離婚を決意
ついに、ヒリヒリした毎日に限界を迎えた私が爆発! 単刀直入に浮気しているのかと聞くと、夫は「俺のこと疑ってるの?」と冷たい目で私を見ます。
休日はひとりで出掛けていき、仕事から帰っても部屋から出てこようとせず、会話もほとんどなし……こんな状況が続けば疑いたくもなると反論すると、夫はそれを否定するわけでもなく「だったら好きにすれば?」と言いました。
もう以前のように私を愛してくれる夫ではなくなってしまった……。そう思った私は、それならせめて夫をきらいにならないうちに離れたいと考え、離婚を決意。案の定、夫もすんなりと離婚を受け入れてくれました。
そして、あれよあれよという間にあらゆる手続きが進み、気付けば明日は離婚届を出しにいく約束をした日。
私は、最後に1つだけお願いを聞いてほしいと夫に言い、お気に入りのレストランで最後の食事をしようと提案しました。夫も「いいね!」と乗り気です。久しぶりに、夫のやさしい笑顔が見られました。
最後のデートに現れたのは謎の女性
仕事を終えた私は、少し早いと思いつつレストランに向かいました。プロポーズ、結婚記念日、誕生日……私たち夫婦の大切な日を過ごしてきたレストランに、こんなにつらい気持ちで行く日が来るとは思ってもいませんでした。
「あなたたち夫婦の最初から最後までを見届けられて光栄ね」予約を入れるとき、簡単に事情を話していたため、オーナーの奥さんは私を見るなり、そう声をかけてくれました。いつも穏やかなオーナー夫婦は、私の理想の夫婦像だったのです。
私は涙をこらえながら軽く会釈をして、案内された窓側の席へ。「先にお店に入っている」と夫にメッセージを送り、夫が来るのを待っていました。
しかし、待ち合わせの時間を大幅に過ぎても、夫は現れずメッセージも既読にはなりません。直前で気が変わったのかもしれないと不安になっていると、私の前に1人の若い女性が現れました。
「あの……マイさんですよね?」と若い女性。彼女は私の名前を知っていましたが、私はまったく知りません。不思議に思いながら頷くと、女性は静かに「旦那様は今日、ここには来ません」と言ったのです。
夫の隠し事
「あなた、夫の浮気相手……?」私が尋ねると、女性は首を横に振り、自分はここのオーナー夫婦の娘だと言います。オーナー夫婦の娘さんは、医師として海外で働いていると聞いていたのですが、どうやら半年ほど前に帰国して、今は日本の病院で勤務しているのだそうです。
偶然にも、娘さんの勤める病院についさっき夫が緊急搬送されたとのこと。娘さんが夫に家族の連絡先を聞いたところ、ここで自分の到着を待っていると言われ、ビックリして呼びに来たという話でした。
私は、娘さんに付き添われて慌てて病院に向かいました。その道中で、夫が半年前にガンの宣告を受けたことを聞かされたのです。
半年前といえば、夫の態度が変わったころ。私が感じ取っていた隠し事というのは、浮気ではなく病気だったようです。夫は何度説得しても、頑なに妻には病気を明かさないでほしいと譲らず、きっと病気を理由に離婚はしてくれないだろうから、頑張って嫌われる努力をすると言っていたそう。
その話を聞いて、何も知らなかったとは言え勝手に浮気を疑い、夫の体調など気に留めることもなく、自分のイライラをぶつけてしまったことを後悔した私。離婚は撤回し、夫と一緒に病気に向き合うことを決めたのです。
全力で闘い抜いた時間
病院に到着すると、夫は点滴を受けている最中。私に気付き、気まずそうな顔を見せました。私は手を握り、「一緒に闘いたい」と告げたところ夫は嬉しそうに笑ってくれました。
それからは、文字どおり一丸となってあらゆる治療を試し、私たちは夫婦としてより一層絆が深くなりました。しかし、一進一退を繰り返しながらも夫は帰らぬ人に……。
やれるだけのことはやったと自信を持って言えるほど濃い時間を過ごしたので、後悔はありません。きっと、何も知らずに離婚を選択していたら一生後悔していたと思います。
夫がいなくなったのを受け入れるまで、まだ少し時間はかかるかもしれませんが、夫には何に対しても全力で向かうことの大切さを教えてもらった気がします。今後も、月命日にはいつものレストランに足を運んで、オーナー夫婦と夫の思い出話でもしながら、夫の分まで今を全力で生きていきたいと思います。
自分が大きな病気だとわかったとき、できれば大切な家族には迷惑をかけたくないと思う人が多いと思います。でも、相手を思ってしたことが、かえって相手を傷つけてしまうこともありますよね。
何事も、自分だったらどうされたいか、そんな視点で物事を考えるのも、いいのかもしれません。