友人の態度にモヤッ
営業経験のない私は、仕事を取ってきてくれるアツミに頭が上がりません。その営業能力は素晴らしく、大口受注が見込める製造工場などの法人顧客も獲得するように。起業して3年もたつと受注が倍増し、私はうれしい悲鳴を挙げていました。
ところが、そのころからアツミの様子が変貌。率直に言えば、態度が尊大になってきたのです。
「これだけ顧客を取ってきてやったんだから、もっと給料上げてくれない?」
もちろん彼女のことは毎年昇給していましたし、他の従業員の給料や設備投資のために資金がかかるのですぐには難しいと伝えると、「誰のおかげでこの小さな店がもっていると思う?」と高飛車な言い方です。
彼女に感謝しているからこそ申し訳ない一方で、その上から目線にモヤッとしたのです。
いきなり退職届
「あの電気器具メーカーの女社長、ムカつく! 法人顧客獲得は連戦連勝だったのに、私の営業を断るなんて何様のつもり?」
ある日私は、アツミが休憩室でこんなふうに愚痴っているのを聞いてしまったのです。以前は取引を断られた相手の悪口を言うことはなかったのに……。誰に対しても傲慢(ごうまん)になっているアツミを見て、何かよからぬことをするかもと心配になった矢先、私の不安は的中してしまいました。
それから数日後……。「私、こんな店は今日で辞めるから!」
なんとアツミが、いきなり即時退社を申し出て、ポンと退職届を私に手渡してきたのです。
裏切られた私…
聞けば、業界大手のライバルチェーン店から引き抜かれたのだとか。おまけに、「私がとってきた大口の法人顧客は全部いただくわ」と豪語する始末……。
優秀な彼女へのヘッドハンティングは仕方がないにしても、店の大口顧客を奪うのはルール違反では? それに、いくら最初は営業のおかげだとしても、わが社のサービスに満足してくれていた法人顧客が、簡単に他社に乗り換えるとは思いたくありませんでした。
しかし、アツミは勝ち誇ったように言いました。「このクリーニング屋には将来性がない。顧客を連れて大手に移るのは当然のこと。ビジネスだから割り切ってね」
あっさり裏切られた私は「終わった……」と大ショック。しかし残った社員とお客様のために、たとえ大口顧客を失っても閉店するわけにはいきません。前を向こうと顔を上げて店内を見回したそのとき、思わぬ人物がやってきました。
救世主の登場!
現れたのは、アツミが営業を断られたと憤慨していた電気器具メーカーの女社長でした。ぼう然としていた私に彼女はこう切りだしたのです。
「つかぬことをお聞きしますが、こちらにいたアツミという営業の方が転職すると伺って……」
彼女がまさに今日付けで退職したことを伝えると、女社長は喜色満面に。「実は、彼女が辞めるのを待っていたの。傲慢な態度で信用できなかったから。でも、こちらのお店がクリーニングの質もサービスも素晴らしいということは前から知っていました。だから、あなたと直接契約させてください」
捨てる神あれば拾う神あり! 大感激の私に、女社長はここ数日間のアツミの言動を教えてくれました。なんと彼女、取引先に私の店が近々つぶれるとウソをつき、転職先と契約するよう促していたそう。人脈の広い女社長の話は信ぴょう性があり、妙に過信していたアツミの様子にも納得がいったのでした。
「事実無根のウソで自社をおとしめ、転職先に顧客を移すなんて卑劣な手は認められません。転職先のクリーニングチェーンにもこの話は伝わっている。今ごろ大変なことになっているはずよ」
舞い戻ってきたけれど
そんな話をしていた直後、本当にアツミが舞い戻り、「入社が取り消された……。謝るから私を戻して~」と泣きついてきたのです。さらに、衝撃の真実も発覚。彼女は、例の大手チェーンの営業部長と不倫関係になっていて、うちから法人顧客を奪うよう頼まれていたのだとか……。転職内定も実は彼の独断でおこなわれたもので、正式採用ではなかったようです。
もちろん、わが社のお客様は取引先の変更に至らず、これまで通りクリーニングをお任せいただけることに。公私混同・虚偽による営業妨害・裏切り行為……。どんなに謝られても、お客様にまで迷惑をかけた彼女の行為を許すわけにはいきませんでした。
その後、既存顧客を取り戻した上、女社長のメーカーからも受注が入るようになったため、私たちは一層多忙に。アツミが去ったわが社は新たな従業員を雇って最新設備を導入し、地域密着型のクリーニング店として高評をいただいています。
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ウソをついての顧客の持ち逃げは、ビジネスルールに反していますよね。相手を不快にさせる尊大な態度や裏切り行為も、結局は自分に返ってきます。友人も、これに懲りて改心してくれるといいですね。
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