脳出血とは
脳の血管が詰まったり破れたりすると脳が障害を受け、さまざまな発作や病気を引き起こします。これを総称して脳卒中と言います。脳卒中を代表とする脳血管疾患は、現在日本人の死因の第4位です(厚生労働省「令和4年(2022) 人口動態統計月報年計(概数)」より)。
脳出血は、この脳卒中の1つで、脳の中の細い血管が突然破れ、脳の中で出血する病気です。脳卒中の約20%と割合としては多くありませんが、総じて後遺症が出ることが多く、死亡率も高いといわれています。
年齢的には50~60歳代が多数。夏に少なく冬に多く、早朝と夕方が発症のピークとされています。
脳卒中には他に、脳の血管が詰まる脳梗塞(全体の約70%)と、脳の太い血管にできた脳動脈瘤が裂けて脳の表面に出血するくも膜下出血(全体の約10%)があります。
脳出血の症状
脳出血は、出血が起こった部位や出血の量により、以下のようなさまざまな症状が出ます。
・片手・片足のまひ、脱力、しびれ
・ろれつが回らない、言葉が出ない
・めまい
・意識がもうろうとしたり、起きているけれど反応が鈍い
・片目が見えない、物が二重に見える
・立てない、歩けない
なお、出血量が多い場合には、脳脊髄液が流れている脳室という空間に血が流れ込み、髄液の循環・吸収に障害が起こるケースがあります。すると、脳室が異常拡大する水頭症を合併してしまう可能性が高く、回復が妨げられることがあります。
脳梗塞の症状との違い
一般的に脳出血は、発症した後、数分で症状が進行します。脳梗塞にはほとんど見られない頭痛を伴うこともあります。一方、脳梗塞は、徐々に悪化しながら同じ症状を繰り返したり、症状の進行に2~3日かかったりします。
ただし、これはあくまで傾向の1つで、上記に当てはまらないケースも少なくありません。症状だけで脳出血か脳梗塞かを見分けることは不可能で、確実な診断にはMRI検査が必要です。
脳出血が起こる原因
脳出血の主な原因は「高血圧」です。血圧とは、血液が動脈を流れる際に血管の内側にかかる圧力のことで、血圧が慢性的に高い状態が高血圧です。
高血圧により血管に負荷が掛かると、血管の内側が傷つきます。するとプラークと呼ばれる沈着物がたまり、血管が固くなっていきます。
これが動脈硬化と呼ばれる状態で、血管が詰まりやすくなったり、必要な量の血液が流れなくなったりして、脳出血を引き起こす大きな原因となるのです。
ちなみに、血圧の数値は一般的に「上」、「下」という言い方で表されますが、上は心臓が収縮して血液を送り出したときの「収縮期血圧(最高血圧)」で、下は心臓が拡張したときの「拡張期血圧(最低血圧)」。高血圧の目安は、だいたい収縮期血圧が140㎜Hg以上、拡張期血圧が90㎜Hg以上のときです。
高血圧以外に糖尿病、高脂血症などでも動脈硬化が進みやすくなります。また、抗凝固薬など血液をサラサラにする薬を服用している場合、脳内出血を起こしやすくなります。
そのほか、脳動脈瘤、脳動静脈奇形、もやもや病、海綿状血管奇形、アミロイド血管症などの血管の病気が原因で脳出血を起こす場合もあります。
脳出血が起こる前兆はある?
脳卒中は、突然前触れなく起こることがありますが、下記のような初期症状が出ることも少なくありません。
・顔……半分が動かなくなって、口元が下がってくる
・腕……片方の腕(足)が上がらない、力が入らない
・言語……ろれつが回らない、言葉が出ない
初期症状は軽度だったり数分程度で消えたりする場合があり、たいしたことがないと放置しやすい傾向がありますが、早い段階で適切な治療をしないと症状が悪化してしまうので注意が必要です。
上の3つのうち1つでも当てはまれば、たとえ症状が軽くてもすぐに救急車を呼びましょう。いつもと違う頭痛があるなど、気になる症状がある場合も早めに受診しましょう。
受診する場合、一般的な診察であれば内科または神経内科へ。高度の外科的手術などを要する場合は脳神経外科が良いでしょう。
脳出血の治療
脳内出血の治療には、「内科的治療」と「外科的治療」があります。
内科的治療は薬物による治療で、出血が助長されないように、すぐに血圧を下げる「降圧剤」を投与します。また出血部位の周囲にむくみが認められる場合は、むくみを取る抗浮腫剤など、症状に合わせた薬の投与もおこないます。
出血が小さい場合には、自然に吸収・消失していくのを待ちます。
出血が大きく、生命の危険がある場合には外科的治療として手術(開頭術)による出血の除去をおこないます。出血の部位や状態によっては内視鏡を用いる場合もあります。
脳出血の後遺症
脳出血は出血時に脳が破壊されるため、出血が自然吸収されたり外科的に除去するだけでは、脳機能を回復させることは難しいと言えます。失われた脳機能を回復させるためには、できるだけ早くリハビリテーションをおこなうことが重要です。
しかし、脳出血の状態によってはリハビリテーションによる回復にも限界があり、脳出血の症状がそのまま残るかたちで後遺症になります。後遺症には、主に以下があります。
・運動障害:片方の手足のまひなど
・感覚障害:触覚や痛覚が鈍くなる場合と逆に過敏になりしびれを感じる場合がある
・目の障害:視野が狭くなる、物が二重に見えるなど
・構音障害:ろれつが回りにくくなる
・嚥下障害:食べ物を飲み込みにくくなる
上記の他に、新しいことを覚えられなくなったりする「記憶障害」や、注意力や集中力が低下する「注意障害」、感情のコントロールができない「感情障害」などの「高次脳機能障害」と呼ばれる症状が出る場合もあります。
高次脳機能障害は外見からはわかりにくいため、周囲から誤解を受け、日常生活に支障を来してしまうこともあります。
脳出血になりやすいNG習慣
動脈硬化は、肥満を含めた生活習慣病から引き起こされることが多くあります。生活習慣病の要因となる不規則な食事や運動不足、喫煙、過度の飲酒、睡眠不足、ストレスのため過ぎなどは、すべてNG習慣。これらを改めることが寝たりきりの予防につながります。
中でも高血圧には注意が必要で、食事では「減塩」を心がけることが大切です。果物や野菜に多く含まれる「カリウム」は塩分を排出する働きがあるので、積極的に取り入れましょう。
カリウムは野菜や果物、芋類、豆類、海藻など植物性の食材に多く含まれています。特に多いのは、野菜ではほうれん草、ブロッコリー、さといも、ひじき、昆布など。果物では干しあんずやドライマンゴーなどのドライフルーツ、アボガド、バナナなどがおすすめです。
また、血圧が高めで降圧剤を服用している場合、血圧が下がったからといって自己判断で服用をやめたりしないことが大切です。降圧剤は脳出血の「予防薬」と考え、必ず主治医の指示に従って服用しましょう。
肥満を防ぐためにBMIのチェック習慣を
肥満になると内臓脂肪が多くなり、血液中の悪玉(LDL)コレステロールや中性脂肪が増えて、動脈硬化を引き起こすきっかけとなります。体重を管理して、太り過ぎを防ぐことも大切です。
肥満の目安として、BMI(ビーエムアイ)と呼ばれる、国際的に用いられている体格指標をチェックすることをおすすめします。BMIは以下の方法で算出することができます。
BMI = 体重kg ÷ 身長mの2乗
計算機で計算する場合には「BMI=体重kg÷身長m÷身長m」と入力して算出します。
例えば、身長160cm、体重55kgの人の場合、50÷1.6÷1.6=21.48で、BMIは約21.5です。
判定は以下の通り
・BMIが18.5未満………………低体重
・BMIが18.5 以上 25.0未満…普通体重
・BMIが25.0 以上 30.0未満…肥満(1度)
・BMIが30.0 以上35.0未満…肥満(2度)
・BMIが35.0 以上40.0未満…肥満(3度)
・BMIが40.0 以上………………肥満(4度)
ただし、これはあくまで目安です。生活習慣病は自覚症状がほとんどなく、検査をしないと見つかりません。定期的に健康診断を受け、異常を指摘されたら放置せず、積極的に治療を開始することが大切です。
まとめ
血圧は緊張したり運動したりすると上がりますし、季節や天気、測定環境などでも変わります。1回1回の数値で過度に一喜一憂する必要はありませんが、健康診断で高血圧と指摘されたら、放っておかず早めに受診することが大切です。そこで高血圧の診断を受けた場合は、血圧計を家に用意し、定期的にチェックするのがおすすめです。
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※本記事の内容は、必ずしもすべての状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて医師や専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願いいたします。
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取材・文/かきの木のりみ
4つの編集プロダクションで紙媒体の編集をしつつWebの学校に通い、Webと紙両方の編集に携わるようになって約20年。スポーツは見るのもやるのも好きなのだけど、最近はすっかり見るほうに……。