会社規定の昼休みの時間を過ぎても、戻ってこない後輩。いつものことなのですが、その日は私の同期がその後輩にクライアントの引継ぎをする予定だったはず。同期は後輩の姿が見つからず、おろおろしていました。
不真面目な後輩
仕方なく、後輩に「どこにいるの?もう昼休みは終わってるわよ」とメッセージを送った私。すると、「大丈夫でーす!あと少ししたら戻るんで!」との返信が。自分が悪いことをしているという自覚はないようです。
「毎日人より休憩時間を多く取っているわよね?」「引継ぎの準備をしてくれている先輩を待たせないで」と苦言を呈すと、「そんなに怒らないでくださいよ~。今日は事情があったんですから!」と後輩。
「今日のランチ、なんと彼氏が一緒なんです♡1時間だけの休憩じゃ満足できませんよね?楽しくて時間過ぎちゃう気持ち、わかりません?」
業務内の休憩時間に、彼氏と優雅にランチを楽しむなんて……。あまりとやかく言いたくはありませんが、できるだけプライベートの時間にやってほしいと思ってしまいます。
「あと~、誕生日プレゼントで彼から高級ブランドのバッグをもらったんです♡」「プレゼントねだってるわけじゃないですからね?」「今の彼、社長ですっごくお金持ちみたいで、このまま寿退社して専業主婦になっちゃおっかな~なんて」
役職持ちの私に対し、こういった形でいつもマウントを取ってくる後輩。入社してから最初のうちは猫をかぶっていたようですが、仕事を他の人に押し付け、不真面目で周囲の反感を買っていました。しかし、本人はどこ吹く風。
「寿退社をする予定なら、最低でも1カ月前には伝えてちょうだいね」「あと、できるだけ早く戻ってきなさい!」とだけ送って、私は自分の仕事に戻りました。
私の誕生日なのに……
1週間後――。
その日は私の誕生日。夫と一緒に食べようと、張り切って料理を作っていました。しかし、待てど暮らせど、夫は帰ってきません。しびれを切らした私は「帰りは何時ごろになりそう?」とメッセージを送りました。
すると、「今日は帰れないかも……」との返信が。「取引先が朝まで飲むぞって意気込んでてさ……」「かなり大きな仕事を持ってきてくれる可能性があるから、断れないんだよ」と言った夫。
せめて、夫にお祝いしてもらいたくて、「今日何の日か覚えてる……?」と尋ねてみると、「え、なんだっけ?」と返されました。「私の誕生日だよ……」と返すと、焦ったように「あっ」「本当にごめん!」「この埋め合わせはするから!」とメッセージが連投されました。
そういえば、この間の結婚記念日も同じやり取りをしたような……。夫婦仲は良い方だと思っていたのですが、私の思い込みだったのでしょうか。
数時間後――。
だいぶ夜も更けてきたころ、「先輩~、起きてますかぁ?」と後輩からメッセージが。「先輩、今日誕生日ですよね?もしかして旦那さんにお祝いしてもらえなくて起きてたとか?」と、図星をついてきた後輩。
私も自嘲気味に「察しがいいわね(笑)」と返しました。すると……。
「てかてか、先輩の旦那さんってお金持ちなんですね♡」「ごめんなさ~い、先輩の旦那さん、今私の横で寝てます」「先輩の旦那さん、私の彼氏なんですよ。浮気してるのに全然気づかなくておもしろかった~!」
愕然として返信できない私に、さらに後輩が追撃してきます。
「先輩の旦那さん、左肩にほくろありますよね。信じられないなら写真送りましょうか?」「『慰謝料請求されても俺が払うから結婚してくれ』ってさっきプロポーズされたんです♡」「先輩が誕生日にひとりぼっちでかわいそうで……女として同情しちゃったんで今日教えてあげることにしたんです」
後輩はいつもガミガミ怒っている私を疎ましく思っていたそう。私は社会人として必要なことを教えていたつもりだったのですが……。上司の夫を寝取って、立場が逆転したと思い込んでいるようです。
「上に話してもいいの?あなたが不倫していたこと」と聞くと、「どうぞどうぞ。私は結婚して幸せな家庭をつくるので、もう会社に未練なんてないでーす」とどこまでも不真面目な後輩。
「ってことで早く離婚してくださいね!」「私すぐにでも子どもを産んで、若い美人ママになりたいんです」「先輩はこれからの孤独ライフ楽しんでくださ~い」
最後まで後輩は言いたい放題。旦那が不倫していて、しかもその相手が私の後輩……。突然のことで、私の感情もぐちゃぐちゃに。その晩はなかなか寝付けませんでした。
真実の愛の末路
翌朝、不倫がバレたことを知らず、呑気にケーキを買って帰って来た夫を、私は問い詰めました。夫もバレてしまっては仕方がないと思ったのか、「ごめん……」と謝ってきました。しかし、続く言葉に私は耳を疑ったのです。
「お前が悪いわけじゃないんだ、あの子と出会って恋に落ちたことが原因なんだ……」「神様ってほんとひどいことするよな……」「この愛は本物だから……あの子が僕の運命の人なんだ!」
脳内がお花畑になっている夫。気持ちの整理がつかず、離婚という選択肢を遠ざけていた私ですが、一気に気持ちが冷めてしまいました。
「あの子が早く結婚したいって言ってるから、一刻も早く別れてほしい」「お前が出した条件は全部飲むからさ」という夫。すっかり冷めてしまった私は、「弁護士を雇ってその人にすべて手続きしてもらうから」とだけ言いました。
「ありがとう!俺、本当にお前と結婚できてよかった」「一生は無理だったけど、支えてくれてありがとう」「何か困ったことがあったらすぐに連絡してくれ、できるだけのことはするから」と夫から感謝の言葉が次々と飛び出しますが、今の私には何ひとつ響きません。
「あんたにはもう二度と連絡しない、助けてもらうこともない」「だからもう絶対に私の前に現れないで」と言って、私はそのまま夫を家から追い出しました。
1カ月後――。
私が夫を追い出した翌日に退職届を出した後輩。その後輩から「本日無事に入籍しました♡」とメッセージが届きました。
「おめでとう、良かったわね」と返すと、「強がりですか~?」と相変わらずな様子。「先輩って魅力ないから仕事に打ち込むしかないんですもんね?」「だから旦那さんを盗られちゃうんですよ?」「幸せになりたいなら私を見習った方がいいですよ~?」といつも以上に私のことを見下してきます。
「実は妊娠もしてたんです♡」
「お金持ち社長との子どもだから将来安泰だぁ~😆」
「借金まみれの個人事業主との子育てキツいだろうなぁ」
しばらく間が空いて、「ん?どういうこと?」と返信が。「あぁごめんごめん、ついしゃべっちゃった」「気にしないで~」と返したものの、元後輩は「教えなさいよ!」と気になって仕方がない様子。
「あなた、ずっと勘違いしているけど、私の元夫はお金持ちじゃないわよ」「社長だったのは事実だったけど、借金を背負って倒産したの」「今は個人事業主で、経営はガタガタよ」
「意味がわからないんですけど」「高級ブランド品だって買ってくれるし、有名レストランだって連れて行ってくれるし……」と、後輩はあくまでも元夫にお金がないことを認めたくないようでした。
元夫が「もう一度会社を興したい」と言ったので、私は投資や資産運用を勉強。私がせっせと稼いで、起業資金として渡していたはずのお金は、元後輩へのプレゼントに使われていたのでした。
そんな元夫は、私への慰謝料を払うために車を売ったそうです。足りない分は義両親に泣きついて立て替えてもらったそう。事情を知った義両親は私に平謝り。「あんなろくでもない息子とは縁を切るから、困った時はいつでも私たちを頼りなさい」とまで言ってくれたのです。
「こんなの結婚詐欺じゃない!」「どうして早く教えてくれなかったんですか?!」と憤る元後輩。そんなことを言われても……勝手に金持ちだと勘違いした元後輩が悪いのです。
「豪華な産婦人科で出産して、子どもが1歳くらいになったらハワイで結婚式を挙げて、そのまま新婚旅行に行く予定だったのに!!」「もう計画がめちゃくちゃ!!」と喚く元後輩。悲惨さで言ったら、尽くしてきた夫を部下に奪われ、誕生日に略奪宣言された私の方が上じゃないでしょうか?
「いりませんあんな人!私が望んでいた人じゃない!返します!」と言われましたが、返品不可。クズ夫と不真面目な部下を一気にお払い箱にできたので、私はせいせいとしていました。
3年後――。
元夫の裏切りでひどく心を傷つけられた私ですが、今は新しいパートナーと暮らしています。新しい家族として猫をお迎えし、2人と1匹で幸せな日々を送っています。
私はどこかで「元夫をずっと支えていかなければならない」というプレッシャーを感じていたのかもしれません。その重圧から解放してくれた元後輩には、少しだけ感謝しています。