夫が転職してから数カ月。会社の繁忙期らしく、夫はずっと泊まり込みで働いているようでした。繁忙期が終わった週末、ようやく家族で過ごせると思っていたら、「今週末は繁忙期終わりの社員旅行に出かけてくるから!」「今日仕事終わりにみんなと朝まで飲んで、翌朝そのまま出発するんだ」と連絡が。子どもたちの顔だって何カ月も見ていないというのに……。
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「帰宅する間もなく社員旅行だなんて、あなたの会社はおかしいんじゃないの?」とたまりかねた私が言っても、「今年転職したばっかりだし、誰よりも仕事をこなしてアピールしていかないといけないんだ」「中途採用が不参加なんてありえないだろ、他の部署の人たちとも交流できるせっかくの機会なんだし」と意思を曲げない夫。
「家のことも子どもたちのことも、全部お前1人に任せてごめんな……」という謝罪はあったものの、私の腹の虫はおさまりませんでした。「社員旅行から帰ったら家に帰れるから、もう少しだけ辛抱してくれよ!」との言葉を残し、結局夫はそのまま飲みに行ってしまったのです。
夫の同僚の女性
数時間後――。
見知らぬ番号から私のスマホに着信が。普段なら出ないのですが、なんとなくその時は出てしまいました。
「どうもはじめまして!」と電話口からは明るく元気な女性の声。一瞬セールスかと思ったのですが、相手は夫の同僚の女性でした。
一通りの挨拶を済ませると、同僚の女性は「お宅の旦那さん、『奥さんが仕事を理解してくれなくて参ってる』って落ち込んでいて……」「奥さんとして旦那さんを心配するのはわかりますけど、彼はご家族のために仕事をがんばっているだけなんです。わかってあげてください」と話し始めました。
転職早々、数カ月も家に帰れず、会社や会社近くの寮に泊まり込んでいる夫。それを心配して何が悪いんでしょうか?
「会社に寝泊まりなんて会社員なら普通のことですよ」という彼女に、「あなたも夫のように数カ月の間、会社に泊まり込んでいたんですか?」と尋ねてみました。すると、彼女は若干まごつきながら「まぁ……人によりけりですけど、私だってたまには寝泊まりすることもありますよ」と答えました。
なんか怪しいなぁと感じた私は、さらに彼女に質問をぶつけることに。「今回の社員旅行の目的は?」と聞くと、「もちろん、寝食を共にして社内交流を活発にするためですよ」と彼女。すでに何カ月も会社に寝泊まりして、会社の皆さんと寝食を共にしているというのに、参加する必要があるのでしょうか……?
「うちには父親の帰りを待つ子どもたちがいるんです」「うちの夫は社員旅行不参加でお願いします。今日の飲み会が終わったら帰宅させてください」と言うと、相手の女性の声のトーンが変わりました。
「家族のために社員旅行不参加って」「奥さんのくせに、出しゃばりすぎじゃないですか?」
あざけ笑うような口調に、思わず「……はい?」と聞き返してしまった私。「っていうか、子どもを理由に使わないでくださいよ。奥さんの焼きもちでしょ?」「旦那さんが帰宅せずに、社員旅行を楽しむのが嫌なんですよね?」と女性は斜め上の理論を展開。
「旦那さんから聞いてますよ。『子育てを理由に外で働こうともしない最悪な嫁』だって!」「家でグータラ専業主婦をやってるだけの奥様には、仕事のことなんて到底理解できないでしょうけどね!」とまで言われて、開いた口が塞がりませんでした。
そもそも、結婚を機に家庭に入ってほしいと言ったのは夫の方だったのに……。それにしても、なんだかきな臭い……。
高くついた嘘の代償
翌日――。
とあるところから連絡を受けた私は、慌てて夫に電話。何度かけても出てくれません。ようやくかけ直してきてくれたと思ったら……例の同僚の女性から電話がかかってきたのです。
「もういい加減にしてください!さっきから何度も何度も電話かけてきてうるさいんですけど!」とヒステリックに怒鳴る彼女に、「急用があるので、夫に代わってもらえますか?」と冷静にお願いしました。しかし、「旦那さんなら疲れたのか、寝てますよ」と彼女。
「急用なんです、今すぐ旦那を起こしてください」と何度お願いしても、「グータラ主婦の急用より、社員旅行を楽しむ方が優先です」「私は彼を起こしません。二度と電話をかけてこないでください」の一点張り。
「奥さんは旦那さんを束縛しすぎです!」
「今は楽しい社員旅行中なんですから邪魔しないでください」
「社員総出で謝罪会見中だけど」
「え?」
私が慌てて夫に電話をかけた理由は、夫の会社から「あなたの旦那さんの社内PCから顧客情報が流出した」「旦那さんと連絡がつかない」と連絡を受けたから。社長や役員たちは総出で記者会見に。社員たちも総出で原因調査や被害調査を行っているとのことでした。
そう、社員旅行なんてしている場合ではないのです。もっとも、社員旅行も嘘でしょうが……。
「ほ、本当だ!彼のスマホ、会社やいろんな人から電話が来てる……」「全部奥さんからの連絡だと思って無視してたのに……」と彼女も大慌てでした。
結局、情報流出の原因となった夫のPCは隅から隅まで調べられ……仕事をサボってネットサーフィンしていたことや、検索履歴から何から何まで白日のもとに晒されることとなったのでした。例の同僚の女性との浮気社員や日頃のやり取りも残っていたそうで、社員の方が丁寧にすべてまとめて送ってくれたのでした。
他の社員の方によると、繁忙期はとっくに終わっていたそう。しかも、会社の規定で会社での寝泊まりは厳禁。さらに、夫は毎日定時で帰っていたというのです。
夫は例の同僚の家に毎日帰っていたそうです。「家族のためを思って転職した」なんて、よく言えたものだと呆れてしまいます……。当然、夫も同僚女性も責任を問われ、会社をクビになりました。
私は会社の方からいただいた浮気の証拠写真をもとに、夫と離婚。浮気相手の同僚女性には慰謝料を、夫には慰謝料と養育費を請求しました。これからは子どもたちを1人で育てていかなければならないので、そのお金の一部を使って資格のための勉強をしています。早く手に職をつけて、子どもたちが幸せに暮らせるようにがんばっていきたいと思っています。