田舎暮らしがきらいだった都会派の兄は、ずっと祖母に冷たい態度を取っていました。そして高校を卒業した途端、何も言わずに出て行ってしまい、音信不通となっていたのです。
ある日、その兄がお嫁さんを連れて祖母宅に戻ってきました。結婚は事後報告の上、何の相談もなく祖母宅で同居をすると言ったのです。
突然放り出された祖母
「祖母のひとり暮らしが心配だから帰ってきた」と言う兄。祖母宅は広く、部屋数もあり、お屋敷とまではいきませんがかなり大きな家です。祖母の足腰は弱ってきており、私も家の管理を心配していたところだったため、何も言えませんでした。
都内で働く私はなかなか帰省する機会がなく、あんな兄でも祖母と一緒に住んでくれたらすこしは安心……とホッとしたのもつかの間。
「ババアがひとりで屋敷に住むなんてぜいたくだろ」
「俺たちが有効活用してやるよ」
なんと兄夫婦は自分たちの田舎暮らしを撮影し、動画投稿サイトへアップしてひともうけしようと画策していたのです。のちのちは宿にしようとも思っているらしく、その自分たちの計画の邪魔となる祖母を家から放り出してしまいました。
この行為は、身寄りのない私たち兄妹を引き取り、立派に育ててくれた祖母へのあまりにもひどい仕打ちでした。さらに祖母が私たちを引き取った目的が両親の遺産目当てだとまで言うのですから、本当にひどすぎます。そんな兄たちに私はこう告げました。
「お兄ちゃんたち、終わったね」
兄夫婦の愚行に…
祖母には、ひとまず私の家にいてもらうことにしました。今後の祖母の面倒は、私が見るつもりでいました。「家を取り返す!」と息巻く私に、祖母は案外あっさりしていて……。「家は奪われないはず」 そう言う祖母の言葉の真意を、私はそのときまったく理解していませんでした。
それから1カ月がたったころ、なんと兄から突然連絡が入ったのです。「祖母を返してくれ」と。
実は兄の家だけゴミ収集車が来ず、近所の商店では何も売ってもらえないのだとか。そこで1時間もかけ、隣町のスーパーまで買い出しに行っているようでした。近所の人たちの冷たい態度に耐えられないと、珍しく兄は泣き言を言っていました。
また家が古いため、給湯器が壊れたり、雨漏りがひどかったりと、不便この上ないようです。修理したくても、やはり受け付けてくれる業者が近くになく、途方に暮れていると聞きました。
祖母は地元で顔役のような人であるため、そんな祖母を追い出した兄に対して、みんないい顔をするはずありません。
とにかく1度帰ってきてほしいと懇願する兄でしたが、祖母にはもうそんなつもりはありませんでした。高齢者用マンションに空きを見つけ、そこに住むことが決まっていたのです。
支え合う暮らし
祖母が新しい場所へ引っ越すことを聞き、今度はお金の無心をしてきた兄。引っ越すだけの蓄えがあるのなら、援助してほしいと頼み込んできました。
ある程度の蓄えはあった祖母ですが、それは私の両親からの遺産でも何でもありません。それどころか両親には借金があったと、今回祖母と話してみて初めて知りました。ですから、今まで私たちの衣食住にかかったお金、学校の費用などは、すべて祖母が負担してくれていたのです。
お金に困って無理やり同居してきた兄にも、寝耳に水だったよう。それを聞いて、兄はうなだれました。それからほどなくして、兄嫁は実家に戻りました。結局離婚した兄夫婦は、今どこで何をしているかわかりません。今までも疎遠でしたし、今回の騒動から縁を切りましたので、もう何とも思いません。自業自得ですが、兄は帰る場所も、頼れる家族も失くす結果となりました。
祖母の新しい住まいは私の職場から近く、今では頻繁に会えるように。限りある祖母との時間を大切に、これからは恩返しをしながら思い出つくりに励みたいと思います。
自分の私利私欲のために、助けてくれた祖母を蔑ろにした兄。ただ、今回の件で人は助け合って生きているということを実感したのではないでしょうか。まわりの人も、祖母が兄妹を引き取って、頑張ってきた姿を見てきていたからこそ、助けてくれたのかもしれません。感謝の心を忘れないことを大事に、人と接していきたいですね。