心身ともにボロボロに…
30年前の私は、学生時代からの友人と興した会社を軌道に乗せるのに一生懸命でした。ようやく経営が上向きになり、これからというときのこと……。秘書をしてくれていた当時の恋人が、あろうことか私の友人と浮気をしていたのです。
おまけにその現場に遭遇したのは早朝の社内。震えながら私が問い詰めると、2人は謝罪どころか開き直り、そろいもそろって一緒に退職届を出してきたのです。しかもなんと、友人は私に隠れて別会社を設立済み。どんな手口を使ったのか多くの社員を引き抜いていき、おまけに取引先まで奪取してしまったのです。
おかげで私の会社は廃業寸前に……。残ってくれた社員のためにも何とか立ち直らねばと、唇をかみしめて奮闘していた私は、たった数週間でげっそりやせ細ってしまいました。
応募してきたのは?
そんなある日。人手不足のため社員を募集していたわが社に、杖をついてボロボロの服を着た見知らぬおばさんが応募してきたのです。私としては、即不採用を言い渡してもよかったのですが、せっかく来てくれた方をすぐ追い返すのも気が引けます。面接だけでも、と会議室に通しました。
履歴書を受け取りながらも、内心では大したことはないだろうと思っていたのですが……。なんとビックリ、化粧品&ファッション系の海外の学校を卒業し、宅建だの簿記1級だの、数々の有資格者で、大変優秀な人のよう。落ち着かない様子でキョロキョロとドアのほうを見ている彼女を改めてじっくり見た私は、あることに気が付きました。
「すみません、気に障ったら……。あの、なぜ特殊メイクをしているんですか?」
すると彼女はビックリして私のほうに向き直りました。「ごめんなさい。実は私、面接に来たのではなく、こちらの共同経営者さんに用がありまして……。顔バレしないためにこんなことを……」
そう、この人は、数カ月前に私を裏切った友人の知り合いだったのです。
「彼は辞めました」「えっ?」
初対面ながらなぜか話しやすい彼女に、つい私はいろいろ話してしまいました。すると、彼女のほうも彼に恨みがあり、乗り込むつもりで来たのだとか。詳細は聞きませんでしたが、これも何かの縁。来社は応募が目的ではなかったものの、一生懸命説得し、わが社で働いてもらうことになったのです。
今後のお客様は
その翌朝。特殊メイクを落として来社した彼女に、私は一目惚れ。おまけにその実力は半端なく、仕事効率は5倍になり、会社の業績もみるみるうちに上昇していきました。
そんなころ……。なんとあの裏切り者の2人がわが社に押しかけてきたのです。どうやら、うちの売上が倍増しているのを知って気に食わなかった様子。それだけではありません。元社員たちを引き抜いてまで設立した別会社で失敗し、借金まみれなのだとか。なんと彼らはお金をせびってきたのです。
すると、私の隣に凛と立っていた女性に気が付いた元友人。「何だお前、この会社にいるのか。昔俺にベタ惚れで、いつも助けてくれたよな。今回も前みたいに金をくれよ」とニヤついて言い寄りました。そう彼は、かつて恋人だった彼女を裏切って金銭まで奪っていたのです。
私は思わず前に立ちはだかりました。「私なら、あなたを悲しませることは絶対にしない。あなたが好きだ、恋人になってください」。すると彼女も満面の笑みで答えてくれました。「私もです! 」
こうして、もう裏切り者たちのことなど眼中に入らなくなった私たち。警備員さんを呼んで2人には穏便に出て行ってもらいました。
その後はというと……。元友人の会社はついに倒産。引き抜かれていった元社員たちは、彼にだまされていたのだとか。残業や休日出勤が続いた挙句、給料も未払いでひどい待遇だったそう。全員私に謝罪し、わが社に戻ってくれることになりました。こうして今の幸せな生活を手に入れられたのです。
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友人にも恋人にも裏切られ、どん底状態で出会った「ボロボロのおばさん」が、その後最愛の女性になるとは……。すてきですね。人生山あり谷あり、思いもしないところに出会いがあり、幸せな未来が待っているのかもしれません。
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