10年間にわたり、同居して義父の介護を続けてきた私たち。その私たち夫婦の荷物がすべてまとめられ、廊下に出されていました。
遺産は全部私のものよ!
すべては葬儀にも顔を出さなかった義姉のしわざ。10年ぶりに実家に帰ってきたという義姉は、「とっととこの家から出て行ってね」「一代で会社を築き上げた父が建てた立派な大豪邸よ!そして今日からここは長女である私のものw」とわが物顔でふんぞり返っていました。
さらに、義姉は弟の嫁である私のことも気に入らない様子。「高額なお小遣いを父にもらって、しょっちゅう国内旅行に出かけていたんでしょ?」「これだけがめついと、ぶっちゃけ本当に介護していたのか怪しいわw」と言いたい放題でした。
「遺産は弟夫婦に1円も渡さないわ!」
「父の豪華な遺産はぜーーーんぶ私が独り占めよw」
「夫は既に相続放棄しました」
「マジ?ラッキー?」
夫が既に相続放棄していることを伝えると、義姉は大喜び。介護を私たち弟夫婦に丸投げし、葬儀にも顔を出さなかった義姉に思うところはありましたが、私はそのまま義父と暮らした家を後にしました。
遺産はどこ!?
翌日――。
「父の遺産はどこに隠したのよ!?」と義姉から連絡が。すべての口座の残高をかき集めてもたったの数十万円、あとは相続した実家のみ。そのことに気付いた義姉は焦った様子で、「アンタたち弟夫婦が隠したんでしょ!」と言いがかりをつけてきたのです。
「誓ってそんな不誠実なことはしていません」と言っても、義姉は聞く耳を持ちません。埒が明かないと思った私は、隣にいた夫にバトンタッチ。夫が「落ち着いてくれよ、姉さん」「本当に遺産はそれだけなんだ。遺産はほとんど父さん自身が使い切ったんだよ」と言うと、喚いていた義姉もようやく静かになり、夫の話に耳を傾けてくれました。
時は遡って、10年前――。
義父は交通事故を起こし、怪我を負いました。その怪我により、足腰が弱くなって、私たち夫婦が同居・介護をすることになったのです。
昔から仕事一筋で、趣味もなかった義父。しかし、怪我を負ったことにより、義父は「人はいつどうなるかわからない」と考えを改めたらしく、さまざまな趣味や集まりに手を出し始めました。
最初は私たち夫婦もあたたかく見守っていたのですが、驚いたのはそのお金の使い方。たとえば、釣りに興味を持つと、一流品を揃えるところから始める義父。ひとつの趣味を始めるたびに、初期投資に数百万円かけることもざらだったのです。
しかし、もとは義父のお金。私たちは口を出すべきじゃないと、ただ見守りに徹していました。
義姉は、私が義父からお金を巻き上げて国内旅行三昧だったと思い込んでいたようですが、それも勘違い。趣味を一通り楽しんだ義父は、今度は「亡くなる前に初恋の人に会っておきたい」「疎遠になった親友に会いに行って謝りたい」などと言い出し、私を連れて、全国を回り始めたのです。
会いたい人がどこにいるかから、交通手段、宿泊予約まで、義父は私に丸投げ。それなりに良いところには泊まりましたが、足腰の弱い義父を連れての旅行は、私にとってはストレスでしかありませんでした。
夫から義父が遺産を使い切った経緯を聞いた義姉。「こんなばかばかしい散財で遺産が消えていたなんて……」と意気消沈したかと思えば、「どうしてくれるのよ!私の計画が!古民家カフェの夢が消えちゃうじゃない!」と再び怒り出したのです。
前々から義父に古民家カフェへの出資を頼んでいたという義姉。しかし、事業計画が甘すぎると断られ続けていたそうです。
しかし、それもだいぶ前の話。数年前から義父の認知症は一気に進行し、経営のセンスも鈍り、会社も赤字続きに。その頃の義父なら、きっと義姉にも即出資していたでしょう。
会社に影響が出始めたころから、私たちも義父に引退を促していました。しかし、「絶対に社長の座は渡さない!」と義父はギリギリまで居座り、赤字の補填のために義父の財産は費やされることに。なんなら借金まで抱えていたのです。
義父の借金のことを夫から聞かされた義姉は、「う、嘘でしょ、返済終わってないの?」とうろたえるばかり。夫が「終わるわけないだろ、1億もあるんだぞ」と返すと、「なんですって!?」と義姉は悲鳴を上げました。
そう、これこそが夫が相続放棄をした理由。負の遺産なんて相続するだけ無駄なのです。
強欲嫁は助けない
1カ月後――。
夫が会社経営をしていると、どこからか聞きつけたらしい義姉。「ずるい方法でお父さんの会社を手に入れたのね!」とまくしたててきます。
義父が亡くなった後、すぐに倒産した義父の会社。そこの失業した社員に声をかけて、夫はイチから会社を立ち上げたのです。
それを聞いてもなお、「ずるい!会社が順調なんだったら金をよこしなさい!」と理不尽な要求をしてくる義姉。「すみません。私は強欲嫁なので助けません」と返すと、義姉は戸惑った様子。
義姉に「がめつい」「お金目的」と言われたことを根に持っていた私。夫婦2人で稼いだお金は、絶対に義姉に渡したくありません。せめて介護に少しでも手を貸してくれていたら……。義姉には一銭たりともあげたくありません。
なおも下手に出ようとする義姉でしたが、私は「さようなら、あなたに構っている時間はないんです」とメッセージを切り上げました。
私たち夫婦は会社を軌道に乗せ、ようやく2人でゆっくり過ごせる時間を手に入れられました。今度、夫婦水入らずで旅行へ行ってきます。