「本当に馬鹿息子がごめんなさいね」と言って、今年もまた100万円を私に振り込んでくれた元婚約者の両親。
「もう昔のことだし、ご両親が責任を感じることでは……」「さすがにあのときはショックでしたが、私はもう立ち直りましたから!」と言っても、元婚約者の両親は毎年お金を振り込んでくれるのです。
「あなたが元気になってくれたのはとてもうれしいけれど、私たち親が許せないのよ」「親族もお友だちも会社の人も集まってくれていたのに、トイレに行くって言ってそのまま消えるなんて……」「本来なら、息子に慰謝料を払わせたいところだけど、音信不通だし……」と元婚約者の母。
「もし生きていたとしても、私たちはあの馬鹿息子なんかに1円たりとも残したくないの」「これは私たちのわがままみたいなものだから、私たちに協力すると思ってぜひ使い切ってちょうだい」と言われて、私は今年もまたお金を受け取ることにしたのでした。
しかしその数日後、失踪した元婚約者から電話がかかってきて……?
行方不明だった元婚約者からの連絡
「久しぶりだな、元気にしていたか?」と言われて、私はびっくり仰天。偽物かとも思ったのですが、「俺のせいで結婚式は中止になっちゃったし、お前のこともたくさん傷つけたよな、本当にごめん」と言われて、とりあえず元婚約者本人であることを信じることに。
「やっぱりびっくりしたよな?でも俺、どうしてもお前とやり直したくてさ……こっちに戻ってきたんだ!」
元婚約者から復縁を希望されて、またまた驚いた私。結婚式5分前に逃げ出し、5年間も音信不通だった人との復縁なんて考えられません。
「……5年前のことは本当にごめん、あのときの俺はただ意気地なしの男だったんだ」「急に結婚が怖くなって……それでつい逃げてしまったんだ!」「俗に言う、マリッジブルーってやつだと思う」
逃げたあと、元婚約者は冷静になり、なんて馬鹿なことをしたんだと自分で自分を責めたそう。しかし、逃げておいてどう戻ればいいのか悩んでいるうちに、5年も経ってしまったのだとか……。
「まぁ、こうして連絡をくれるのはうれしいわ」「生きてるのかどうかもわからなかったし……」「てっきり浮気相手と幸せにやってるかと……」と言うと、元婚約者は食い気味に「浮気相手だと!?そんなの俺にいるわけないだろう!」「俺はずっとお前一筋だよ!!」と言ってきました。
「5年前は結婚式から逃げてごめん…。あのときは急に結婚が怖くなって…」
「でも俺はずっとお前一筋だ。結婚式の続きをやろう。お前とやり直したいんだ」
「会場押さえとくね!今度こそ逃げないでね」
「当たり前だろ!」
私が会場をおさえると言ったことに気を良くしたのか、「自分から式場を用意してくれるなんて……俺との結婚をそんなに喜んでくれてうれしいよ!」と元婚約者。
「いろいろ決まったら連絡よろしく」と言う彼に、私は「全部まかせてちょうだい」「あなたは今度こそ、最後まで逃げずにいてくれたらそれでいいから」とだけ言いました。
式の真相
そして、式当日――。
「おーい、式場についたけど、お前はどこにいるんだ?」と元婚約者から連絡が来ました。
「本当にここで合ってるんだよな?てっきり前みたいなチャペルかと思ったのに……神社を指定されるとは思わなかったよ」と言う元婚約者に、「嫌だった?」と聞いてみました。
すると、彼は慌てたように「そんなことないよ!」「俺はどちらかというとドレスより和装派だから!」「むしろ今、すっごく楽しみだよ!」と言ってきました。
「ここであらためて永遠の愛を誓おうな!」「5年も待たせちゃったけど、今度こそお前を幸せにしてやるからな!」と言う元婚約者に、「は?」と言い返した私。
「あなたとは永遠の別れを誓うんですけど」
1時間後、無事に式を終えて――。
「おい!さっきのはいったいどういうことだ!?」と元婚約者からまたも連絡が。
「言われたとおり本殿に行ったら両親も親族も、みんな勢ぞろいだし!」「しかも今すぐ絶縁状にサインしろって言われるし!!サインしたらしたですぐに追い出されるし!!いったいなんなんだよ!?」
そもそも、私は「結婚式をあげる」なんて一言も言っていません。なのに、元婚約者は結婚式だと勘違いしたまま、のこのことやってきたのです。
私が用意したのは絶縁式。縁切りで有名な神社に頼んで、執り行ってもらったのです。
「どう?私たちの結婚式の続きにぴったりでしょう?」と言うと、「ふざけんなよ!俺はお前と夫婦になりたくて戻ってきたのに!」と元婚約者。
「ふざけてるのはそっちでしょう!」「結婚式当日に逃げた、借金まみれのクソ男なんて結婚する人なんているわけないでしょ!」
と、私に代わって元婚約者を怒鳴りつけたのは……彼の母でした。
婚約者が逃げた本当の理由
「これ以上、迷惑かけるんじゃないわよ、この馬鹿息子が!」とすごい剣幕の彼の母。
元婚約者は「ななな、なんで母さんが!?」「それよりもなんで、借金のことを母さんが知ってるんだよ!?」とうろたえていました。
「5年前のあの日、あんたの借金取りが結婚式場に来たからだよ!あんたが式場から逃げ出した後にね!」「話は全部聞いて詳細を知ってるんだからね。あんたはギャンブルにはまって1,000万近く借金を抱えていたんだってね?」「あの日も『結婚式を挙げる余裕があるなら金を返せ』『ご祝儀もあるし、少しぐらい返済できるだろう』って連絡が来て慌てて逃げだしたんでしょう!!」
「で、でも、俺は借金取りに『絶対に家族は巻き込むな』『結婚式は中止になったからご祝儀もないし、返済はできない』って説明した!」「俺は俺なりにみんなを守ろうとしたんだ!」「あとは俺が逃げ切れば大丈夫だと思ったのに……」と言い訳する元婚約者。
しかし、あのとき来た借金取りは、全然元婚約者の言葉を信じていませんでした。新郎が消えて騒然としている式場に堂々とやってきて、「返済のためにご祝儀を渡せ」と言ってきたのです。
まさか晴れの日に新郎がいなくなったうえ、借金取りまで来るとは思わなかった私。彼に借金があったことなんて、一切知りませんでした。彼の両親とともに事情を話すと、借金取りたちが私たちに同情。彼の借金の詳細を話してくれたうえで、「ご祝儀は来ていただいたみなさんに返却してください」と言って、トラブルを起こすこともなく帰ってくれたのです。
「あ、あのさ……絶縁状なんてただの冗談だよね?」「俺、実は全然返済が終わってなくて……借金取りに捕まりそうなところをギリギリで逃げ続けてきたんだ」と元婚約者。
私と彼の母親は顔を見合わせてため息をつきました。まさか、5年もかかってまだ返済してないなんて……。
「だって、利子が高すぎるんだよ!今じゃ3,000万くらいに借金は膨らんでるし、もう逃げ続けるしかないんだ」「きっと一度逃げた場所に戻ってくるとは思わないはずだから、灯台下暗し作戦で実家に避難させてくれよ!」
「なんてところから借りたのよ!?あんたの借金事情に私たちを巻き込まないで!」「もう私とお父さんは息子なんていないものと思って生きているの。だからどれだけ泣きつかれても助けるつもりはないわ」と彼の母。
「私たちの遺産も、あんたには一銭も残さないからね!」「自分の借金はどうにかして自分ひとりで返済しなさい」「本当ならうちの娘になるはずだった彼女に、遺産も何もかも相続させるわ!わかったらもう私たちにも彼女にも一切関わるな!」
真実を元婚約者に伝えた結果
その翌日――。
「実家に行ったら、バケツで水をかけられて追い出されたんだ!」「もう俺にはお前しかいない、助けてくれ!」と連絡してきた元婚約者。
「一度は永遠の愛を誓おうとした仲じゃないか、結婚してくれとはもう言わないからさ!」「ただそばにいてくれるだけで……いや、お前の家に入れてくれさえすればいい、俺を借金取りからかくまってくれえええ!!」
私は呆れ果てながら、「いや、無理だから」と言いました。
「夫に迷惑かけたくないし」
「……え?えええ?夫って……俺以外の男と結婚したのかあああ」と絶叫した元婚約者。結婚式をドタキャンしておいて、まさか私が5年も一途に想い続けていたとでも……?
「私たちの関係はすでに終わってるの」「借金持ちの男と復縁するメリットもなければ、愛もないし」と言うと、「俺はこんなにお前のことを愛してるのに……」と元婚約者は涙声。
本当に私のことを愛していたなら、あのときに結婚式から逃げ出したりはしなかったはず。借金があることだって話してくれたはず。今回、5年ぶりに連絡をしてきたかと思えば、真実を話すわけでもなく、「逃げたのはマリッジブルーだったからだ」と嘘を並べる始末。あれだけ不誠実なことをしたうえに、反省も感じられない彼に、愛を語る資格はありません。
「このままじゃ俺、やっていけない……お前はそれでもいいのか!?」「俺を見捨てたらきっと後悔するぞ、罪悪感を抱えたまま生きるのは辛いぞ」と同情を引く作戦に出たらしい元婚約者。
「見捨てるも何も、先に捨てられたのは私だし、本当にもう愛も情も残ってないの」「知ってる?好きの反対は無関心なんだよ」「あなたがどこでどうなろうが、私には関係ないし興味もないの」
その後――。
私のもとにも、元婚約者の両親のもとにも、ガンガン連絡を入れてきていた元婚約者。しかし、あるときを境に諦めたのか、パタッとその連絡が途絶えました。
私は夫と相変わらず穏やかな生活を送っています。そして、元婚約者の両親は相変わらず、私のことを実の娘のようにかわいがってくれています。
元婚約者の両親からいただいたお金は、夫とも相談して妊活や子育てのために使うことを決めました。もし子どもができたら、元婚約者の両親にも報告しようと思っています。
【取材時期:2024年12月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。