります。小学校に入学したぐらいになって斜頸が気になるということで受診し、筋性斜頸の診断を受けたケースもあるようです。子どもの顎が左右のどちらかに傾いて運動が制限されている場合には、ほかの病気との鑑別をするためにも受診することをおすすめします。
家でのケアの方法や気を付けること
無理なマッサージは斜頸の悪化を招き、手術が必要となるケースがあります。そのため、自宅では赤ちゃんに自己流でマッサージを施すことなく、専門機関にかかることが大切です。
まとめ
赤ちゃんの先天性筋性斜頸は1歳6カ月ごろまで経過観察をして、改善がみられない場合は手術を検討します。それまでは、赤ちゃんが向けない方向を向かせるように、あやしたり授乳したりしましょう。無理な力を加えたり自己流のマッサージをしたりしてはいけません。医師の指示に従って赤ちゃんの経過を見ていきましょう。
<参考>
・日本整形外科学会「斜頚」
・『小児臨床看護各論』(医学書院)
・『NICUマニュアル 第5版』(金原出版)