不妊治療のために仕事を辞める「不妊退職」。厚生労働省やNPO法人Fineの調査によると、日本では働きながら不妊治療をしている女性の4〜5人に1人が不妊治療と仕事の両立ができずに退職したという結果に。
さらに、不妊退職による国内の経済損失額は1,345億3363万円に上ることが明らかになっています。
不妊治療と仕事の両立が困難な理由
NPO法人Fineが2015年(※1)、2017年(※2)に実施した不妊治療と仕事の両立に関するアンケートでは、両立が困難と答えた人がそれぞれ92%、96%という結果に。また2018年の厚生労働省による「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査研究事業(※3)でも「両立が困難」と答えた人が87%と、不妊を取り巻く労働環境に大きな変化は見られませんでした。「両立ができずに退職した」と答えた人は、Fineの調査では約20%、厚生労働省の調査結果は23%と、働きながら不妊治療をしている女性の4〜5人に1人が不妊治療と仕事の両立ができずに退職したという結果が出ています。
なぜ不妊治療が仕事と両立しづらいのでしょうか。理由は、突発的で頻回な通院にあります。これは不妊治療が“女性の生理周期”に合わせて進められるためです。女性の生理周期は個人差もありますが一般に25~38日ぐらいで、複数のホルモンの複雑な相互作用によって調節されているため、毎月一定ではありません。そのため事前に通院日が決定できないことが多く、先の予定が立てにくいのです。また、同じ人が同じ治療をおこなっていてもそのときの体調によって生理周期も変わりますし、薬の効き目なども変わるため、治療スケジュールを立てにくいのです。
そのうえ、最も高度な治療(体外受精や顕微授精)をおこなっても出産率は12%程度(※4)で、治療を続けていれば妊娠・出産できるというものではありません。「これ以上周囲に迷惑をかけられない」と自ら退職を選ぶ女性もいれば、上司や周囲からのプレ・マタニティハラスメント(※5)によって退職を選択せざるを得ない人もいます。そして多くの人が「自己都合退職」として退職の理由を明かさないため、不妊退職の現状が企業側に見えていないことも大きな課題です。
(※1)NPO法人Fine「仕事と治療の両立についてのアンケート」調査結果報告(2015年)
(※2) NPO法人Fine「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート Part 2」結果速報(2017年)
NPO法人Fine「仕事と不妊治療の両立に関するアンケート Part 2」結果(2017年)
(※3) 平成29年度 厚生労働省 不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査研究事業
(※4) 生殖補助医療による出生児数(2017年累計出生児数)は『日本産科婦人科学会雑誌第71巻第11号』より引用
(※5)NPO法人Fine「プレ・マタニティハラスメントについて」
企業には見えない、不妊退職の経済損失
※NPO法人Fineプレスリリースより抜粋
実際に不妊退職による経済的損失はどれだけのものなのでしょうか。Fineでは、第一生命経済研究所による「出産退職の経済損失」の試算(※6)を参考に、不妊退職の経済損失を試算しました。その結果、企業活動の付加価値が1,345億3,363万円(※7)減少していると推定することができました。この数値には退職者への育成費用や新規人材雇用のための費用は含まれていませんので、見えない不妊退職による企業の経済損失はさらに増えると推定できます。
見えない不妊退職を防ぐためには、不妊治療についてや当事者の負担を正しく知り、不妊治療と仕事の両立に関するサポート環境を充実することが必要となっています。これは不妊治療にかかわらず、男女や年齢問わず、闘病や介護、育児の両立を支援する体制作りにつながると考えています。
(※6) 第一生命経済研究所 ニュースリリース「出産退職の経済損失1.2兆円」
(※7)NPO法人Fine プレスリリース「不妊治療の理解を求める国会勉強会を開催!」