将来の妊娠に向けて、卵子を凍結保存しておく「卵子凍結」。「いつかは産みたい」と考える女性の一手として水面下で語られてきたトピックが、菅首相が少子高齢化対策の切り札として掲げる「不妊治療の保険適用」に関する報道が増えたことも相まって、広く知られる言葉になったのではないでしょうか。
実際にベビーカレンダーがおこなった調査において、75%以上が「耳にする機会が増えた」と回答しています。
そんな「卵子凍結」について女性たちはどう考えているのでしょうか?今回の記事では、ベビーカレンダー会員の女性2,127名に向けて実施した卵子凍結に関するアンケート調査結果についてご報告いたします。
「卵子凍結」とは?
そもそも卵子凍結とは、将来の妊娠・出産に向けて事前に卵子(未受精卵)を採取し、凍結保存しておくことです。もともとは、抗がん剤治療や放射線療法を受ける若年女性患者に対し、治療後の生殖能力を維持するためにおこなわれてきたものでした。
こうした背景もあり、健康な女性による将来のための卵子凍結に関しては、日本産婦人科学会は「推奨していない」、日本生殖医学会は「40歳以上での採卵・凍結、45歳以上での凍結卵子の使用は推奨していない」といった立場を取っており、現状日本では大々的に推奨されているとは言いがたい状況です。
卵子凍結に「興味あり」は37.7%、年代別で変化も
上記のような前提はあるものの、日本産科婦人科学会のデータ(※1)によれば、体外受精・顕微授精の妊娠率・出産率は35歳から急低下することが明らかになっているなど、“卵子の老化”が妊娠・出産に影響を与えることもまた事実。
(※1)参考:日本産科婦人科学会 ARTデータブック2018
生物学的な事実と社会的見解のはざまで、当事者である女性たちは卵子凍結についてどう考えているのでしょうか。
ベビーカレンダーがママやプレママを母体とする会員の女性2,127名におこなった卵子凍結に関する調査で、「卵子凍結に興味はありますか」と質問したところ、下記のような結果となりました。
「興味がある」(「とても興味がある」「やや興味がある」の合計)と回答した人は37.7%、「どちらともいえない」は31.0%、「興味がない」(「あまり興味がない」「まったく興味がない」の合計)は31.3%と、「興味がある」が最も多い回答となったものの、ほぼ同率で回答が割れるという結果に。
ただ、回答を年齢別に抽出してみると世代ごとに傾向が変わることが明らかになりました。
まず20代は「興味がある」と回答した人は23.2%にとどまったのに対し、「興味がない」と回答した人は47.9%と「興味がある」の2倍以上に。一方「興味がある」と回答した30代は37.2%、40代は39.0%となり、年代を追うごとに卵子凍結への興味関心が高まることがわかります。
続いて、「興味がある」と回答した方にその理由について質問したところ、下記のような結果となりました。
「将来的に2人目、3人目を考えているから」(62.0%)、「次に妊娠をする場合、高齢になる可能性があるから」(54.4%)といった回答がそれぞれ半数以上を占め、妊娠・出産が高齢になった場合に備えて可能性を高めておく一つの手段として考えている方が多いことがわかります。
費用、身体的負担、本当に妊娠できるのか
―卵子凍結のデメリットは
将来の妊娠・出産に向けた一つの解決策として期待される卵子凍結ですが、そのデメリットについても指摘されています。
アンケートで「卵子凍結について不安に感じる点」について質問したところ、下記のような声が挙げられました。
「費用が高額になりそう」(87.1%)という経済面の懸念が最も多く、次いで「採卵時の痛みなど、身体的な負担」(51.4%)、「凍結卵子を使って本当に妊娠できるか」(49.8%)が続く結果となりました。
アンケートの回答にある通り、卵子凍結は高額な費用といった経済的負担、採卵時や投薬時の身体的・精神的負担がデメリットといえます。さらに、そうした負担を乗り越えて凍結した卵子は凍結時の若い年齢のものではあるものの、その卵子が受精するか、また受精しても着床に至るかは当然ながらわからないもの。実際に、凍結した未受精卵の融解卵子1個あたりの臨床妊娠率は4.5~12%(Fertility Steril 2013; 99: 37-43)というデータもあります。
しかし、こうしたデメリットを含め「まず情報が欲しい」というのが女性たちの本音のよう。アンケート調査のフリー回答では下記のような声が寄せられました。
「最近はメディアでも文言は出てきたが、詳しい内容までは全然周知されていないので、もっと身近に情報が増えればいいなと思う」(35〜39歳)
「女性に選択肢を増やすことは卵子凍結に限らずいいことだと思う。ちゃんとメリットデメリットなど全て情報提供されることが重要」(35〜39歳)
「もっとニュース等で取り上げて良いトピックだと思う。また、それに付随する精神的、肉体的、経済的デメリットも併せて伝えるべき」(30〜34歳)
メリット・デメリットをきちんと認識したうえで、自分で判断したいと考える女性の声が目立ちます。
卵子凍結を扱う民間サービスも登場
卵子凍結の話題が広まりつつあるなかで、民間の卵子凍結保存サービスも登場しています。その一つが、健康な女性が自身の将来のライフプランのためにおこなう卵子凍結を提供するサービスの開始を、2021年1月に発表した「Grace Bank」です。
Grace Bankの創業者・勝見祐幸さんによると、現状の利用者として多いのは「30代半ば〜40代の未婚者の女性」だと言います。
また、Grace Bankの特徴の一つとして挙げられるのがその「価格」です。10年間でかかる卵子の保管費用の相場が60万〜200万円と言われるなか(※2021年、Grace Bank調べ)、同社では初期費用10万円(税別)、毎年発生する費用3万円(税別、15個まで)と低価格に抑えられています。
これは民間さい帯血バンクの最大手ステムセル研究所との資本業務提携と、凍結卵子の一括保管体制の確立により実現できたとのことです。
民間企業が卵子凍結を取り扱う事例としては、アメリカでの「企業の福利厚生としての卵子凍結」サービスの存在も挙げられます。2014年にFacebook社が導入したことを皮切りに、GAFAをはじめ他企業も追随しました。
こうした背景もあり、実際に米国生殖補助医療学会の統計によるとアメリカでは2014年から2018年にかけて卵子凍結の症例数が2倍(6,090件/2014年⇒13,275件/2018年)に急増しています。
赤ちゃんを望む人が、赤ちゃんと出会える世の中になるために
民間企業の動きも見られ、ますますの関心の高まりが予想される卵子凍結。本アンケートでは「『卵子凍結』に関して、ご意見・ご感想・疑問点などあれば、ご自由にお書きください。」というフリー回答を募集したところ、20代〜40代の幅広い世代の女性から「若い世代が知る機会」に言及するコメントも多数寄せられました。
「まだ20代で卵子を凍結しておこうと考える人は少ないと思うし、考えている人しか情報を知る機会が無いと思う。卵子凍結について未婚の方が友人と話すこともなかなかできないと思う。今後卵子凍結が一般的な選択肢の1つになり、多くの方が気兼ねなく自分のタイミングでゆとりを持って子どもを授かれるようになれば良いな、と思います」(30〜34歳)
「晩婚化に伴い不妊治療をおこなう人が増えている今、卵子凍結の情報(どのようなものか、料金など)をもっと公表していくべきだと思う。その結果、まだ妊活していない人も将来の選択肢として考えることができるのではないだろうか」(25〜29歳)
「必ずしも良いことではないかもしれないが、卵子凍結や高齢出産のリスクについては学校で教えてくれてもいいと思う。今の世の中では自分から知ろうとしないとわからないことだらけ。知識がないために泣いている女性はたくさんいると思う」(40〜44歳)
「もっと不妊治療や、子供を授かることに関しての技術がポピュラーになり、政府の援助もしっかりして、子どもを授かりたいと願う人すべてに充実した制度が整い、いろいろな事をオープンにできる社会になればと思う」(25〜29歳)
「妊活、不妊治療、卵子凍結などの知識を若い世代にももっと知ってもらうべきと考える。いざ自身が興味を持つ頃には遅いので、10代から学校などで知る機会を与えてあげると良いのではと感じる」(40〜44歳)
少子高齢化問題の改善といった社会的意義のみならず、赤ちゃんを望む人が赤ちゃんと出会える世の中になるために。その選択肢を一つでも増やすには、若い世代を含めて卵子凍結についてメリット・デメリットを周知したうえでオープンに議論を進めていくことが、いま求められているのではないでしょうか。
<調査概要>
調査対象:株式会社ベビーカレンダーが企画・運営している「ファーストプレゼント」「おぎゃー写真館」「ベビーカレンダー全員プレゼント」のサービスを利用された女性
調査期間:2021年3月21日(日)~2020年3月23日(火)
調査件数:2,127件