思い返せば…
中学のころの私は、貧しい家庭環境を理由にクラスメイトのA男から嫌がらせを受けていました。ボロボロの筆箱や縫い直したカバンを見て、彼は「貧乏だからなぁ、かわいそうに~!」と皆の前で笑い者にしてきたのです。
A男の父は大企業の専務で、自分の裕福さを盾に私を見下していました。成績では私のほうが上で、それがさらに彼の攻撃心をあおった様子。
「こういうヤツには何を言っても無駄」と、私は無視を続けていましたが、私が高校に進学しないと知ったA男は、「貧乏だから高校に行けないんだろ!」とまた嘲笑。さらに私の教科書を隠したり、制服を汚したりとその言動がエスカレートしたのです。
あまりの仕業に他のクラスメイトたちが先生に報告。学校に呼び出されたA男の父親は激怒し、息子を更生させるべく、厳格な祖父のもとへ強制的に転校させました。
私はその後16年間、忙しくしていたため中学の同級生たちとは会っていなかったのですが、A男が帰郷し父が専務を務める会社に入ったというウワサは耳にしていました。
同窓会当日に
こんな昔のことを思い出したのも、つい最近、中学の同窓会の案内が届いたから。アラサーになった私は、A男は来ないらしいと聞いて参加を決めました。
しかし会場の居酒屋に着くと、引き戸の向こうにいたのはなんとA男!
「お前、相変わらず貧乏くさいのは変わらねぇなぁ!」と侮辱の嵐です。「俺は課長になって、処世術も身に付けた! 多忙だからチンケな同窓会なんか来る予定じゃなかったんだけどな、時間を作って来てやったんだぜ。一方のお前は、今どんな底辺の仕事をしているんだ?」と鼻で笑うのです。
私は心の中で「相変わらずはそっちだよ……。でも会費は払っちゃったし、他の子には会いたいし……」と考え、我慢していました。
とそのとき、隣室がにわかに騒がしくなりました。どうやらお客様の1人が倒れてしまった様子。
「お、お医者さまはいらっしゃいませんか?」という店員さんの声が聞こえてきました。
実は私…
「はい! 私、医者です!」と名乗り出た私。倒れた方は隣室にいた女性で、私は医者として迅速に対応しました。目の前で毒づいていたA男は「え!?」と目を白黒させています。
「中卒のお前が医者だって? でまかせもいいかげんに……」
「うるさい! 今、あんたに構っている暇はない!」とA男を一蹴し、救命処置に専念していたのですが、今度はA男が「社長!?」とすっとんきょうな声を上げました。
なんと、隣室にいて助けを求めていた男性は、A男が課長を務めるという会社の社長だったのです。しかも、倒れた女性の婚約者でした。
まさかの偶然に社長もビックリ。「どうりで聞き覚えのある男性の声だと思った……。ひどい暴言を吐いていたようだが……」。どうやら隣室にも、私をさんざんバカにするA男の声が響いていたようでした。そして、的確に応急処置をしている私を見て感銘を受けた様子です。
実は、私は独学で高卒認定試験に合格後、在宅バイトをしながら勉強し医学部に入学。父の病気も快方に向かい、奨学金と努力で医師となっていたのです。
化けの皮が剥がれて
そうこうするうちに、救急車が到着。救急隊員に女性の容体を詳しく説明した私に、A男が捨てセリフを吐いたのです。
「お前、医者だからって調子に乗るな! 昔からお前は、上から目線でムカつくんだよ!」
目の前に苦しそうな患者さんがいるっていうのに、なんて場違いな……。すると社長さんが怒ってこう言いました。
「君はさっきから何だ! 私の婚約者の命がかかっているというときに……! やはり人事部から聞いていた話は本当だったと思わざるを得ない。君が部下に嫌がらせし、ハラスメントをしているという訴えが届いている。戒めのため、降格させてもらうよ」
「お、俺は専務の息子ですよ!」と青ざめて父親の七光りを持ち出したA男。社長はブチギレです。「専務の息子だからって、何でもしていいと思っているのか!」
私は構わず、社長を急かしました。「あの、すみませんが! 早く救急車に乗ってください!」
その後のてん末
こうして、私は病院へ同行。幸い女性はすぐに意識を取り戻し、大事に至ることなく1泊の検査入院で済みました。
同窓会は、あれからすぐお開きになったようです。変わらずの横暴っぷりを同窓生皆の前で披露したA男は、全員から白い目で見られて孤立。さらに社長が宣言した通り、後日A男は降格となり、遠方にある子会社に異動になったそうです。
一方の私はというと……。医者として忙しい毎日を過ごしています。社長は無事、あのときの女性と結婚されました!
父の病気を治したくて志した医者ですが、こうして人命救助の役に立てていることが何より。中卒だからといって諦めずに努力して本当によかったと心から思っています。
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経済的な理由で進学できず、クラスメイトに見下された過去もありながら、めげなかった女性。独学で高卒資格を取得し、さらには医学部に入学。医師という目指した道に向かって努力を続けた彼女に脱帽ですね。
※本記事は、実際の体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
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