産後、母乳育児をするためには食生活をチョットがまんした方がいいと言われ、妊娠中に好きなものはたっぷりと食べた。家事がめんどうになってきた妊娠後半には、外食で済ますこともたびたび。つらく長い道のりを乗り越えて、迎えたお産。それを乗り切れば、みんなからの祝福、実家での至れり尽くせりの生活……と明るい未来が待っている。
「やっと会えたね。これでひと安心。これからママがたっぷりおっぱい出すからね」と、なにも疑問に思うことなく、母乳育児をスタートしたというママも多いのではないでしょうか。今日は、母乳育児をスムーズに進めるために知っておきたい、ママと赤ちゃんの体の仕組みと、5つのポイントについてお伝えします。
お産後、すぐに母乳はたくさん出ない
母乳を出すホルモンは、すでに妊娠中からママの体中を駆け巡っています。でも、母乳が分泌しないようにカギがかかった状態といえるでしょう。赤ちゃんが生まれ、胎盤が出ると、少しずつカギがはずれていきます。
おっぱいを「母乳工場」にたとえて説明しましょう。原料はママの血液。お産後、まだ動きの悪いベルトコンベアーで、商品の母乳が少しずつできてきました。しかし、工場のスペースは小さく、母乳もあちこちに散らばり、乱雑です。
一方、赤ちゃんは母乳を飲む力は弱いけれど、赤ちゃんにしかできない動きで舌を使い、工場の隅々にまで散らばった少しの母乳を片付けていきます。工場がきれいに片付くと、母乳工場は拡張され、さらに母乳がつくられていきます。
ベルトコンベアーの動きは、お産後2日から2日半には活発になってきます。やっと赤ちゃんは、まとまった量の母乳を飲めるようになります。もし、赤ちゃんができあがった母乳の片付けをしないまま、工場が拡張されれば、おっぱい全体の張りが強くなってしまうといえるでしょう。
赤ちゃんは3日分のお弁当と水筒を持参して生まれてくる
どんな動物でも、赤ちゃんは生きる力を持っています。生まれたばかりでもじゅうぶん乳首を吸う力があり、どんな形の乳首でも、それがはじめてならそれなりに吸えるでしょう。
おっぱいを吸えば、たとえ1滴2滴の母乳でも、母乳工場であるおっぱいのなかはきれいになっていきます。「体重が何g増えたか」なんて考えずに、ママと赤ちゃんのリズムでおっぱいを吸わせていくと、赤ちゃんは2日目あたりには大量の胎便と少ない母乳によって、スリムになることもあります。
でも、赤ちゃんは、たとえるなら「3日分のお弁当と水筒」ともいえる、水分と皮下脂肪を持って生まれてきているので大丈夫。2~3日目には母乳の量は増えていき、効果的におっぱいを吸うことができれば、赤ちゃんは少しずつ大きくなります。
母乳を吸わせるとママの脳からはホルモンが分泌され、元気が湧いてきます。そのホルモンはママに良質な睡眠とパワーを与え、その力で夜中でも元気に授乳することができるんです。
母乳で育てたいと思ったら……
赤ちゃんを母乳で育てたいと考えている妊娠中のママは、以下の5つのポイントを実践してみましょう。
1、妊娠中から栄養バランスのとれた食事を摂るよう心がける
2、お産直後からおっぱい吸わせる。その後は赤ちゃんと離れず、2~3時間以内におっぱいを吸わせる
3、3日目に母乳分泌の増加がみられなければミルクを足してもいいが、あきらめずに母乳を吸わせ続ける
4、リラックスと睡眠、水分補給を心がける
5、母乳のことを相談できるサポーターを探す
お産すれば自動的に母乳育児ができる……というのは、少し難しい話かもしれません。妊娠中からの心構えと少しのがんばりが必要になります。がんばりすぎは、ママにも赤ちゃんにもよくありません。ママのこころとからだと相談しつつ、母乳育児をすすめていきましょう。
助産師資格取得後、国立病院、日赤病院、大学病院などで助産師として勤務。現在は母乳相談室を開設するかたわら、ベビーカレンダーで医療系の記事執筆・監修に携わる。助産師一筋、2児の母。