「連絡先は旦那さんからお聞きしました!奥様にも一応ご挨拶しておきたくてご連絡したんです」と彼女。礼儀正しいなぁと感心していたのですが……?
注文の多い中途採用の看護師
彼女は続けて「今日の初出勤、旦那さんがわざわざ家まで迎えに来てくれて!」「そこで奥様のことを聞いたんです!」と言い出したのです。
さらに、彼女は「彼から秘書としても働かないかって誘われてて……」と続けました。
「院長が父親なら、彼は次期院長!秘書は必要ですよね?」「あと、私は夜勤パスなんで!肌荒れとか嫌だし、夜の予定とか組みにくくなるじゃないですかぁ」「年内には結婚したいんで、夜勤のシフトに私は入れないでくださーい」
慌てて、彼女の履歴書や面接での評価を確認した私。しかし、どこにも「夜勤NG」なんて書かれていません。
「ちょっと待ってください!」「面接のときにも夜勤の了承は得ているはずです」と言うと、「そんなこと面接のときに言えるわけないじゃないですかぁ」「言ったら採用されないかもしれないし」と彼女。
そして、彼女は「これからお世話になりますね、奥様!」とだけ言って、電話を切りました。彼女の態度に驚いて、私はしばらく言葉を失っていました。
夫の言い分
私はすぐさま、同じ病院で働く夫を問い詰めに行きました。
「この前の看護師の採用ってあなたが担当してたわよね?直接やらせてほしいって院長に直談判してまでやってたわよね!?」「さっき、中途採用で入った看護師さんから連絡があったの!」と、私は彼女から言われたことを夫にすべて話しました。
「え、マジ……?」と青ざめる夫。そして、「彼女が不安だって言うから仕方なく迎えに行ったんだ……看護師不足で大事な人材だから」と言ってきました。
しかし、うちの病院で働いてくれてる看護師さんたちだって、いろいろな不安を抱きながらうちに勤めてくれているはず。彼女ひとりだけを特別扱いなんてしてはいけないのです。
「でも、俺、彼女には逆らえなくて……」「実は彼女、政治家の娘なんだよ!」「病院の補助金や助成金なんかの融通を利かせてもらうためにはパイプが必要かなと思って。この病院の経営の手綱をにぎっている君なら喜んでくれると思ったんだけど……」
たしかに、私は院長である父から、この病院の経営を任されています。しかし、政治家とつながっているからといって、補助金や助成金がもらえるわけではありません。それにもしそうだとしても、そんな補助金や助成金は欲しいと思いませんでした。クリーンな経営を続けていきたいからです。
「こんなこと思いたくはないけど、あなた個人の趣味嗜好で選んだりしてないわよね?」「応募があった履歴書はすべて目を通しているけど、彼女より経歴のある看護師さんはたくさんいたわ」「政治家との太いパイプとやらは後付けの理由じゃないの?」
そう言うと、夫はムッとしながら「彼女なら一生懸命働いてくれるって!」と言い返してきました。
「でも、彼女、夜勤はパスって言ってたわよ?」「しかもあなたの秘書になるのがどうのこうのって言ってたし……あなた、秘書なんて使える立場?」「初日だから大目に見てあげるけど、何かあれば試用期間中にお断りするからね」
勘違い女と嘘つき男の末路
1カ月後――。
私のもとに、看護師長から例の彼女について、「夜勤に一切出ていないどころか、夜勤のシフトをほかの看護師に押し付けている」と報告が上がってきました。やはりか……と思いつつ、私は彼女に確認することに。
「夜勤パスって言ったじゃないですかぁ、師長さんに伝えておいてくれなかったんですかぁ~?」と彼女。いらだちを抑えながら、「正式に認めていないですし、そもそも募集要項に『夜勤あり』って書いてありましたよね?」と私。
「医者でも看護師でも何でもない人が口出さないでくれます~?」「私、夜勤の時間帯はあなたの旦那さんの秘書をやってるので」
しかし、夫に秘書は必要ないはず。具体的に何をしているのかと聞くと、「彼を癒したり、仕事のモチベーションが下がらないようにサポートしたり……あとは、食事に付き合ったり、話し相手になったりいろいろですよ!」と答えた彼女。
「私、昼は看護師ですが、夜は次期院長の秘書をしてるんです♡」
「つまり、医者の旦那様はいただいちゃいました♡奥さまごめんなさいw」
「医者って誰が?」
「え?」
「私の夫は医者じゃないですよ」「一般事務員です」と言うと、彼女は「そんなわけないじゃないですか!」「彼は院長の息子で、次期院長でしょ!」「苗字だって同じだし!!」と言い返してきました。
夫はうちに婿養子で入ったのです。結婚してからは、夫はうちの苗字を名乗っています。
「ここの院長は、私の実の父です」「だから経営は夫ではなく、私が担当していますし、この病院の次期院長は海外で修業している私の兄です」「そもそも夫は3年前まで一般企業のサラリーマンで、人員整理でリストラされて、行くあてがなくなってうちで事務をすることになったんですよ」
「身内にどんな政治家がいようと、既婚者である夫との浮気はさすがに許せませんからね」と告げたところ、彼女はキョトン。そして、「私、一般家庭出身の一般人ですよ?」「政治家なんて身内にひとりもいません」と言いました。
やはり、夫は私に嘘をついていたのです。
その後――。
私はすべてを院長である父に報告。激怒した父は、すぐさま彼女と夫を解雇しました。その間に私は夫と彼女の浮気の証拠をかき集め、夫に離婚を突き付けました。もちろん、両方に慰謝料の請求もしました。夫が浮気していたという事実はショックでしたが、騙されて結婚生活を送るよりも、夫の本性がわかって良かったと思っています。
私は相変わらず病院の経営に奔走しています。兄がもうすぐ帰国するので、今後は兄と協力しながら、ひとりでも多くの患者さんを救えるような病院の体制を整えていきたいと思っています。
【取材時期:2024年12月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。