その日もフードコートで食事をしていた私。すると、隣に座っていた男性が食べかけの餃子とポテトフライを置いて席を立ちました。すると、すぐに別の親子がその席に座ったのです。
勘違いして食べただけ…?!
「さぁ、お食べなさい!今日も節約よ!」と母親らしき女性が言うと、男の子は「餃子だ♪」と嬉しそうに食べ始めました。しかし、あっという間に「そろそろ行くわよ!」と食事をやめさせようとします。そこに、席を立った男性が戻ってきて、おそるおそる親子に近づいてきました。
「それ、俺のですよね? なんで食べているんですか……?」と、男性は声をかけました。どうやら、あとから来た親子は男性の知り合いではないようでした。
母親は男性を夫と見間違えたと言い「夫が自分たちの分を注文しておいてくれたと思って、勘違いして食べてしまった」と主張します。
そんなことある? と半信半疑でしたが、男性がこれ以上大ごとにしなかったので、私も特に何も言うことなく、フードコートをあとにしました。
食い逃げの手口
それから数日後。例のフードコートで騒いでいる別の男性を見かけました。見知らぬ男の子にラーメンを食べられたと言っていて、ふと見るとそこには先日の親子が……。同じように「夫と見間違えた」と言っていますが、相手はこの間の男性とはまったく違った風貌をしています。
そこで私はピンときました。「夫と間違えた」と言って、他人が頼んだ料理を食べてしまうのが、あの親子の手口だったのです。結局、大した金額ではないということで、その男性も大ごとにはせず、その場を去りました。
少額の被害に対して、警察に被害届を出すのが面倒だという気持ちもわかります。あの母親は、この心理に付け込んでいるのでしょう。このままでは、あの親子はいつまでも野放し状態です。
私のお気に入りの場所で、そんな悪事が繰り広げられているなんて、気分の良いものではありません。そこで私は考えました。
罠にかかった!
1カ月ほど経ったある日、フードコートではいつものように親子がターゲットを探して歩いていました。私は料理を買ってテーブルにつき、電話をするフリをして席を離れました。男の子の好みは把握済みです。餃子にチキン、オムライス……私のテーブルはさぞかし魅力的だったに違いありません。
予想どおり親子が私の料理を食べ始めました。おおかた、友人や姉妹に似ていて間違えたとでも言うのでしょう。
親子に背を向けて、電話をするふりをし続ける私。当分戻って来ないと見越した母親は、どんどん食べ進めるように促します。しかしテーブルにはレコーダーが仕掛けられています。親子の会話はすべて録音しているので、私とは顔見知りでないことや、「戻って来るまでに食べてしまえ」と息子に指示した母親の言葉を証拠として押さえたのでした。
すっかり変わった息子
私が電話を切った素振りを見せると、いつものように立ち去ろうとした親子。しかし私は逃しません。事情を話し、見張ってくれていた警備員と共に、親子を追いかけました。母親はお決まりの「知り合いと間違えた」という言い訳を繰り広げますが、私には証拠があります。警備員に録音した音声を渡し、あとの対応はお任せしました。
この話には後日談があります。
母親の指示で他人の食事を盗み食いしていた男の子のことが気にかかっていた私。なんと1年後、同じフードコートで再会を果たしたのです。男の子は私のことを覚えていたようで、ハッとした顔で駆け寄り「あのとき、叱ってくれてありがとうございました。おかげで自分が悪いことをしていると気付くことができました」とお礼を言ってくれたのです。
母親の言うことをすべて信じていた息子は、今になって自分がやってしまったことの重大さに気付き、悔やんでいるそうです。とてもいい子に育っていて、安心しました。
正しいことを教えるべき母親が、悪事の片棒を担がせるなんて信じられないことですね。「悪いことをしている」と男の子が自覚してくれてよかったです。