長い不妊治療の末に妊娠。しかし…
結婚後、なかなか妊娠せず、不妊治療をしていた私たち。3年間タイミング療法で授からず、体外受精にステップアップ。往復3時間の通院や毎日の服薬に加え、職場への急な休みの申し出など、過酷な日々でした。
それでも赤ちゃんが欲しい、夫をパパにしてあげたい一心で私は治療を続け、5年かけてようやく妊娠できたのです。
妊娠初期のある日、朝から少量の出血と腹痛があり、横になっていました。私は看護師として病棟勤務をしており、その日は夜勤だったため不安を抱えながらも出勤しました。
夜勤中、おなかの痛みは我慢できる程度だったのですが、朝方になり痛みが強くなってきて嫌な予感が……。
強くなる腹痛に耐え、私はなんとか夜勤を乗り越えようとしたのですが、トイレへ駆け込んだそのとき、大量に出血したのです。
「だめだめだめ、お願い! お願い!」
願いもむなしく、出血は止まってくれませんでした。
絶望する私のもとへ駆けつけた夫
私は震える手でトイレ内のナースコールを押しました。来てくれたスタッフに言葉にならない声で、「どうしよう。すみません。夫を呼んで……」。これが精いっぱいでした。
夫は幸いにも同じ職場で、出勤していたためすぐに駆けつけてくれました。そして、私の青ざめた顔をみて状況を把握した夫。
「どうしよう……ごめん、ごめん……」
私は必死に声を押し殺して泣きました。
普段、人前では手もつながない夫ですが、人目もはばからず力強く抱きしめてくれました。
「大丈夫、大丈夫だから」
絶望の中、安心する声と体温を感じながら、身も心もすべてを委ねました。
夫と病院へ…流産宣告と今後のこと
そのまま不妊治療をおこなっている病院へ夫の運転する車で向かいました。道中、夫は泣き続ける私の手を握り、「まだわからないから」とつぶやいていました。
病院に着くとすぐに診察室に案内され、エコー検査。
「あー……」という先生の声に、やっぱりか……と悟る私。
医師から「残念ですが、今は進行流産の状態で、これから完全流産となります」と伝えられました。今後の対応について説明を聞いたあと、夫が「わかりました……」とだけ答え、私たちは診察室を出ましたが、私はひたすら涙するだけで夫の顔も見ることができませんでした。
流産は不妊治療にかかわらずつらい経験ですが、不妊治療で5年もかかった妊娠だったため、私には悲しいだけじゃない、もっとたくさんの複雑な感情がありました。
またゼロからのスタートだと思うと、絶望と悔しさと悲しみがグルグル頭の中を巡り、1カ月経っても夜になると涙を流す日々。
「こんなにつらいのなら妊娠なんてしなければよかった」
「なんで泣かないでいられるの? 悲しくないの?」
私は夫にひどい言葉をたくさん投げつけました。
それでも夫は、「悲しいよ。だけど俺が泣いてたら誰が君を慰めるの? 君のおなかに1度は宿った命だよ。君が一番つらいはずだから……」と。
本当は夫も悲しかった、傷ついていた……その気持ちを胸に秘めたまま私に寄り添い続けてくれた夫の気持ちを聞いて、私はそばで支えてくれる夫と再び治療をする覚悟ができました。
治療を再開して1年後、再び私たちのもとへ天使が舞い降りてきてくれました。今度は大丈夫だろうか……そんな私たち夫婦の不安をよそに順調に育ってくれた赤ちゃん。無事に元気な産声をあげて生まれてきてくれました。
第1子の流産は今までに感じたことのないほどの悲しみと絶望に襲われましたが、心から寄り添ってくれた夫の行動に私は救われました。「この人と夫婦でよかった」と思い、夫には本当に感謝しています。
現在は子育てに奮闘しながらも、夫とまた新たな家族に出会える日を楽しみにしています。
著者:森 えれな/30代女性。2020年生まれの女の子のママ。長い不妊治療を経て生まれた待望のわが子を溺愛中。看護師歴10年以上、現在はフルタイム夜勤ありで働いている。趣味はスポーツ観戦。
作画:おはな
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2024年12月)