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ホルモン補充療法は「乳がんの発症率」が本当に上がるの? リスクを専門医が回答!【医師解説】

更年期になると多くの女性が体調を崩し、長期間、更年期障害に悩む人も少なくありません。そんなとき、頼りになるのがホルモン補充療法。しかし、この療法は乳がんの発症率を上げるとの説もあります。それは本当なのか、私たちはどうすれば良いのか、産婦人科医の沢岻美奈子先生に聞きました。

この記事の監修者
監修者プロファイル

医師沢岻美奈子先生
女性医療クリニック院長

2013年1月に女性スタッフだけで乳がん検診をおこなう沢岻美奈子 女性医療クリニック開院。2022年の1年間で神戸市乳がん検診を約2500件、地元企業様の会社検診や自己検診も含めると約3100件の乳がん検診を実施する。患者さんとのやりとりと通じて日常の診察で感じ考えることを、専門医目線で正しい医療情報としてInstagramに毎週投稿している。
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ホルモン補充療法(HRT)とは

ホルモン補充療法は「乳がんの発症率」が本当に上がるの? リスクを専門医が回答!【医師解説】

 

多くの女性は更年期(45~55歳ころの閉経を挟んだ約10年間)を迎えると、女性特有の症状が現れます。さまざまな症状の中で他の病気を伴わないものを「更年期症状」といい、その中でも症状が重く日常生活に支障を来す状態を「更年期障害」と言います。

 

更年期障害の一番の原因は女性ホルモン、特に「エストロゲン」の減少です。

ホルモン補充療法(HRT)は、このエストロゲンを補うことで、更年期障害を改善する治療法です。

 

ただし、高血圧や糖尿病の人や肥満の人、家族に子宮体がん・乳がんを経験した人がいる場合には、病態が悪化する可能性があるため慎重な投与が必要です。過去に子宮体がんや乳がんを経験した人は、場合によっては受けられないことがあります。

 

また、脳卒中や心筋梗塞、冠動脈疾患などの既往歴がある人、喫煙者、血液をサラサラにする薬を内服している人は、血栓症(血の塊が血管を閉塞して障害が生じる病気)を引き起こす可能性があるためホルモン補充療法を受けられません。

 

乳がん細胞は女性ホルモンで増殖する!?

ホルモン補充療法は「乳がんの発症率」が本当に上がるの? リスクを専門医が回答!【医師解説】

 

厚生労働省が発表した「全国がん登録 罹患数・率 報告 2019」によると、日本女性に一番多いがんが「乳がん」です。

 

女性のがん罹患部位

1位 乳房

2位 大腸

3位 肺

4位 胃

5位 子宮

 

日本女性の9人に1人が乳がんに罹患すると言われ、40代後半から増えて、60代が一番多いのが特徴です。

 

乳がんのがん細胞の60~70%は、エストロゲンの影響を受けて増殖します。乳がん細胞が体の中で生存していく上で、エストロゲンなどの女性ホルモンが欠かせない存在となっているのです。

 

そのため、エストロゲンを補うホルモン補充療法と乳がん発症リスクの関連が、長く懸念されてきました。

 

 

乳がん発症リスクは、未経験者の半分以下

ホルモン補充療法は「乳がんの発症率」が本当に上がるの? リスクを専門医が回答!【医師解説】

 

実は、20年ほど前に海外で「ホルモン補充療法によって乳がんの発症が増加する」という報告がありました。当時、日本でも新聞などで大きく取り上げられたため、このフレーズが一般に広まったと言われています。

 

しかしその後、その研究対象となった約1万6,000人の女性たちは、喫煙率や肥満率、高血圧率が高いなど、最初から乳がんなどのリスクが高い人ばかりだったことがわかりました。

 

日本では2004~2005年に厚生労働省研究班が調査をおこない、ホルモン補充療法経験者が乳がんになる危険性は、ホルモン補充療法未経験者の半分以下だったという結果を公表しています。

 

その後の研究でも、ホルモン補充療法が乳がんの発症に与える影響は、生活習慣病や夜勤の仕事などが与える影響と同程度、つまりとても小さいことがわかっています。乳がんのリスクよりも、つらい更年期障害の症状を改善するメリットのほうが大きいと考えられています。

 

ホルモンの併用で子宮体がんリスクも心配なし

ホルモン補充療法には、主にエストロゲンだけを補う方法と、エストロゲンとプロゲステロンを併用して両方を補う方法があります。

 

エストロゲンだけを半年以上使うと、子宮内膜が増殖して子宮体がんのリスクが高まることが知られています。そのため、子宮のある人には、内膜の増殖を防ぐ働きがあるプロゲステロンを併用します。併用により、子宮体がんのリスクはなくなります

 

手術で子宮を摘出した場合には、子宮がんの心配がないので、エストロゲンだけを補う方法で治療をおこないます

 

ホルモン補充療法後は毎年の乳がん検診が大切!

ホルモン補充療法は「乳がんの発症率」が本当に上がるの? リスクを専門医が回答!【医師解説】

 

ホルモン補充療法の有無にかかわらず、更年期世代は乳がんの発症が多い年ごろです。40歳以降は2年ごとの乳がん検診を受けることが大切です。見逃しを防ぐためにも、マンモグラフィーと超音波検査の併用がおすすめです。

 

ホルモン補充療法を受けた後は、毎年乳がん検診を受けることで安全に療法を続けることができます。

 

10年間検診を受けず、60歳で乳がんが発見された女性の話

以下は沢岻美奈子先生が実際に診察した、ある女性のケースです。

その女性は60歳のとき、沢岻先生の医院で初めて乳がん検診を受けました。すると、マンモグラフィーで左乳房にひきつれが見つかり、超音波検査でも13mmの腫瘍が確認され、乳がんであることがわかりました。

 

沢岻先生が診断結果を伝えると女性は「ホルモン補充療法を10年くらい受けているんですけど大丈夫ですか?」と聞いたそうです。なんと、その女性は10年の間一度も乳がん検診をしていなかったのです。

 

先生は「ホルモン治療を始めた50歳から定期的に検診を受けていたなら、もっと早く、乳がんが小さいうちに見つけられたはず。そう思うと、本当に残念でなりません」と言います。

 

がんは早期発見・早期治療ができれば、それほど恐れることはありません。このような悲しいケースに陥らないためにも、定期的な検診を欠かさないことが大切です。

 

まとめ

乳がん検診は、地域の婦人科医院ではおこなっているところはほとんどありません。自治体や職場の定期検診のタイミングを逃さず、しっかり利用することが大切。個人的に検診を受けたいときには、全国の検診(健診)センター、乳腺クリニック、総合病院、大学病院、がんセンターなど、乳腺外科のある病院に連絡してみましょう。自分自身を守るために、定期的な検診を習慣にしたいですね。

 

 

※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

本記事の内容は、必ずしもすべての状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて医師や専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願いいたします。

 

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取材・文/かきの木のりみ

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