新社長の無茶振り
私が対応している元請け会社では、先代の社長が突然亡くなってしまい、弱冠28歳の息子さんが後を継ぎました。最近まで別業種に携わっていたらしく、現場のことはわかっていない様子。そのせいかいきなり無理難題を押し付けてくるのです。
「納期を1週間早めてくれよ。予定前に完成させれば信頼度も上がるだろ?」
建設業界の納期は綿密な計算によって決められたものなのに、急に前倒しなど無理に決まっています。不備が出たり、慌てることで誰かがけがをしたりというリスクも。私が、「人員の関係もありますし、多方面に影響が出ますので……」と理解を得ようとしても聞く耳を持ちません。
「そっちはただの下請け。元請け会社の社長が頼んでいるんだ。無理なら金輪際取引をしない。残業でもして尽力しろ!」と傍若無人なのです。
そこに通りかかった母が仲裁に入ってくれました。いろいろ考えていた母ですが、最終的には「まあ、なんとかやってみましょう」ということに。その後、現場監督や作業員と調整し、急ピッチで仕事を進める手はずを整えましたが、残業続きになり、2代目社長への不満は募っていきました。
母が知る裏事情とは?
「なんであんな人が社長に……」と私がこぼすと、母が裏事情を教えてくれました。なんでも、彼は先代の1人息子。ゆくゆくは継がせるつもりで遺言していたのだとか。当然彼にはまだ早いと役員たちも反対し、副社長が昇格する案もあった中で、自分がやると言いだして聞かなかったそうです。
それだけではありません。「実はね……」と母。聞けばこの2代目は身勝手なだけでなく、ギャンブル好きで借金を抱え、横領未遂を起こして前職をクビになったそうです。父親にはうまいことをいって取り繕っていたのでしょう。今や社長の座に収まって、居丈高になっているのです。
とんだ人物ですが、私たちにとっては元請け会社の社長。長年取引を続けてきた関係なのでなかなか文句も言えません。
数週間後。皆の努力のおかげで1週間早く仕上げることができました。ところが……。
次の依頼で横暴さがUP
しばらくしてまた2代目社長から依頼がありました。例のごとく、打ち合わせですでに無茶振りばかりです。しかし前回ひどい目にあったので、後から納期を変更されないようこちらも念押しするように。それが功を奏したのか、作業に入ってからは文句を言われず、スムーズに作業を進められました。
ところが、数週間が過ぎたころ……。突然2代目社長から着信が! 嫌な予感がした私がおそるおそるスピーカーモードにして電話に出ると、めちゃくちゃなことを言ってきたのです。
「もっと安い業者が見つかったから、この間の注文はキャンセルね! あんたのところは企業努力が足りねぇんじゃね?」と……。これはあまりにも横暴です。今まで建設した分の材料費や人件費だってあるのに、「まだ完成していないんだから、1円も払わない」とせせら笑っています。
「現場は次の業者が来るから、きれいに片付けておけよ!」とすでに決定事項のよう。私が困った顔をして隣にいた母を見ると、小さい声で大丈夫と言ってきました。何やら考えがあるようです。一見穏やかそうで実は怒り心頭の母に背中を押されて、我慢の限界だった私は宣言しました。
「承知しました! それでは、ご希望通りすべて白紙に戻します」
彼との電話を切った後、母は私に耳打ちしたのです。「私にいい考えがあるの」
ベテラン社員の母の逆襲
母は早速計画に着手。まず、わが社の社長に事情を説明し、今回の案件が白紙になったことを伝えました。社長も驚いてはいたものの、先方の2代目についてはいろいろウワサを聞いていた様子。母を信頼していることもあって、すべて任せてくれたのです。
数日後、わが社の現場撤収最終日になりました。いつものニヤけ顔で登場した2代目に、私は「きれいになった」現場を披露してやりました。
「言われた通りにしましたよ!」「えっ……?」
彼は絶句。無理もありません、建設予定だった敷地内はすべて更地になっているのですから。「途中までの作業代を払っていただけないなら、弊社も未完成品を残しておくわけにはいきません。別の業者が安く作ってくれるんでしょう?」
逆ギレしている2代目。わが社に半分まで作らせてキャンセルし、残りは別の業者に半額で建設させるつもりだったようです。そんな愚行がまかり通るはずがない! さらに、母がベテラン社員の貫禄で言い渡しました。
「ちなみに、キャンセル料はお支払いください。途中までの建設分に関する取り決めはなくても、一方的なキャンセルの際は全額支払っていただくという契約はあります」
2代目社長の末路
実はこの契約書、母の忠告でキャンセル時の注意書きもしっかり入れてあったのです。ちゃんと確認もせずに契約書にサインしたのは彼のほうです。
「これはきちんとした契約書で、あなたの署名があります。弊社は弁護士を雇ってもいいんですよ?」と母が言うと、ぐうの音も出ない2代目社長はすごすごと帰っていきました。
その後、この建設案件は2社目の下請け会社との間でもとん挫。母は業界内でも有名なベテラン社員だったため、2代目の悪評も一気に拡散。同僚や取引先、クライアントからの不満も募り、最終的に彼は解雇されました。当初の予定通り副社長が社長に就任し、会社は何とか再建を図っているようです。
わが社も、無理難題をふっかけてくる元請けがなくなり、気持ちよく取引ができる方々と新たな案件に取り組んでいます。頼れる母のアドバイスを受けつつ、私も実直にキャリアを積みたいと思っています。
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もともと「難あり」だった2代目社長。未遂とはいえ横領は犯罪ですよね。建設業のような巨額の費用と大勢の人員が関わるプロジェクトを任せられる人ではありません。当然ですが、キャンセル時の注意書きを契約書に盛り込んでおいてよかったです。さすが経験豊かなベテラン母ですね。
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