彼女は家族の思い出をいろいろと話してきて、少しずつ疑う気持ちは薄れてきました。ですが、まだ母親だという確証は得られません。父や母の知り合いだった、という可能性もあるので……。
当初、連絡以上のことは望まないと言っていた彼女ですが、だんだんとそれ以上を要求するようになっていきました。父のお墓参りをしたい、私に一目でも会いたい……と言ってきたのです。
ん!?母に会ってみて違和感を覚え…
生前、父によく言われていました。「一度っきりの人生なんだから、後悔しないように生きなさい」と。正直なところ、私も自分のルーツが気になりますし、会ってみたいと思いました。
節目節目に、父は私のことを報告していたようです。私の生活能力のなさを心配していたそうで、それを聞いていた彼女は私がちゃんと生活できているのか気がかりに思っている様子。今は仕事も続いているので、何とかなっています。ですから、心配しないように伝えました。
その後、私たちは週末に会うことを約束。待ち合わせに現れた彼女は、おぼろげに残る母の雰囲気に似ているような気がしました。笑顔いっぱいで、喜びを隠せない様子の彼女でしたが……。
帰宅後、彼女から連絡が入りました。
「20年ぶりに娘に会えてうれしかったわ」
「寂しい思いをさせてごめんね」
今日の感想を話してくる彼女。しかし、私は思い出に浸ることはありませんでした。
「あなたは母親じゃありません!」
「えっ…」
何の冗談かと聞かれたので、冗談ではないとキッパリ伝えました。じつは彼女、さらなる要求をしてきたのです。「今後の生活の面倒を見てほしい」と援助を求めてきました。これって、どう見ても詐欺ですよね。
母と名乗る人物は誰!?探偵に依頼すると…
実際に会って確信したのですが、彼女、私が知っていることしか話さないのです。5歳で生き別れたので、私は母のことをほとんど覚えていません。顔もおぼろげですし、母との写真もほとんどありません。彼女との会話は、私の現在の生活を盗み見てさえいれば話せることばかりだったのです。
じつは私、父から巨額の資産を受け継いでいます。天涯孤独で、仕事一筋の私。パートナーも今はいません。詐欺師にとって、私は絶好のカモですよね。父は顔が広かったので、そのなかに悪いことを考える人がいたら……と勘繰ってしまいました。
そこで探偵事務所に彼女の調査をお願いしました。すると、やはり母親ではなく……。逃げ切れないと思った彼女は、素直に詐欺を認めました。どうやら父がお願いしていた家事代行サービスの女性だったようです。そして、もう2度と近寄らない、見逃してほしいと言ってきました。
彼女はもう詐欺はしないから許してほしいと懇願してきましたが、私が許せばきっとまた詐欺を働くはず。正直、彼女から連絡が来たとき、どんな母親でもいいから会いたいと思いました。だまされてもいいとさえ、思ったのです。ですが、本当にだまされるとは……。
本当の母は生きている!?再度探偵に…
じつは私、彼女と会ってひとつ思い出したことがあります。彼女とお墓参りに行ったときのこと。誰かがお参りしてくれたようで、新しいお花が供えられていました。その花は、父の好きだった花。それを知っているのは、おそらく私たち親子3人だけ。つまり、単純に考えれば母は生きていることになるのです。
どういう事情があって母が出ていったのかはわかりませんが、母は少なくともお金を持った私に近づいてきて、金銭的な助けを求めるような人ではなかったということです。今回それがわかったのは、唯一の救いでした。
ですが、彼女にはきっちり罪は償ってもらうつもりです。詐欺未遂にはなりますが、警察に届け出ました。
その後、私は探偵事務所に依頼をして本当の母親を探し出し、再会しました。さまざまな事情を知って複雑な気持ちにもなりましたが、私ももう大人です。嫌なこともありましたが、母と再会できて心から良かったと思っています。これからも、父が残してくれた言葉を大切にして生きていきたいです。
◇ ◇ ◇
家事代行はとても便利でありがたいサービスです。悪巧みする人がどこにいるかわからないので、世間話のつもりでも知らない人に家の内情やお金のことを話すのは控えたいですね。
【取材時期:2024年12月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。