「お前の親父は俺にだけ厳しすぎる!」「ちょっとした小さなミスでもわざわざ呼び出して注意するし、今日なんて会議中、みんなの前で怒られたんだ!」「あれは絶対に俺に対する嫌がらせだね!」と愚痴る夫。
たしかに、私の父は仕事のことになると厳しい人。しかし、嫌がらせをするような陰湿な人ではありません。
「むしろあなたに目をかけてくれてるんじゃないかな?」「せっかくうちの会社に入ってくれたし、いずれは会社を任せたいってことも言ってるらしいし!」と言うと、「はぁ?」と馬鹿にしたように言ってきた夫。
「俺がこんなしょぼい会社で満足する男だとでも?」と夫に言われ、私は絶句。そして夫は、「お前の顔を見ているとお前の親父の顔を思い出す」「気分が悪いから今日も飲んで帰る、お前は先に寝てろ」と言って、飲み歩く日々が多くなり……?
浮気相手は新入社員
夫が家に寄り付かなくなってから3カ月――。
久々に夫から連絡がありました。彼女が妊娠したから離婚してくれと言うのです。「急に何を言い出すのよ!」と言うと、「仕方がないだろ、彼女が妊娠しちゃったんだから」「男として早く責任を取らなきゃな」と夫。何がなんだかわからず、混乱する私に、夫は説明を始めました。
「実は前から俺には付き合っていた彼女がいるんだ」「今年入ってきた新入社員の中にすごくかわいくてきれいな人がいてさ、告白されたら断れないだろ?しかも20代なんだぜ?」
そんな若い女性と……しかも、私の父の会社内で浮気するなんて……と、私はショックを受けました。
「別に俺は解雇されてもいいし、お前のムカつく親父には『好きにしろ』って伝えておけ」「彼女の実家は会社を経営していてさ、しかもうちの取引先」と夫。
「俺と今すぐ離婚してくれ!彼女が妊娠したから、ごめんなw」
「彼女の実家は会社を経営してるから、彼女の家に婿入りして、俺が社長になるんだ」
「なにも知らないのねw」
「は?」
私の返答は少し気になったようですが、夫は帰宅するなり、満面の笑みで私に記入済みの離婚届を渡してきました。
夫の新たな転職先
さらに「お前の親父の会社は俺が働くような場所じゃなかったな」などとのたまう夫。恩をあだで返すとはまさにこのことでしょう。
ため息をつき、私は「じゃあ、父に報告するわ」と言いました。
「それと、来年うちの子会社になる予定の取引先の社長にも、ね」
本業は別ですが、父の会社の手伝いもしている私は、夫の浮気相手である新入社員とその実家に心当たりがあったのです。
「あなたの浮気相手のご実家、ここ数年かなり業績が落ちていてね」
業績の低下から、社長は引退を考えていたそう。前々から事業を一本化したかったらしい父は、それを聞いて子会社化を提案したのです。向こう側の条件は「娘をうちで働かせてくれ」ということだったので、父はその娘さんを入社させることに。
「もともとは向こうの会社が上の立場だったけど、そこはいずれ父の会社になるのよ」「そこであなたが社長になれるわけないじゃない!父の娘である私を裏切ったあなたが!」「ちょうど今日、経営者同士で会食しているらしいから、父に伝えるわね!なんてタイミングがいいのかしら!」
夫は「なんだよそれ。そんなこと、彼女は言ってなかったぞ」「むしろ将来は俺が社長ねって言ってたし……」とうろたえつつも、私の言葉に半信半疑の様子。
私は「ふ~ん。彼女がなにも知らなかっただけじゃないかしらね?まぁとにかく報告してくるわ!」と伝えました。
浮気男と世間知らずな浮気相手の末路
翌日――。
「ど、どうしよう!」「助けてくれ!」と夫から連絡が。この期に及んで、私に助けを求めるなんて……。
「きょ、今日、彼女の実家に呼び出されて……この際だからと思って、彼女と一緒に妊娠の報告と結婚の挨拶に行ってきたんだ」「でも、俺たち結婚を反対されて……どうしても結婚するなら娘とは絶縁するって!」「もちろん会社も何も譲らないし、遺産もないと思えって!せっかくの俺の計画が全部台無しだよ!」
もとから杜撰すぎる計画だったのに、何を言っているのやら。「大変なところ悪いけど、父もあなたと浮気相手の解雇を決定したわよ」と言うと、「えええええ、じゃあ俺たち2人とも無職決定!?」「これから子どもが生まれるっていうのに……どうやって生活していけばいいんだ……!?」と夫。
「仕事がないなら、探せばいいじゃない」「一応あんたは地元で名の知られた企業勤めの経歴もあるんだし、なんだったら前の会社に戻れないか相談してみたら?」と言うと、「そんなの絶対無理に決まっているだろ!」と夫は叫んでいました。
夫はそれなりに仕事で結果を出してきたはず。どうして元の会社に戻れないんだろう?と私が首をかしげていると、「そうだよな、君はかなりの問題社員だったらしいもんな」と隣から低い声が。
「社内での評判が知れ渡って、今ではブラックリスト入りだとか」「同業関連の会社はどこも君を雇ってくれないだろうな」
私に代わって夫に返事をしたのは、こめかみに青筋を立てた私の父。父によると、前の会社で夫は上司に対して反抗的な態度を取って、嫌がらせじみたことをしていたのだそう。新しい上司が自分より年下だから、というだけで。
「娘から聞いていた優秀さと、うちでの実績がかみあわなくてびっくりしたよ」「前の会社では問題児でも、私が鍛え直せばいいと思っていたんだが……義理とはいえ、私の息子なのだから」「まさか、こんな裏切られ方をするとはな」
父の怒りは相当なもので、夫が言い返す隙も与えませんでした。
「それにしてもひどいじゃないか、うちに離婚の挨拶に来る前に、向こうに結婚の挨拶に行くなんて」「うちの娘と離婚しなきゃ、あちらの娘さんとは結婚できないはずなのに」
「今日付けで懲戒解雇だから、2人とも二度と会社に来なくていいぞ」と言って、ひとつ息をついた父。少し声を和らげて「せめて新しい嫁さんと子どもだけは守るんだぞ」「もう君にはその人たちしか残っていないんだからな」と言って、話を終わらせました。
その後――。
私は慰謝料と財産分与を夫に請求して離婚。さらに元夫は会社のカードを私的に使っていたらしく、父がその分の返済を求めていました。私も父も一括での支払いしか認めなかったため、元夫はほうぼうに頭を下げてお金を借りたそうです。
父から、将来的に私に会社を継ぐ可能性があることを伝えられた私。今は別の仕事もありますが、空いた時間は経営について勉強することにしました。また、父の会社も時々手伝いながら、父の経営スキルも少しずつ学んでいこうと思います。ゆくゆくは私も父のような経営者になりたいと思っています。
【取材時期:2024年12月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。