「私はいくつになっても、毎年お祝いしていきたいけど……」と言ってはみたものの、「俺たち結婚して何年経ったと思ってるんだよ」「ただダラダラと結婚生活続けてるだけなのにわざわざ祝うなんて、金の無駄!」と取りつく島もない夫。
初めての海外に浮かれているのか、「結婚生活を祝うくらいなら、まずはお前なんかとまだ婚姻関係を続けてる俺に感謝してくれよ」「年々化粧は薄くなってくるし、体型も崩れてきたし……」と夫は言いたい放題。
たしかに夫が言ったことも事実。しかし、老化しているのはお互い様です。
私が反論しようと口を開きかけると、夫は「じゃ、いつものレストランの予約はキャンセルで!」「今年から結婚記念日は祝わないからな!」と念を押すように言ってきたのです。
夫のありえない忘れ物
そして、夫の海外出張当日――。
私が家の中を整理していると、あるものを見つけました。それは夫が持っていなければならないもの。私は慌てて夫の会社に電話をかけました。
「いつもお世話になっております!」と出てくれたのは、私も何度か顔を合わせたことのある夫の直属の後輩でした。
「すみません、夫が乗る飛行機の時間ってわかりますか?」「できれば便名も教えていただきたいのですが!」と矢継ぎ早に質問する私に、「どうしたんですか!?」と後輩。
「夫ったら忘れ物してて……何度連絡しても電話に出ないので、もう直接私が空港まで届けようかと思ってて……」と言うと、「それなら僕が届けますよ!」「ちょうど空港方面の支店に行く予定があるんです!今からご自宅にうかがいますので、僕が高速飛ばして渡してきます!」と頼もしいことを言ってくれました。
「なんだか申し訳ありません……」「飛行機に乗るのにパスポートを忘れるなんて、いったいどうやって出張先に行くつもりなのか……」と、安堵から思わず愚痴をこぼしてしまった私。
すると、後輩は「いやいや、奥さん!今回の先輩の出張に、パスポートなんて必要ありませんよ!」と笑いながら言ってきたのです。
「え……」と私が言葉を失うと、「先輩が出張先を伝え忘れたんですかね?国内線はパスポートなんて必要ないですよ!」と重ねて言ってきた後輩。
その後輩の言葉を聞いて、私はあることに思い当たったのです。
嘘つき夫が向かった先
2時間後――。
「おい、あの電話の件数はなんなんだよ……」「着信30件って不気味すぎるだろ」と、ようやく連絡をしてきた夫。
「こうして連絡できてるってことは、もう出張先に着いたのかしら?」と聞くと、「あぁ、そうだよ」「日本からそんなに遠くないタイだし、直行便だったからすぐに着いたよ」と夫。
飛行機とはいえ、タイまで2時間しかかからないと思っているなんて……。あまりにもずさんな嘘に私はため息をつきました。
「あなたの忘れ物を届けたくて、何度も電話をかけたのよ」
「え?もう出張先のタイに着いたけど、こっちで調達できるもの?」
「おかしいわね、パスポートなんだけど?」
「え?」
私の手にあるのは、夫のパスポート。これを使わずに入出国なんてできるはずありません。
「いや、それはあれだよ」「パスポートを忘れても意外となんとかなるもんなんだよ」と夫。私は呆れ果てながら「で、日本国内のどこにいるのかしら?」と尋ねました。
「えっとそれは……」と、まだ言いよどむ夫。私はいらだちを隠しきれず、「沖縄にいるんでしょ!」「全部ネタは上がってるんだからね!」と言いました。
先ほど、夫の後輩から私は夫の出張の全貌について聞き出したのです。夫が出張に行くのは本当でしたが、それはタイでの7泊8日ではなく、沖縄での2泊3日。しかし、夫は有休を取って1週間沖縄に滞在すると言っていたそう。
後輩は「先輩なら『出張終わりに奥さんと沖縄で合流して、結婚記念日をお祝いするんだ』って言ってましたよ?」と言っていました。いったいどこの誰と結婚記念日を過ごすつもりだったのやら……。
嘘つき夫の末路
3日後――。
結局、夫は本当の出張の2泊3日だけで切り上げて、沖縄から帰ってきました。
「お願いだから家に入れてくれ!」「出張を終えてまっすぐ帰ってきたよ!」「浮気してすまなかった、でも浮気相手とは別れてきたから!」と電話口で半泣きで言う夫に、私は「で、今回別れたのはどの子かしら?」と返しました。
夫が沖縄にいることがわかってすぐ、私は夫の部屋を隅から隅まで調べ尽くしました。すると、浮気の証拠が出るわ出るわ……。こんなにいろんな女の子に手を出していたとは思いませんでした。
「自分のことを棚に上げて、年々劣化する私のことを馬鹿にしていたじゃない」「この際、離婚しちゃったほうがいいんじゃないかしら?」と言うと、「あんなのはちょっとした冗談だよ……」「離婚するつもりなんてないんだ、だから玄関を開けてくれ!」と夫。
しかし、私はその家の玄関をもう開けられないのです。
「ごめんね、実はその家、もう解約しちゃったんだよね」「浮気の証拠も十分にそろったから、すぐに家を解約したの」「あなたの荷物はあなたの実家に送ってあるし、私はすでに自分の実家に帰ってます」
夫の会社よりも、私の会社のほうが家賃手当の補助額が大きかったため、家は私の名義で借りていたのです。だから、夫の許可なくすぐに解約できました。
「結婚して何年一緒にいると思ってるんだよ!思い出の詰まった部屋を勝手に解約するなんて!」と騒ぐ夫に、私は「一度失った信頼はもう取り戻せないのよ」「離婚についての話し合いは両家交えてやりましょうね」とだけ告げました。
その後――。
事情を知ったうちの両親も、義両親もブチ切れ。夫は泣く泣く離婚届にサインしていました。
また、元夫が出張や接待費と偽って、浮気デート代を経費申請していたことも発覚。結局、元夫は会社も解雇されてしまいました。その後任には、あのとき助けてくれた元夫の後輩が就いたそうです。心ばかりですが、お祝いを贈らせていただきました。
【取材時期:2024年11月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。