なんと、ウェディングドレスの私に、義父がビールをぶっかけてきました。全身ビールまみれになったまま、あ然としていた私。義父はふんと鼻を鳴らしてわめきました。
「下請け会社の娘ごときが俺の息子と結婚するからこんなことになるんだ」
「ざまあみろ!」
突然、義父が結婚を反対し出したワケ…
一瞬状況を理解できなかった私ですが、少しずつ理解していきました。どうやら義父は、私の両親のことが気に入らない様子。
もともと、義父は町工場を経営する両親を見下し、「顔合わせなんてしたら、いつ援助を求められるかわからない」「格上の企業とのつながりができるだけありがたく思え」「顔合わせは必要ないからとっとと立派な式をあげろ」と言っていました。
そのため、義父とうちの両親は結婚式中に初めて顔を合わせることになったのです。
「ただの町工場の娘なら結婚を許したが、よりによってうちの下請け会社の娘だったとは……」「私の会社が落ちぶれているように見えるだろうが!」「それに、前からお前の父親は値上げ交渉ばかりしてきて気に入らなかったんだ!」と義父。
両家顔合わせを断ったのは義父なのに、今さらそんなことを言われても……と戸惑う私。
婚約者と義母はひたすら謝ってくれましたが、そんな家族の姿を見ても「当たり前のことしか言ってないだろう!」と義父は威張り散らすのでした。
涙が止まらない私に父が言ってくれたこと
「弱小工場の貧乏人と息子が結婚なんて許さん!」
「社長の俺ならお前の会社と取引中止なんて簡単だなw」
「こんなことして正気ですか?」
「下請けが生意気なw」
髪の毛から滴るビールのしずくを払いながら、私は毅然とした態度を崩さずに反論することに。
「こちらとしても取引中止はありがたいですね」「下請けというだけで貧乏人扱いするなんて……そんなひどい取引先はわが家には必要ありません」
私の言葉を聞いて、今度は小馬鹿にしたように鼻を鳴らした義父。「泣いて謝れば、まだ考えてやったものを……」「こうなったらお望み通り、すぐに取引中止にしてやる」「後悔しても遅いからな!」と言い捨てて、義父は鼻息荒く去っていきました。
式場スタッフに新郎と両親を呼んでもらい、事情を説明した私。せっかくの結婚式が台無しになったうえ、父の主要な取引先を勝手に切ってしまったことが申し訳なくて、涙が止まりませんでした。
しかし、父は「大丈夫だよ」と笑い飛ばしてくれたのです。
「実は、この結婚式に大元の発注先の方々も来ていてね」「話しているうちに、新郎のお父さんの会社が悪質な中抜きをしていることが発覚したんだ」「せっかくだからこのまま直接契約にしないか、ってところまで話が進んでいるんだよ」
婚約者も「うちの父が本当に申し訳ないことをした」「父は追い出すから結婚式を続けよう、ドレスを着替えておいで」と、私の目を見てしっかりと言ってくれました。
私は目を真っ赤に腫らしながら、母に支えられてもう一度お色直しをすることに。会場に戻った時にはすでに婚約者の父の姿はなく、その後は素敵な披露宴を楽しむことができました。
義父の哀れな末路
翌日――。
無事に婚姻届を出した帰り、私のスマホに義父から連絡が。昨日のことを思い出して憂鬱になりながら電話に出ると……。
「頼む!どうか直接契約だけはやめてくれ!」「結婚を認めるし、中抜きの金額を少し下げてやる!」と義父。
人にものを頼むときですらこんな言い方なのか……と呆れて、思わず私はため息をついてしまいました。すると、そのため息が気に障ったのでしょう、義父は「この私がこんなに頼んでいるのに生意気だぞ!」「お前の夫がいずれ継ぐ会社が傾いてもいいっていうのか!?」と怒鳴ってきました。
「え?俺、父さんの会社継ぐつもりないけど」と、隣にいた夫がきょとん。「下請けどころか、自分のところの社員ですら大事にできない親父のあとなんて、絶対に継ぎたくないよ」と私の代わりに返事をしてくれたのです。
「それに、俺は妻の実家の会社を継ぐために婿入りしたし」「俺は俺の人生を歩んでいくから、金輪際俺たちに関わらないでくれ」と言って、夫は電話も義父との縁も切ってくれたのです。
その後――。
結婚式での義父の行動を見ていた義母は、すぐに離婚を決意。身の回りの世話をしてくれる人がいなくなった義父の生活は荒れ、さらに言動が粗暴になっていったそうです。
父によると、義父の会社は多くの取引先を失い、従業員も減り続けているそう。倒産へのカウントダウンが始まっている状態だと聞きました。それでもなお義父は威張り散らしているらしく、父から話を聞いた夫も私も呆れることしかできませんでした。
今、夫は父についてうちの実家の仕事を一生懸命学んでいます。決して大きな工場ではありませんが、ずっと経営を安定させている父の手腕を尊敬し、真摯な姿勢で仕事に向き合っている夫の姿を見て、いろいろあったけどこの人と結婚できてよかったな、と思っています。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。