「トップの成績で大学に入学したらしいんだけど、家庭の事情で大学を辞めるしかなかったみたいで……」「ただ、とても意欲的な子だったから、ぜひうちで秘書をしないかって俺から誘ったんだ」と夫。
「若さゆえの吸収力もあるし、新しい発想や柔軟性もあるから大丈夫だろ!」と意気揚々と語る夫に、私は一抹の不安を覚えたのでした。そして、その秘書の彼女から「ぜひ奥様にご挨拶を……」と電話がかかってきたのです……。
ご挨拶は宣戦布告
お互いに自己紹介を終えると、彼女は「これから、社長のことは私にすべて任せてください!」「社長も私には特別やさしくしてくれてるんで!」と言ってきました。
「夫は誰に対しても公平に、そしてやさしく接する人ですよ」「きっと働き始めたばかりのあなたに気を遣っているんでしょう」と私はあえて牽制しました。
すると、彼女は「まぁ、私奥様よりも一回りも下ですし?」「私がそばにいるだけで場が華やぐし、癒されるって社長も言ってくれてますから、奥様はおうちでのんびりしててくださいね~」と言い返してきたのです。
社長の専属秘書となるには、社会性もマナーも、そして品性も足りていないように感じられました。しかし、常日頃から「お前は仕事のことに口出しするな」と夫に言われていたので、私は「夫をどうぞよろしくね」と穏便にその場を終わらせたのです。
専属秘書の特権
その後――。
夫にメッセージを送るたびに、秘書の彼女から「勤務時間中にメッセージを送ってこないでください!」「大事な取引先との会食中なのに、そんなことも察することができないなんて……よくそんなんで社長の奥様なんてできますね」と連絡が来るように。
しかし、私は残業も会食の予定も、何も聞いていないのです。それまでは必ず事前に連絡をくれていたのに……。
「仕事の邪魔ばっかりする奥様がいて、社長ったらかわいそう……」「私が彼の妻だったら、もっと仕事に集中できるようにしてあげるのに!」とまで言われてしまい、私は仕方なく「仕事が終わり次第、連絡するように伝えてください」とだけ告げて彼女との電話を切り上げるのでした。
それから1カ月後――。
前日に仕事に行ったっきり、帰って来なかった夫。心配した私は、何度もメッセージや電話を入れましたが、返信どころか既読すらつきません。気をもんでいると、秘書の彼女からまた「奥様!何度注意すればわかってくれるんですか!社長は今、出張中なんですよ!」「勤務中の社長への連絡は控えるように言いましたよね?」と電話がかかってきました。
出張の予定は、夫からは聞かされていませんでした。夫婦で共有しているカレンダーアプリにも入っていません。
「奥様は社長のスケジュールを把握してないんですか?」「聞かされてないとか、妻なのに惨めですね」「私なら社長のスケジュール、完璧に把握してますけど」
専属秘書が社長のスケジュールを把握しているのは当然でしょう、それが業務なのですから。そう言いたい気持ちをグッとこらえ、「どこへ出張へ?」と行き先を聞きました。
すると、彼女は「出張先については企業秘密なので、奥様にも言えません」「でもすご~~~く大事な出張なんです」「そして、もちろん私は社長にお供させていただいているので道中は2人っきりです」と言ってきました。
私はため息をついて、「では、夫に『帰ってきたら大事な話がある』と伝言をお願いできるかしら?」と言いました。しかし、彼女は「私がすべてお伝えしておきますから、社長に話す内容を教えてください」と譲りません。
「完全に夫婦のプライベートの話なの」と言っても、「出張すら教えてもらってないのに何が夫婦ですか!」「っていうか、私よりも社長と過ごす時間少ないくせに」と私を煽ってくる始末。
「そろそろ自分の立場をわきまえたらいかが?」と言っても、彼女は余裕しゃくしゃくなのでした。
立場が変わるのは
「奥様こそ、いつまでも社長夫人でいられると思わないことね」「最近、社長も『君が妻だったらうれしい』って言ってくれるし!」と彼女。
「社長は若くてかわいい子の方がいいって言ってるわw」
「専属秘書から社長夫人になるから奥様は別れて下さい」
「社長って誰が??」
「え?」
一瞬間が空いて、彼女は「社長って彼以外にいないじゃないですか~!」と大笑い。専属秘書なのに、本当に何も知らないようです。
実は、夫は雇われ社長。夫が社長を務めている会社は、もともと私の実家が経営していた会社なのです。そして、会長は私の父親。社内の大事な権利や権限はいまだに父が持っているため、夫はお飾りのようなものなのです。
「出張だと偽って不倫旅行するような社長はいらないのよ」「すでにクビも決定してるし、夫はもう社長ではなくなります」「そんな情けない男でよかったらどうぞもらってちょうだい、すぐに離婚してあげるから」
彼女が入社してきた時点で、女の勘が働いた私はすぐさま父に相談。父が会社のセキュリティログをチェックすると、勤務時間帯にもかかわらず、夫も彼女もオフィスにいないことがしばしばあったそう。
同時に、私は興信所に夫の調査を依頼。高級ホテルで秘書の彼女としっぽり過ごしていることが明らかになるまで、時間はかかりませんでした。
さらに、秘書の彼女は、夫が持っている会社用のクレジットカードを好き勝手使っていたことが発覚。ブランド品や高級バッグなど、その額は600万にも及んでいました。秘書として雇われたにもかかわらず、会社のお金と社長個人のお金の区別がついていなかったようです。これには私もほとほと呆れました。
「夫にはもちろん、あなたにも慰謝料を請求します」「あと、横領した会社のお金も耳を揃えて返してちょうだい」と言うと、彼女は「う……嘘でしょ……!」「社長夫人になれると思ったのに!!」と泣き叫んでいました。
その後――。
父の権限で、夫と秘書の彼女は追い出されました。もちろん、私はすぐさま元夫と離婚。2人の仲もこじれてしまったようでした。
私は元夫と元秘書の彼女からの慰謝料を毎月分割で受け取ることに。「仕事に口を出すな」と言う元夫もいなくなったので、実家の会社の経営に携わることになりました。今は経営戦略を学ぶのが楽しくて仕方ありません。父も私に会社を継がせたいと思っているようなので、もっと会社を大きくできるようにがんばろうと思います。
【取材時期:2024年9月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。