まだ「認知症」という名前ではなかったころ
私が初めて認知症を実感したのは、まだ学生のころでした。今では当たり前になった認知症という言葉ですが、そのころは認知症ではなく、痴呆(ちほう)という言葉で表されることが多くあったように思います。痴呆(今でいう認知症)に関することは、当時まだ存命だった曾祖母の絡みで話だけはよく耳にしていました。曾祖母は遠くに住んでいたため会うことはほとんどありませんでしたが、私の実家によく来ていた親族から頻繁に痴呆(認知症)の症状の話を聞いており、私はすっかり耳障りになっていました。知識だけはあるものの、実際に見たことはない状態で、正直あまり実感がありませんでした。
そんな中、祖父が脳卒中で倒れ、病院に運び込まれました。祖父が運び込まれたのは、当時私が1人暮らしをしていた場所から車で1時間ほどの病院。比較的対応が早かったということで、脳卒中の後遺症は少ないだろうという予想でしたが、倒れた際にけがをしており、そのまましばらく入院することになりました。
今でも覚えているほど鮮烈な光景
両親やほかの親族たちも祖父のお見舞いに交替で訪れていましたが、病院の比較的近くに住んでいた孫が私だけだったこともあり、両親に言われ、ある日、私はひとりで祖父のお見舞いに行きました。
その日はちょうどサッカー日本代表の試合がテレビで生放送された日。ノックして入ると、祖父はベッドを起こし、試合を見ながらお茶を飲んでいました。声をかけるとすぐに私に気づいてくれ、「一緒に見よう」と言いました。お見舞いの人用の椅子に座り、話しながら観戦していましたが、お茶を飲み終わった祖父が突然「着替える」と言って着替え始めました。ベッドのところにパジャマや下着、靴下などが置いてあり、それに着替えようとしたようです。そこで思わぬ光景を見ました。
祖父はテレビを見ながら着替えを進めるのですが、あきらかに行動がおかしかったのです。たとえば、パジャマをまだ脱いでいない状態でシャツを足からはこうとしたり、下着を頭からかぶろうとして「頭が出ない」と困っていたり……。そのうち着替え自体をやめてしまいました。私は祖父がふざけているのか、真剣なのかわからず、何も言わずにそこにいるしかできませんでした。
帰宅後に両親に報告
お見舞いに行った日の夜、私は実家に寄ることにしました。昼間の祖父の様子がどうにも気になっていたからです。会話は普通なのに行動はおかしくて、なんだかとてもちぐはぐとした印象を受けました。私は両親に、祖父のお見舞いで見た光景の話をしました。両親が前々日にお見舞いに行ったときはそのような行動は見られなかったようで、とても驚いていました。
翌朝、母が病院にその話をしてくれ、その日の夜には病院から「検査の結果、脳の萎縮は特に見られなかったが、以前に比べて痴呆(認知症)の症状が増えていた」という旨の話があったと聞きました。そして、高齢者の場合、入院時にこういった症状が増えることは実はよくあることだという話を聞いたそうです。生活環境がガラリと変わったり、入院生活のように外からの刺激が少なくなったりすると、認知症の症状が悪化することはよくあるのだそう。そして、環境が以前の状態に戻ったり、退院したりすると自然に治まる場合もあるし、そのまま症状が続くこともある、といった説明を受けたと教えてくれました。
まとめ
あのときの祖父の行動は、あとから認知症の症状だったと理解できましたが、初めてその場に立ったときには正直どうして良いかわからないという状態になりました。「ボケなの? 異常なの?」と戸惑い、誰かに相談して良いのかさえ迷ったのを覚えています。結果として祖父の認知症は、退院してじきに落ち着きましたが、入院中は認知症を予防するような活動も追加されたと聞きました。今両親があのころの祖父と同じような年代になっています。一緒に生活するうえで、私も、ちょっとした違和感を感じたときはそれを記録しておいたり、少し気をつけて様子を見たりするように心がけて生活しています。
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※本記事の内容は、必ずしもすべての状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて医師や専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願いいたします。
著者:小沢ゆう/40代女性・主婦。長野県在住。低体温&極度冷え症脱出目指して、温活に夢中。
イラスト:sawawa
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2025年2月)
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