関係の変化
ことの発端はキヌエの祖父の他界。地主だった祖父の遺産を相続したのだそう。それ以来、キヌエ一家の私たちに対する態度が一変しました。
母がいつものようにおすそ分けの野菜を持っていくと「今はもう食べ物に困っていないから偉そうな顔をしないでほしい、今後は気安く話しかけないでほしい」と一方的に言って玄関のドアを閉められてしまったようです。
程なくして、私のもとにもキヌエから「あんたとは絶交するから!」というメッセージが届きました。キヌエによると「私のほうが上だからかわいそうだと思うな、本当はずっときらいだった」と……。
一番の親友だと思っていたキヌエにそんなことを言われ、当時はショックを受けましたが、違う高校に進学したこともあり自然と疎遠になりました。
やがて私は大学進学を機に、県外で一人暮らしを始めます。同じタイミングで、キヌエ一家も別の街にあるタワマンに引っ越したようで、私がお正月に帰省したときには、キヌエの家が建っていた場所は更地に。キヌエがどこで何をしているのか、わからなくなりました。
かつての友との再会
私が地元に戻ったのは、それからずいぶん後のこと。学生時代から付き合っていた婚約者との結婚を控えた私は、彼と共に父の仕事を手伝うことになり、実家の近くのマンションに引っ越してきました。
時を同じくして、なんの偶然かキヌエも両親と一緒にこの街に戻ってきたという噂を耳にしました。どうやらキヌエ一家の家計が思わしくなく、タワマンを引き払ったのだとか……。
今更顔を合わせたくないと思っていたものの、狭い街なのでそうもいきません。彼とスーパーで買い物をしていたときに、バッタリ出会ってしまいました。
キヌエは私への挨拶もそこそこに、彼に向かって「この子はやめておいたほうがいいですよ、私のことを昔から見下してきて、性格わるすぎるから!」と笑って言います。
彼は「大学時代から私のことを見てきたから、そんなことをする人ではないことはよくわかっている」と伝え、そんなことで別れないとキッパリ言ってくれました。
彼に言い返されて悔しそうにするキヌエを横目に、私たちはさっさと買い物を済ませて帰ったのですが、その日からなんとなく彼の様子がおかしくなってしまいました。
婚約者の様子がおかしい
彼は毎日どこかに寄り道をするようになり、以前よりずっと帰りが遅くなりました。しかも、同僚から彼が派手な女の人と一緒に歩いているのを見たと聞いてしまい、もしかしてキヌエと彼がそういう関係になっているのかも……という疑惑が頭をよぎります。
ハッキリと彼に確認する勇気が持てないまま時間だけが過ぎていき、ついに結婚式の前日がやってきました。このまま結婚式を迎えていいのかモヤモヤしていると、キヌエからの着信が……。
嫌な予感を抱えながら電話に出てみると「これから結婚式だよね! ごめんねぇ、奪っちゃって」そう言って、キヌエが笑っています。
「どういうこと……」と私が言い終わらないうちに「だって、あんたムカつくんだもん! 婚約者は全然私になびかないから、代わりに参列者はまるっと貰ったの。友だち奪ってごめ~ん!」とキヌエ。
私は意味がわからず電話口で固まっていましたが、キヌエはお構いなし。一方的に続けます。「私の婚約者、ダイチくんなの。だから中学の同級生はみんなこっちに来てくれてて、あんたの結婚式はスカスカでしょうね!」
この言葉に、私の頭の中はさらに混乱……。すると、私の隣に彼がやってきて「そっちの式は中止になるから大丈夫! そう伝えて」と言いました。
事態が飲み込めないまま、私は彼の言う通りにして通話を終えました。
婚約者が隠していたこととは?
その後、彼から聞かされたのは衝撃の事実! 彼はキヌエに毎日つきまとわれていたようで、家がバレないようにキヌエをまいてから帰っていたそう。だから毎日遅くなっていたのでした。
自分になびかない彼に痺れをきらしたキヌエは、私たちと同じ日に結婚式を挙げ、招待客を根こそぎ奪って、私に惨めな思いをさせようと企んだよう。彼にしつこく結婚式の日程を聞いていたとのことですが、絶対に何かあるとにらんだ彼は、1日ずらした嘘の日程を伝えていました。
おかげでキヌエの作戦は失敗。しかし、キヌエの婚約者だと言うダイチくんは、昔から何をやるにもみんなの中心にいた人気者です。もし日程が被っていたらと思うとヒヤっとします。
嫉妬や悪意が招いた結果…
ここからが彼の作戦! 彼は浮気を疑われないよう、キヌエにつきまとわれていたときの音声をスマホで録音してたよう。その音声をダイチくんに転送し、婚約者がキヌエにつきまとわれていて迷惑をしたと伝えるよう、私に指示しました。
音声を聞いたダイチくんは激怒し、その場で結婚式は取りやめになったと、出席していた知人から聞きました。
もともとキヌエとダイチくんは親の会社同士で取引があったことから縁談が持ち上がった、いわゆる政略結婚だったよう。ダイチくんは結婚をやめるきっかけを探していたのかも? と、同級生の間ではもっぱらの噂です。
翌日、私の結婚式には招待客全員が出席してくれ、とても素敵な式になりました。彼への疑いも晴れてスッキリ。頭がキレる彼のことをますます好きになりました。
自身の嫉妬や悪意が、自分自身を苦しめることになってしまいましたね。相手を不幸にしようとした結果、絆を強める結果になったのは皮肉なものです。