いつまでにも悲しみにくれているわけにもいかず、夫は葬儀の準備を進めることにしました。喪主は夫の兄がつとめます。しかし夫とは違い、なんだか不機嫌そうな顔でふんぞり返っていました。
遺された姪
「忙しい時期に葬儀なんてマジで勘弁」「事故に遭ったから、宝くじでも当たるかな?w」と、義兄は不謹慎なことばかり。義兄の奥さんも、横で笑っています。
そんな2人の横には、不安そうに口を閉ざしたまま立ち尽くす女の子がいます。この女の子は義姉夫婦の娘・アカリちゃんです。まだ小学生だというのに、一度に両親を亡くしてしまい、これからどうすればいいのか不安な顔をしています。
私はなんと声をかけていいのかわからず、ただそばで見守ることしかできませんでした。
「子ども無理だから!」
葬儀は滞りなく終わり、今後のことを相談しなくてはなりません。
義兄夫婦の口からは「うちら、子ども無理だから! 子どもはあげるわ! お金だけは管理してあげる」と、まるで決定事項。義姉夫婦を預かって増やしておくから! とアカリちゃんに詰め寄ります。
しかし義姉夫婦の遺したお金はアカリちゃんのもの。私たちが言い争いをしていると、アカリちゃんは肩身が狭そうに立っています。その姿を見て胸が張り裂けそうになった私は、気付いたら「うちの子になる?」と声をかけていました。「いいの?」目に涙をいっぱい溜めながら聞き返すアカリちゃんを、私は頷きながら抱きしめました。
夫も引き取りたいと思っていたようですが、新婚早々で私に迷惑をかけるわけにはいかないと遠慮していたそう。こうして、アカリちゃんは正式にわが家の養子となりました。
10年後、義兄が訪ねてきて…
それから10年の月日が流れ、アカリちゃんは医学部の大学生になりました。ことあるごとにお金の心配をされましたが、義姉夫婦が複数の学資保険に加入してくれていたので、なんとかなりそうです。
そんなとき、アカリちゃんのSNSを偶然目にした義兄がわが家を訪ねてきました。医学部に進学したことを知り、隠していた遺産があるのではと勘繰ったようで、遺産をよこせ、学資保険は満額受け取ったのか、としつこく聞きます。
時間が経ってもお金への執念は変わっていないよう。このままではアカリちゃんに一生ついて回りそうだと思い、話し合いの席を設けることにしたのです。
いつまでも子どもじゃない!
義兄は部屋を用意したから自分の家に来いとアカリちゃんを誘いました。もちろん目的はアカリちゃんが相続した分の遺産と、そろそろ老後が心配になったのか、医者の卵の姪を近くに置いておくことに違いありません。
しかしアカリちゃんはキッパリと義兄夫婦を拒絶。いつまでもあのときのような子どもではありません。たとえ医者になっても絶対に頼られたくない、お金は渡さないと告げました。
義兄夫婦はアカリちゃんがいつまでも子どもで、簡単に自分の言いなりになると考えていたのでしょう。あまりに大人になっていた姪に、ただただ驚いていました。
その後、アカリちゃんは小児科医になりたくさんの子どもの命を救っています。私はそんな娘を誇らしく思います。大変なこともありましたが、私を母にしてくれたアカリちゃんには感謝しかありません! もう立派な大人ですが、義姉夫婦の代わりにこれからも見守っていくつもりです。
血のつながらない母娘でしたが、きっと本当の親子以上の絆を作り出したのでしょう。義姉夫婦を亡くしたのは悲しいことですが、こんな家族の形もあるのですね。