妊婦さんの中には、「会陰切開をしないでほしい」、「帝王切開はしたくない」という希望を挙げられる方がいます。もちろん、医療者側も産婦さんに不必要な医療行為はしたくないという思いがあります。しかし、会陰切開や帝王切開が避けられない場合もあるのです。
今回はなぜする必要があるのか、どういうときにおこなうのかなどについてマンガで解説していきます。
会陰切開はどうしてするの?
会陰とは、女性の腟口と肛門の間の部分です。出産のとき、この部分が赤ちゃんの頭で強く伸ばされます。会陰切開とは、分娩のときに会陰が裂傷を起こすのを予防したり、分娩時間を短縮して母体と赤ちゃんの安全を確保する目的で、あらかじめ会陰を小さく切開しておくことです。裂傷がひどいと、排便障害や性交時痛などの後遺症が残ることがあります。
過去には、ほとんど全員に会陰切開をおこなっていた時代もありました。しかし、最近では1人ひとりの会陰の状態や分娩経過などに応じて必要性が判断され、必要な場合に選択しておこなうことが多くなっています。会陰切開が必要かどうかの判断は、分娩直前におこなわれることがほとんどです。
会陰切開が必要となる例としては、下記の例があります。
① 会陰部の伸展が不十分で、裂傷が大きくなりそうな場合
② 胎児の状態がよくなく、早急に分娩が必要な状況で会陰の伸展が悪い場合に時間がかかってしまうと予測される場合
③ 鉗子分娩や吸引分娩などの必要がある場合
④ 巨大児分娩や肩甲難産(胎児の肩が恥骨に引っかかって出られない)が予測される場合
会陰切開は、産婦さんの7割程度にされていると言われています。
帝王切開はどういうときにするの?
帝王切開には、予定帝王切開と緊急帝王切開があります。予定帝王切開は、逆子や多胎、前置胎盤など胎盤の位置異常、子宮筋腫など子宮を切開した手術のあとなどで、経腟分娩が難しい場合におこなわれます。また、前回の分娩が帝王切開の場合は、次の分娩も帝王切開になることが多いです。
予定帝王切開の場合は、事前に日程が決まり説明や検査などの準備ができるため、心身の準備をすることができます。しかし、緊急帝王切開の場合は時間が限られるため、説明も最低限のものとなり、突然のことに気持ちの整理がつかない場合も多いです。
分娩の進行中に緊急帝王切開に切り替わるものとしては、胎児にストレスがかかり心拍が下がってきたり、分娩がなかなか進まなかったり、母体の血圧の上昇や子癇というけいれん発作、胎盤剥離の兆候があるなど、母体や胎児の救命や安全のために緊急に分娩を終了させる必要がある場合です。
厚生労働省によると、一般病院での分娩数に対する帝王切開の割合は、2017年は25.8%、2020年は27.4%と言われています。また、現在はもっと増えているのではないかと予想されています。
会陰切開や分娩方法などは希望が通らないことも
医師や助産師は、胎児と母体の安全を第1に考えるので、会陰切開や帝王切開などをおこなわないといけないこともあります。緊急時は十分な説明ができない場合も多く、そのときの状況で可能な限りの説明はしています。バースプランに、「会陰切開をしないでほしい」「帝王切開はしたくない」と書かれていても、ご希望通りにいかない場合もあるということを理解してもらいたいです。
出産時は、予想できないようなことがいろいろ起こります。そのような中で、赤ちゃんと母体の安全のために、医師や助産師は会陰切開や帝王切開が必要か判断しています。万が一に備えて、心構えだけでもしていただけるといいかなと思います。
作画:はたこ