「ベストセラーの漫画家先生が来る合コンだから、絶対来て!」「いつも通り地味な格好で私の横に座ってねw」と、私を合コンでの引き立て役に使おうとした幼なじみ。もとから行きたくなかったのですが、その日は大切な予定があり、きっぱり断りました。しかし、私が向かった先には幼なじみの母親がいたのです。
引き立て役はもうたくさん
昔から私を引き立て役として使ってきた幼なじみ。中学校でも高校でもミスコンの引き立て役として出されて、周りからは「身の程知らず」とのレッテルを貼られてしまいました。
成人してもなお、私を引き立て役として合コンに呼ぶ幼なじみに、私はげんなり。その日は有名な漫画家が来るとのことで、かなり気合が入っていたようです。
「アニメとか映画になれば使用料みたいなのも入るだろうし、忙しいからこっちにも干渉されなさそうだしw」「結婚に必要なのは経済力よ!今日来る漫画家さえ捕まえられたら、私の人生はバラ色なの!」と言いたい放題。
男性を経済力でしか判断できない幼なじみ。私は生活を共にしてくれるパートナーが欲しいので、考え方が根本から違うのです。
その日はたまたま外せない用事があり、私は幼なじみの誘いをきっぱり断りました。そして、金輪際、幼なじみからの誘いには乗らないと告げました。
すると、幼なじみは「おこぼれいらないの?」「後悔しても知らないから!あとで紹介してって言ってきても絶対紹介しないからね!」と未練がましくメッセージを送って来たのでした。
「どこにお勤め?年収は?」
翌日――。
珍しく、幼なじみの母親からメッセージが届きました。
「昨日の夜、このお店にいなかった?」「一緒にいた男性ってもしかして彼氏?」
たまたま幼なじみの母親もそのお店に来ていたそう。私が正直に「一緒に食事していたのは彼氏というか婚約者です」と答えると、幼なじみの母親は「まさかうちの娘より先に結婚するなんて……」とびっくりした様子。
「どこにお勤めなの?」「年収は?」「ご出身は?」「今はどこに住んでらっしゃるの?」「どこで知り合ったの?」「腕時計やカバンも良いものだったじゃない。どんな人なの?」
質問の嵐に、今度は私がびっくり。「結婚後にあらためて報告します」と言っても、不服そうな幼なじみの母親。念のため、結婚の話は私本人から幼なじみに伝えたい、と言いましたが、この様子ではすぐに伝わってしまうと思いました……。
数時間後――。
私の予想通り、幼なじみの母親は幼なじみに話してしまったようでした。幼なじみから怒涛の着信とメッセージが来ており、私は諦めて返事をすることに。
「ふざけんじゃないわよ!私より先に結婚とか!」「ママから写真みせてもらったけど、あんたに釣り合わないイケメンじゃない!」
幼なじみの母親はこっそり私たちを盗撮していたようです。この親にしてこの子ありだと思ってしまいました……。
「そのうち話そうと思ってたけど、結婚する予定で話を進めています」「挙式もするつもりよ」と返すと、「どこでするの?」と食いついてきた幼なじみ。
「今のところハワイが濃厚かな、身内だけ集めてこじんまりとした式にしたくって」と私が言うと、「ハワイですって!?」「その婚約者と結婚式、私によこしなさい!」と幼なじみはとんでもないことを言い出したのです。
「ハイブランドで身を固めてるし、顔も申し分ないし、私の方がふさわしいわよ」「こないだの合コンも結局漫画家は来なかったし、ママからもらった情報であんたの彼氏突き止めてサクッともらっちゃうわw」
私が覚えている限り、彼氏はハイブランドの服を着ていなかったと思うのですが……。私が詳しくないだけでしょうか。
それにしても、私を引き立て役にするだけでなく、私の婚約者まで奪おうとするなんて。「大事な時期だから変なことしないで」と送りましたが、そのメッセージはしばらく未読のままでした。
お互いの彼氏の正体
3カ月後――。
「元気?」「なわけないよねーw」と、幼なじみからのメッセージ。大事な日に限って、彼女はこういう連絡をしてくるのです。
「あんたの婚約者は私が奪って現在進行形で私と一緒にいるもんねw」
「彼だけじゃなくてハワイ挙式乗っ取ってゴメンねw」
「は?都内で挙式中だけど」
「え?」
そう、今日は私たちにとってとても大事な日。結婚式当日なのです。身内だけで小さな式を挙げようと言っていたのですが、婚約者側の知り合いから「頼むから盛大に開いてくれ」「ぜひ招待してくれ」と言われ、都内で式を挙げることにしたのです。
「え……?あんたの婚約者って有名人なの……?」と幼なじみ。私の夫は、幼なじみの合コンに来る予定だった漫画家だったのです。夫曰く、「漫画が売れ出してから、女の子を集めるために勝手に名前を使われるようになった……」とのこと。
出版会社勤務の私は、夫の担当編集者を務めていました。二人三脚で漫画をベストセラーまで押し上げ、そのままお付き合いをはじめてゴールイン。現在はベテラン編集者が夫についてくれているので、私は退職して主婦業で夫を支えるつもりです。
「じゃあ、私の隣にいるこの人は誰なの……?」すっかり勢いがなくなってしまった幼なじみ。
「そういえば……お義兄さんがあの日、夫にお金を借りにお店まで来たわね」「ハイブランドを身にまとった、借金持ちで見栄っ張りのお義兄さんよ」
幼なじみの母親が撮影したのは、おそらく義兄。「弟にできるなら俺にもできる!」と言って脱サラし、借金をしながら漫画を描いていますが、鳴かず飛ばず。義兄の奥さんは子どもを連れて出て行ったそうです。しかし、見栄っ張りな義兄は漫画を描くことをやめず、借金を繰り返してハイブランドを買い漁る始末。
夫の意向で、今日の私たちの結婚式に義兄は招待していません。
「こんな男なんていらないわよ!」「なんで私の理想をあんたが手に入れるのよ……」と悔しがる幼なじみ。
「昔から私のことを見下してるし、それが今も変わらないことも再確認できたから、夫に迷惑がかかる前に縁を切らせてもらうね」「もう利用されるのも嫌、さようなら」
人の婚約者を奪おうとする幼なじみなんて、もう私には必要ありません。
その後――。
結局、幼なじみは義兄とともに実家に転がり込んだそう。義兄は幼なじみとその母親が稼いだパート代も使い込んでいるようで、母親が私に泣きついてきました。「私に力になれることはありません」ときっぱり断り、私は幼なじみと、ついでに幼なじみの母親の連絡先をブロックしました。
今、私は家庭に入り、多忙な漫画家の夫を支えています。他人に利用されないよう、これからも気を付けて生きていこうと思っています。