同居している父と私が雪かきをしようと家の外に出ると、お隣のおじいさんが出てきました。挨拶もそこそこに、おじいさんは「先にワシの家の前の雪かきをしろ!」と言います。断ろうとしたのですがーー。
やさしい父
留守がちなお隣に、このおじいさんが戻ってきたのは数週間前のこと。私はこれまであまり接点がなかったので、こんなに面倒なおじいさんだとは知りませんでした。
自分の家の分だけでも大変なのに、おじいさんの家の分までやるとなると仕事に遅れてしまいそうです。
しかし父は、嫌な顔をせずおじいさんの家の前の雪かきを始めました。わが父ながら、なんてやさしいのでしょう……。
見知らぬ中年男性の正体は?
数日後。また一晩中雪が降り続き、夜が明けると家の前には雪がどっさり積もっていました。また雪かきを押し付けられるのかと思うと憂うつでしたが、その日は外から雪かきをする音が聞こえます。
窓から見てみると、あのおじいさんが雪かきをしているではありませんか! その横で中年男性が「もっとしっかりやれよ!」と怒鳴っています。
「早くしないと、俺の車が出せないだろ!」何も手伝おうとはせず、おじいさんを罵倒し続ける中年男性。さすがに見ていられない!と思ったそのとき、父が家から出ていきました。
父の作戦
口は悪くとも気は弱いようで、父が止めに入ると中年男性はすぐにおとなしくなりました。父が雪かきを手伝い駐車場の前の雪がなくなると、中年男性は車でどこかに行ってしまいます。
おじいさんに感謝された父はお茶に招かれたようで、そこでいろいろと話をしたようです。
父の話によると、あの中年男性はおじいさんの息子・テツオでした。いい大人だというのに一度も定職に就かず、ギャンブルで借金を繰り返していて、おじいさんは何度も尻ぬぐいをさせられているのだそう。親に寄生する息子から逃げるために転々と引越しをしていたようで、そろそろ大丈夫かと思い自宅に戻ってきたのでした。
しかし、またしても見つかってしまったようです。父はその話を聞いて、ある提案をしました。
情けは人のためならず
父の提案は、おじいさんの家を買い取るということ。そのお金でどこかの施設に入ることをすすめました。その提案にはおじいさんも乗り気だったようで、父とおじいさんはすぐに不動産屋に行き、テツオに気づかれないように売買契約を進めたのでした。
雪かきを代わってあげたことといい、今回のことといい、父には頭が上がりません。私が「なんでお父さんは文句も言わずにお隣の雪かきまでできるの? すごいな〜」と言うと父はニヤリ。どうやら父には策略があったようです。
父は孫(私の子どもたち)の成長に合わせて、そろそろ同居を解消しようと考えていました。そこで狙いを定めたのがお隣です。いつも留守にしてばかりなので、そのうち手放さないかと待っていたのでした。
やってきたのが今回のチャンス! 雪かきをきっかけにおじいさんに近づき、思ったよりも早く、予算よりも安く、家を手に入れることができました。父の策士っぷりには敵いません!
情けは人のためならず、と言いますが、互いにメリットしかないこの作戦はさすがとしか言えませんね。