わざわざごあいさつに来ていただいたのに…
そのご夫婦が入居されたのは、私が第2子を出産した直後。生まれたての娘の泣き声が迷惑にならないかと心配でした。夫と話して、私たちから真下のお部屋にごあいさつに行こうかと話していたほどです。
そんな矢先、インターホンの録画にそのご夫婦と思われる2人の姿が映っていました。それも2度もです。どちらの日もタイミング悪く私は授乳中、夫が不在のとき。後日こちらからごあいさつしようと決めました。
正直、奥様の第一印象は怖かった
「401号室の者です。先日来ていただいた際に、出られず失礼しました」。マンションの駐車場で見かけた奥様に私は話しかけました。突然のことで驚いたのか、彼女は無表情のまま軽くうなずくだけでした。
せっかくお会いできたのだからと思い、そのまま私は続けました。「うちには小さな子が2人いまして。うるさいかと思いますが、これからよろしくお願いします」。彼女はほとんど表情を変えることなくうなずき、サッといなくなりました。もしかして、もう嫌われている……? そう思ってしまうくらい、そっけない態度でした。
夜9時に聞こえる昭和歌謡に笑ってしまう!
あれから、もう数カ月。小さなマンションですので、どのご家族とも顔見知りではありますが、いまだに真下の部屋の方に会うと厚い壁を感じます。それでも、私は知っているのです。その奥様が本当は陽気な人であることを!
夜9時ごろ、私は静かな部屋で子どもを寝かしつけながら、下のご夫婦の楽しげな声を聞くのが好きなのです。会話の内容は聞こえませんが、仲睦まじい雰囲気と美しい歌声はたしかに届いています。奥様の歌う「瀬戸の花嫁」、いつも楽しみにしていますよ!
マンションの真下の部屋に引っ越して来られたご夫婦の奥様は、怖いくらいにクールな方。初めてのごあいさつから何度かお会いしてはいますが、まだ打ち解けられていません。でも、ご夫婦の部屋から聞こえてくる様子はとても楽しそうで、昭和歌謡を豪快に歌い上げる奥様の意外な一面も知っています。その歌声を聞くたびに思うのです。うちの子どもの泣き声も大目に見てくれているといいな、なんて。
著者:おかもとえみ
1歳男児、0歳女児のママ。接客業や事務職、広告制作会社を経て現在は主婦ライター。ずぼらでマイペースな子ども好き。