「母さん、父さんを亡くしたショックがなかなか癒えないみたいで……」と言って、前々から計画していた映画やディナーデートすらドタキャンするようになった夫。
そして夫との箱根旅行を計画していた日。その日も夫は「母さんが心配だから、旅行は1人で楽しんできて」と言って、旅行をドタキャンし、「実家に行く」と言って出ていきました。
その日の夜、夫からメッセージが届きました。夫は「俺、今日からしばらく実家で暮らす! 家には帰らないから!」と言い出したのです……。
実家に滞在し続けようとする夫
「どうして?」と尋ねると、「実は……母さん、心労でちょっと具合が悪くなって倒れたんだ」「本人は大丈夫だって言ってるけど、俺は心配だからしばらく実家で様子を見ることにしたよ」と夫。
「そこまで心労がたまっていたなんて……」「あなたが実家で暮らすのは構わないけど、まずは病院じゃないかしら?」「近くの病院に私から連絡しておくから、すぐにお義母さんを連れて行ってくれる?」と提案すると、「えっ!? 病院なんてわざわざ行かなくていいだろ」「本人も大丈夫だって言ってるし……家で安静にしてたらすぐに治るさ」と言いました。
「とにかく母さんが倒れたんだから、俺はそばにいる! 当分は別居生活で頼む!」
「ちょっと笑っちゃうんだけど……」
私の返事に、夫は激怒。「俺の母親が倒れたんだぞ! どこが笑えるって言うんだよ!」と言ってきたのです。
夫の本当の居場所と義母の気持ち
「だって、その倒れたお義母さん、今私の隣にいるんだもん」
そう言うと、「えっ」と言ったきり、言葉を失ってしまった夫。隣では義母があきれ顔いで笑っています。
夫の分の旅行のチケットを当日キャンセルするのも……と考えて、夫が出て行ったあと、急いで義母に連絡。すると「すぐに支度するわ!」と即答してくれて、出発ギリギリで間に合ったのです。
旅館にチェックインしてひと息ついたその夜、夫からLINEが届きました。スマホをテーブルに置いたまま義母も同じ画面を見ていたので、内容は丸見えでした。
「ちょっと! そのうち母親が死んだとか縁起でもないこと言い出すんじゃないでしょうね!?」「母親を病人扱いなんて……たとえ冗談でも言っていいことと悪いことがあるでしょう!」と夫を一喝した義母。
「なんで母さんが一緒にいるんだよ!?」「そんなに仲良くなかったと思ってたのに……」と夫。
実は、私と義母は大の仲良し。義母は古臭い考えを持った義父から「姑は嫁に厳しくするもの、嫁と仲良くするな!」と言われていたので、義父の存命中は大っぴらには仲良くできませんでしたが、前々からメッセージなどで頻繁に連絡を取り合っていました。
だから、本当は夫が実家になんて帰っていないこともわかっていたのです。
義母は続けました。「頑固で思いやりもないあの人と一緒に暮らすのは大変だったわ……。でも、息子のために覚悟を決めて、とにかくいい母親、いい妻でいることを心がけていたの」
少し間を置いて、義母は言いました。「長年一緒にいたから情はあるし、もちろん悲しかったけれど、私なりに整理はすぐについたのよ。今は前向きに生きていきたいの。ようやく自由な日々を取り戻せて、楽しい老後を謳歌してるわ!」
そして、最後に「そんな私が、お父さんを亡くしたショックで倒れたなんて? そんなこと、あるわけがないでしょ!」と言ったのです。
「えっと……」とたじろぐ夫に、義母は「今日はせっかく箱根旅行に誘ってくれたんだもの、満喫するわよ!」「だから、あなたは縁起でもないうそをつかず、堂々と浮気相手のところにでも行ってくればいいじゃない」と義母。
「え……浮気相手って……」と驚く夫に、さらに「まさか何も気づいていないとでも?」と私は追い打ちをかけました。そして、以前、夫の携帯に「また会いたいな♡」というLINEの通知が表示されているのが見えてしまい、浮気を知ったことを伝えました。
「マッチングアプリで、女性と会ってるでしょ?」「あなたの浮気に気づいたのは、義父が倒れる少し前。でも、そのあとすぐに容体が悪化して亡くなって……あのころは、そんな話どころじゃなかったの。だからずっと黙ってた」
すると、夫は「父さんが亡くなってから、日が経ってるのに……」と不思議がる夫。
私は「お義母さんと遊ぶのが楽しくって、気づいたら、あなたのことなんてどうでもよくなってたの」と伝えました。「あなたと離婚してもこれからも会う約束をしてるのよ♡」そう言うと、「あれはただの軽い気持ちだったんだ! 離婚なんて考え直してくれよ!」と、夫は必死にすがってきました。
その後――。
夫はさんざんごねましたが、義母に叱られて、ようやく離婚届にサインしてくれました。マッチングアプリで知り合った浮気相手には逃げられてしまったそうです。
離婚後、小さなアパートを借りて住もうと思っていた私。それを聞いた元義母は、「それなら私の家でルームシェアしましょ!」「息子はもういないものと思ってるし、来たとしても私が追い返してやるわ!」と提案してくれました。そこで、私は元義母と一緒に、元義実家で女2人の生活を始めることにしたのです。
宣言どおり、元義母は元夫がやってきたときもきっぱりと追い返してくれました。庭のホースの水を浴びせながら一喝する姿には驚きましたが……。
そんな元義母は、「あんなやつに遺産なんて遺してなるものか! 私がきれいさっぱり使い切ってやるんだから!」と言って、毎月私を旅行に誘ってくれるようになりました。私も元義母に恩返しできるよう、仕事や家事に精を出す毎日です。
【取材時期:2025年3月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。