ラーメン店の厳しい現状
彰が営むラーメン店は開業してからわずか半年で、売り上げが最悪の状況に直面していました。おいしいラーメンを提供しても、客足がなかなか伸びず、他よりも安いはずの家賃も支払いが厳しくなってきました。頑張って仕込んだものを廃棄するのももったいないので、最近の食事は毎日自作のラーメンばかり。
「おいしいんだけどなぁ……」
店を始めたころは、立地が悪いこの場所でもおいしいラーメンを作ってさえいればどんどんと客が増えてくるものだと思っていましたが、現実はそんなに甘くありませんでした。
ラーメン評論家の登場
「いらっしゃいませ!」
ある日、40代くらいのお客さんがラーメン店に現れました。店に入るなりニヤニヤしながら店内を見わたしたり、メモ帳を取り出してせっせと書き込みを始めたり。普通のお客さんと様子が違うのは明らかです。彰はインターネットにうといのでわかりませんでしたが、その人は『ヤッスーの一日一麺・忖度なしのメッタ切り!』というブログを運営している有名人でした。ラーメン評論家として有名な安田は、醤油ラーメンを注文しました。
「はい、お待ちどうさまです!」
ラーメンができ上がると、カウンター越しにラーメンを提供しましたが安田は手を出さず、黙って見ているだけ。そして「チャーシューは?」とひと言。有名人が来たときは、言われなくても醤油ラーメンをチャーシュー麺に昇格させるのが筋だと主張します。
そうか……有名人が来たときにはチャーシューのおまけが必要なのか。なんだか納得いかない気もしましたが、安田の評価が店にとって大きなチャンスであると感じた彰は、ここぞとばかりにチャーシューをたっぷりとトッピングした、特別なラーメンを提供しました。
安田は見返りを要求してきて…
無言でラーメンを食べ続ける安田を、彰はかたずを飲んで見守ります。味には自信があるけれど、評論家は何て言うだろうか。俺のラーメンにどんな判定を下すのだろうか。そのときの彰はテストを返される前の高校生のような気分でした。
スープまで全部飲み干すと、「あ~、マズかった!」と、安田は大声で言いました。おまけに、「食ったのを後悔するくらいひどいラーメンだったw」とまで付け加えます。
彰の目には涙がにじんできました。自信を持って提供していたラーメンが、最低最悪のひどいラーメンだったなんて……。しかし、安田はとんでもない提案をしてきます。見返りをよこせば、ブログに良い感想を書いてやると。
彰は迷いました……。
有名なラーメン評論家に褒めてもらえば、俺の店には客が増えるかもしれない。そうすれば廃業しなくて済むかもしれない。しかし、安田からの提案には乗らず「ブログにはお客さんの思ったとおりの感想をお書きください」と返事をする彰。店に来てくれたお客さんには、本当に心の底からおいしいと思ったときにだけおいしいと言ってもらいたいという気持ちが勝ったのです。
「最低の評価を下してやるからなっ!」
彰が思ったような返事をしなかったため、安田は怒りながら店を出ていきました。
ある女性の告発
安田が店にやって来てから1週間。相変わらず店には客がいません。もうやめちゃおうかなぁ……。そんな考えも巡り始めます。そこに小柄な女性がひとり入ってきました。注文したのは醤油ラーメン。
張り切って作り上げ、提供すると……?
「最低な店ね」
と、ひと言。続けて「ブログには麺は伸びきっててスープは変なにおいがする、おまけに店は清掃が行き届いてなくて店内には嫌な黒い虫が行列を作っているって書いてあったけど……実際は違う」と女性は言います。どうやら安田は、ありもしないことをブログに書いていたようです。
そしてその女性は、ラーメンを食べ終えると「この店を最高の行列店にして差し上げます」と宣言しました。
逆転に成功
3カ月後、安田が再び店を訪れると、店の前には大行列ができ、店内はにぎわっています。安田は、店の前の順番待ちの大行列を見て驚きます。「な……ななな……なんで……」。そうつぶやき、店先でワナワナしている安田に声をかけたのは、例の女性でした。
「良い口コミを書いてやるから見返りをよこせ、そうでなければ店に最低評価をつけてやる! ってオーナーを脅して、金銭を巻きあげたのはあなたでしょう!」
安田はこの件がきっかけで悪事が明るみに出てしまい、ブログ閉鎖に追い込まれました。さらに借金地獄に陥り、海外での仕事を余儀なくされたのです。女性が店にやってきてからの3カ月、彰は女性のアドバイスに従い、看板を工夫して宣伝方法を改善しました。
実はその女性、有名なグルメサイト『パニナビ』の運営会社の人で、彰の店を訪れたときに「最低」と言い放ったのは、「味は最高なのに、立地と宣伝方法が最低で損をしている」という意味だったのです。『パニナビ』では今後、経営コンサルも展開する予定で、彰の店がそのロールモデルに選ばれました。
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不正行為に立ち向かい、真実と正義が勝利したエピソードですね。お客さんに喜んでいただけるよう地道な努力を惜しまないことが、のちの大きな一歩につながるのだと考えさせられます。
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