エレベーターがない!
ある日、私は1歳すぎの長男と、ベビーカーで初めて博物館へ向かいました。1時間ほどバスを乗り継ぐこともできましたが、私はまだ長時間の移動に不慣れな長男を心配し、最短ルートである地下鉄で行くことを選択。
ところが下車した駅は、事前にエレベーター設置駅と確認したのに、地上に出る最後の通路に20段ほどの階段しかありません。わが家のベビーカーは重厚で、長男と荷物を合わせて20kgほどもあり、すべてを自分で運ぶことは不可能。駅員さんも見当たらず、私は途方に暮れてしまいました。
声をかけてくれたのは…
そのとき、「大丈夫? ベビーカー運ぶよ!」と私に声を掛けてくれたのは、通りがかりの青年。10代後半に見える青年は、「ベイビーは抱えててね。あとこれも」と言うと、彼のタブレット端末と長男を私に託し、荷物ごと重たいベビーカーを階段上まで運んでくれたのです。
私は感動して「ありがとう!」と青年にタブレット端末を返すと、青年は「問題ないよ、良い1日を!」とにっこりほほ笑んで去っていったのでした。
実は、私はイギリス生活の中で、自分が外国人であることを気にして、周囲に声をかけられずにいました。理由は、あるイギリス人ママからアジア人というだけで無視されるという悲しい思いをしたことがあったからです。しかし私を助けてくれた青年は、私が外国人であることをまったく気にせず声をかけてくれました。
私はその場を救われただけでなく、こんなにやさしい人もいるのだなと、ホッとしました。本当にうれしかったです。以後、自分が困ったときや周りに助けが必要な人がいたら、ためらわずに私から声をかけてみようと思えた出来事でした。
イラスト/森田家
著者:濱田よし
2014年イギリス生まれの長男、2018年日本生まれの長女と2021年アメリカ生まれの次女、夫の5人家族。夫の海外転勤による約10年の海外生活を経て日本に帰国。