仕事が忙しいせいかもしれませんが、夫は最近とても不機嫌です。会話はほとんどなくなり、「いってらっしゃい」と送り出しても無言のまま。出産準備グッズを買いに行こうと誘っても、一緒に名前を考えようと提案しても、聞こえているはずなのに無視するようになりました。
ある日、私が無視されていることを指摘すると、夫は「被害妄想だ」と冷たく言い放ち、私と話すとより疲れるとまで言いました。以前は、私と話すと癒やされると言ってくれたのですが、何か気に入らないことがあるのなら、はっきり言ってほしい……。
なんでもいいから夫からの反応がほしくて、メッセージを送ってみても、スタンプすら返ってきません。
出産と離婚を報告、私の決断
それから4カ月。私は無事に出産を終えました。夫からは相変わらず無視されています。必要な会話すらも避けられて、メッセージも返してくれません。おそらく、出産の報告も無反応だろうと思いながら、私は最後のメッセージを送りました。
「元気な女の子が生まれたよ」
「妊娠がわかってからずっと無視だったね」
「さっき離婚届出したから!」
出産と離婚を一度に報告した私。どうせ反応がないだろうと思っていたのですが、数カ月ぶりに夫から返信が来たのです。唐突な離婚報告に思えたのか、夫は驚いていました。
「え?」
夫にとって予想外の展開ではなかったはずなのに、なぜ驚くのか理解できませんでした。勝手に届を出したことに怒り出した夫ですが、これは夫の意思でした。実は、部屋の片付けをしていたとき、夫のカバンからサイン済みの離婚届と私宛ての手紙が出てきたのです。手紙には、『2人で子どもを育てていく自信がないから別れたい』と書かれていました。
寄り添ってほしかった妊娠期間、私は夫に何カ月も無視され、本当に心細くてつらい日々を過ごしました。出産に立ち会うどころか、お迎えにすら来てくれなかった夫。そんなに私のことがきらいなら、一緒にいるほうがつらいので、私は離婚を決意。
無視していた身勝手な理由とは
私の決意を知った夫は、「誤解がある。話を聞いてくれ」と言ってきました。この数カ月間ずっと私を避けて、無視してきたというのに、今さら話を聞けと……。あまりにも身勝手な発言に、心が締め付けられる思いでした。
私の気持ちが落ち着いてきたころ、夫は再び「事情を話したい」と言ってきました。誤解を解かせてくれと、しつこいので話を聞いてみると、とんでもない事実が判明。
なんと、夫は生まれてくる子どもに嫉妬していたのです。
私が妊娠したことをあまりにも喜ぶので、イラッとしたと言います。大好きな私が自分と2人の生活に不満を感じているように思えてショックだったそう。それから、どんどん母親に変わっていく私に、気持ちが冷めていったと……。子どもがほしいと言っていた夫が、まさかそんなことを考えていたとは思いもしませんでした。
なかなか子どもができなかったので、2人だけの人生を考え始めたタイミングで子どもができたことも、予定を狂わされた感じがして嫌だったと。そんなことで大好きな私を無視して、傷つけるだなんて、配慮がなさすぎます。
もう自分だけの私ではないと感じ、思い詰めた夫は、離婚届と手紙を用意。しかし、なかなか決心できず、カバンにしまっていたそう。そんな経緯だったのなら、私が届を出してしまって、ちょうど良かったのでは……? しかし、夫は「出産後にいい解決策が見つかったから届は出したくなかった」と言います。
私には元に戻るという選択肢はありませんが、一応その解決策を尋ねてみると……。
無視してくれて、ありがとう
なんと夫は、子どもを養子に出すことが最善の解決策だと言ったのです。夫の親戚に子どものいない夫婦がいて、その人たちに子どもをあげれば、私も好きなときに会えると……。
そうすれば、私は夫だけのものになり、子どものいない親戚夫婦も救われ、子どもも自分を愛してくれる親が増え、みんな幸せだと。倫理観の欠片もない発想に、私は心底ゾッとしました。
命がけで産んだ子どもを他人にあげて、母親である私が幸せなはずがありません。
夫への愛なんて、もうみじんも残っていませんでした。離婚届を準備されていると知った時はショックでしたが、今では感謝しています。
離婚を拒否し続けた夫でしたが、家族の協力もあり、何とか離婚にこぎつけた私。今では、夫の存在そのものを、なかったことにしています。私は娘だけに集中して、幸せな毎日を過ごしています。
◇ ◇ ◇
妊娠してから以降、日に日に母親としての自覚が強まり、成長していく女性と違って、子どもが生まれる前から男性が父性を築くことは難しいのかもしれません。母になっていく妻の成長についていけず、驚く気持ちも理解できますが、だからと言ってひどい態度を取ってもいいということではないですよね。
おなかの子に嫉妬するほど妻が大好きなのに、どうして寄り添って、労わってあげられなかったのでしょう。さらには、生まれた子を養子に出すなど、あまりに自己中心的な発想にゾッとしてしまいましたね。心の傷が癒えるには時間がかかると思いますが、愛する娘と、支えてくれる家族と、幸せに暮らしてほしいですね。
【取材時期:2025年1月】
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。