「元嫁用のテーブルってないもんな」「やっぱり新婦親族席の方がいいかな?知り合いも多いだろうし」と一方的に話を続ける元夫。私には何のことだかさっぱりわかりません。
「あ、ごめんごめん!つい浮かれて報告を忘れていたよ」「実は俺、再婚することになったんだよね!」と元夫。続けざまに「再婚相手は君の妹だから、やっぱり新婦親族席がいいよな!」と言われ、私は言葉を失うのでした……。
夫を略奪したのは…妹!?
3カ月前に離婚したばかりの私たち。離婚理由は「今の日本人の平均寿命は80代だから、折り返し地点の40歳で自由になりたい」「これからはお互いに第二の人生を歩んでいこう」という夫の一方的なものでした。
会社もやめてある、次の家も決めてあると言っていた元夫。それがたったの3カ月で再婚とは……。しかも相手が私より10歳も下の妹だなんて私は驚きを隠せません。
「いや~、男は年を重ねるほどモテるってのは本当だな」「まさか10歳も下の若い子に言い寄られるなんてさ」と鼻の下を伸ばしている元夫。「お前の妹の結婚式でもあるんだから、姉としてちゃんと出席してくれよな」と残して、元夫は電話を切りました。
元夫も元夫ですが、妹も妹です。私から大事な人を奪うなんて……。
厄介な元夫の幼なじみ
翌日――。
今度は元夫の幼なじみの女性から電話が。この女性、何かにつけてマウントを取ってくるのでとても苦手……。
「聞いたよ~!アイツと離婚したんだって?」「しかもあなたの妹と再婚するんでしょ!さすがに話聞いた時はびっくりしたわ~!」から話が始まりました。
「元嫁の妹と結婚するなんて、さすがに非常識だと思いませんか?」と聞いてみると、「ファンキーでいいじゃん」との回答が。そして、元夫の幼なじみは「それよりも、アイツの結婚式を参加拒否してるんだって?意外と心が狭いんだね」と私を煽ってきたのです。
「私は自由に生きるアイツを応援するよ!」「別れたとはいえ、一度は結婚した大事な人なんだし、再婚くらい祝福しようよ!」
呆れ果てて何も言えなくなってしまった私。言葉に詰まっていると勘違いしたのか、元夫の幼なじみは「そっか、20年以上付き合いのある私は理解してあげられるけど、たかが数年結婚してただけのあなたにはまだ理解できないんだね」「昔っからアイツは相談も愚痴も私じゃないとダメみたいだし」と続けます。
「では、引き続きあの人の幼なじみとして、彼と仲良くしてやってください」と言うと、「あんたに言われなくても仲良くし続けるっつーの」「嫉妬深い前妻もいなくなったことだし、なんだったら妹さんも入れて家族ぐるみで仲良くしちゃおうかな」と元夫の幼なじみ。
やはり非常識な元夫の周りには、同じように非常識な人しか集まらないのかもしれないと思いました。
妹の正体
1週間後――。
元夫の結婚式の招待状が届いたので、私は「欠席」に丸をつけて送り返しました。その返信を受け取ったらしい元夫から、再び私のもとに連絡が来たのです。
「せっかく式に呼んでやったのに、欠席ってひどいじゃないか」「しかも俺の幼なじみが慰めようとしてくれたのに、邪険に扱ったんだって?」
妹も含め、元夫の周りの人たちは私を不快にしかさせません。適当に受け流していると、元夫は「妹ちゃんも『結果として略奪みたいになったけど、これからもお姉ちゃんと仲良くしたい』って言ってたぞ?」と言ってきたのです。
それを聞いて、私の堪忍袋の緒が切れました。結果としてではなくて、わざと奪ったに違いないからです……。
「お前は妹と元旦那の結婚を見届ければいいんだよw」
「これからは義姉としてヨロシクなw」
「妹なんていませんけど?」
「え?」
実は、私たち姉妹はまったくの他人。私は父の連れ子で、妹は再婚した女性の連れ子。元夫は異母姉妹と思い込んでいたようですが、一切血のつながりはありません。
「妹はいつも姉の私の恋人を奪ってしまうのよ」「高校時代から数えてもう5人は彼氏を取られてまーす」と言うと、「でもあの子は人見知りの恥ずかしがり屋でちょっと奥手で……。がんばって俺に思いを伝えてくれた純粋な子なんだぞ!」と元夫。
「ああ、品行方正でおとなしい女の子のフリをしているんでしょ?」「昔からキャラ設定と手口は変わっていないのね……」「ちなみに、略奪した後はすぐに飽きて捨ててたわ、私から奪うことだけが目的みたい」
「えええええ!?」と焦り出した元夫。「まぁ、今回は結婚式も挙げるんだし、さすがにあの子も大人だからそんな捨て方はしないはずよ」「私は式には行かないけど、あの子をどうぞよろしくね」とだけ言って、私はやり取りを終えました。
その後――。
結局、すぐに妹は元夫に飽きてしまったようでした。そして、結婚式で出会った、例の元夫の幼なじみの女性の旦那さんにアプローチしていたそう。ブチギレた幼なじみの女性から私に抗議の連絡が入りましたが、私は一切無関係です。
幼なじみから慰謝料を請求すると言われた元夫も、なんだか大変そうでした。私を捨ててまで手に入れた第二の人生があまりにも刺激的で、客観的に見ている分としては面白い限りです。私はというと、何の変哲もない穏やかな日々を過ごせることに幸せを感じています。