「本当か? 妊娠したって……!」
「俺、パパになるんだな。うれしいよ……!!」
夫からそのメッセージが届いたとき、私は病院から帰宅し、自宅のリビングで夕食の準備をしていました。体調が悪くて受診したものの、結果はただの過労でした。画面に表示された「妊娠」という二文字に、思考が一時停止します。
私たち夫婦の間に、まだ子どもはいません。心臓が早鐘を打ち始める中、続いて「おなかの子のこと考えたらワクワクして眠れそうにないよ!」という追撃のメッセージが届いたのです……。
誤爆から発覚した夫の裏切り
私は震える指で返信を送りました。
「……え? 妊娠?」
「おなかの子って……え?」
すると、夫は急に焦ったような様子を見せ始めました。私の反応がおかしいと気づくやいなや、「いや、違う! 友だちの話でさ……!」「感情移入しすぎて『俺がパパ』みたいに打っちゃった!」などと、支離滅裂な言い訳を並べ立ててきたのです。
でも、私たちはつい先日結婚式を挙げたばかり。普段から「友人付き合いは面倒」と言い、休日に誰かと会うこともほとんどない人でした。そんな夫が、誰かの妊娠話でここまで浮かれるでしょうか。私が「誰の話? 名前は?」と重ねると、夫は一瞬黙り込み、「今それどころじゃない、会議に入る!」と逆ギレ気味に通話を切りました。
義母からの祝福と深まる疑惑
夫の態度に不信感を募らせてから数日後――。
今度は義母から明るい声で電話がかかってきました。
「ねえ、変なことを聞くけど……あなた、妊娠したの?」
突然の問いに、私は息をのみました。
「……いえ。私、妊娠していません」
電話口が一瞬、静まり返ります。
「やっぱり……。ごめんなさい、驚かせたわね」
義母は少し間を置いて、事情を話し始めました。
「この前、あなたたちの家に顔を出したとき、あなたは体調が悪くて病院に行っていたでしょう? 息子と二人で待っていたら、あの子が席を外したの。テーブルに置きっぱなしだったスマホが光って……画面にLINEの通知が出たのよ」
「画面に『妊娠』『跡取り』って文字が見えて……。あなたが病院に行っていたから、てっきりその報告だと思って、私……」
その言葉を聞いた瞬間、私の中でピースが最悪の形で噛み合いました。夫の裏切りは、私への誤爆だけでなく、すでに義母の知るところとなっていたのです。
私は、夫から届いた誤爆メッセージの件を正直に話しました。すると義母は、短く息を呑んでから、低い声で言いました。
「……母親として情けない。でも、もし浮気相手の子どもなら、私は絶対に許さない。親としても突き放すしかないわ」
こうして私は、義母という強力な味方を得て、夫との対決を決意したのです。
開き直った夫と勝ち誇る元カノの身勝手な言い分
その日、帰宅した夫を問い詰めると、彼は観念したように、しかし驚くほど悪びれることなく真実を吐露しました。
浮気相手は、結婚前から関係が続いていたという元交際相手でした。
「元カノとは、正直ずっと切れてなかったんだ」
「あっちに子どもができた以上、跡取りとして彼女を選ぶのが自然だろ」
「……悪いけど、そういうことだから」
耳を疑うような言葉が淡々と並びます。私は震えましたが、夫はさらに追い打ちをかけました。
「俺は社長の息子だ。跡取りができた以上、俺はあいつとやり直すことに決めた。悪いけど、荷物をまとめて出ていってくれ」
つい先日の結婚式で「一生守る」と誓ってくれた凛々しい夫の顔は、どこにもありませんでした。私の目に映っていたのは、自分の欲求と保身しか見えていない、まるで別人のような夫の姿でした。
数日後、夫の元カノを名乗る女性から連絡が入りました。彼女は最初から私を「もう終わった相手」扱いするような口ぶりで、言葉の端々に見下しがにじんでいました。
「驚いた? でも、もう隠す意味もないから言うね。私、妊娠したの」
「あなたたち、どうせ離婚するんでしょ。これからは私と彼で話を進めるから」
不貞行為による妊娠を、まるで自分の立場を有利にする“材料”のように振りかざす彼女。私には、他人の家庭を壊したことすら勝ち誇っているように見えました。怒りより先に、冷めた気持ちが広がっていきました。
けれど彼女はまだ知りません。彼女が切り札だと思っている「妊娠」と「不貞行為」こそが、彼女の望む未来を一番遠ざけることを。
「……残念ですが、あなたが思っているようにはいきませんよ」
義母から聞いた話では、義父はすでに夫に「後継候補から外す方向で考えている」と告げたそうです。会社のほうでも今後の扱いを見直す動きが出ていて、近いうちに結論が出る見込みだ、と。
「不倫するような息子に、会社は継がせられない」――義父はそう言っているそうです。
元カノの声色は、そこで露骨に変わりました。
「……は? そんなの聞いてない!」
「じゃあ、どうするの? 私と子どもは……」
さっきまでの強気が消え、焦りだけが残っていました。
私はすでに弁護士から、既婚者だと知っていたかなどの状況によっては、不倫相手にも責任を問える場合があると説明を受けていました。だから私は、それ以上は話さずにこうだけ告げました。
「今後の連絡は弁護士を通します。事実関係を整理したうえで、必要な請求はします」
そう言って、電話を切りました。
因果応報と新たな一歩
自業自得としか思えない状況に追い込まれた夫が、「やり直してくれ」と泣きついてきたのは、それからしばらくしてのことでした。
後継候補から外れたことを知った元カノに、「金にも地位にもならない男に用はない」と捨てられたそうです。職場でも居場所がなくなったらしく「頼れるのはお前しかいないんだ」と私にすがってきました。
その姿は、滑稽でした。かつての愛情は、もう微塵も残っていません。私は義母に紹介してもらった弁護士を通じ、淡々と離婚手続きを進めました。
義両親、特に義母は最後まで私の味方でいてくれて、「本当にごめんなさい。これからは幸せになってね」と背中を押してくれました。
その後――。
夫からの度重なる復縁要請は突っぱねて、私たちは離婚。弁護士を通して条件を詰め、元夫とは離婚と同時に慰謝料・財産分与について合意。不倫相手の女性についても、状況を整理したうえで、示談という形で慰謝料を受け取りました。
人づてに聞いた話ですが、元夫は私への支払いに加えて、子どもの養育費も含めた取り決めがあるらしく、決してラクではない生活を送っているようです。元カノとその子どもは、元夫とは一緒には暮らしていないとも聞きました。
信じていたパートナーから「不要な存在」として扱われ、一方的な都合で切り捨てられそうになった時の絶望感は、筆舌に尽くしがたいものでした。それでも私が立ち上がれたのは、義母という意外な協力者の存在と、何より「自分の尊厳は自分で守る」という覚悟を持てたからです。
今回いちばん救われたのは、義母が私の話を信じてくれたことでした。嫁だからではなく、一人の人間として向き合ってくれた。そのおかげで、私は変に抱え込まずに前へ進めました。だから私は、引っぱられそうになる日があっても、目の前の生活を大事にしていきます。
【取材時期:2025年12月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。