あまりにも欠席の返事ばかりが届くので、心配になって幼なじみに連絡した私。幼なじみも「あー、はいはい、あんたたちの結婚式ね? もちろん欠席でお願いしまーす」――その声は、まるで私のことなんてどうでもいいと言わんばかりでした。
そして幼なじみは、「誰があんたの結婚式なんかに出るもんですか」と言ってきて……?
私の結婚式を台無しにしようとする幼なじみ
「うふふ、私、実は全部知ってるのよね!」と幼なじみが言い出しました。
「あんたの結婚式、友だちはみーんな欠席するんでしょ? せっかく招待状の返信が来ても欠席の返事なんだよね!」「まぁ当然のことだと思うけど、惨めすぎる~! かわいそ~!」
なぜそのことを幼なじみが知っているのか……。私が「あなた、なにか知ってるの? 」と尋ねると、「逆にこんなことになってもまだ気づかないの? 自分の胸に手を当てて考えてみなよ!」と幼なじみ。しかし、私には思い当たる節がないのです。
「……本当にわからないの? みんなの欠席理由なんてひとつしかないのに! あんたが幼なじみである私の好きな人を奪ったからに決まっているでしょうが!」
「私が……あんたの好きな人を奪った、ですって!?」と言うと、「そうだよ! だから私からみんなに教えてやったの!」「一人ひとりに連絡してまわって、時には直接会って説明だってしてやったんだから! 『こんなひどい略奪婚には行かないほうがいいよ』ってね!」と幼なじみ。
「私が彼と付き合い始めたときは、当然お互いにフリーだったわよ!? あなたから奪ったなんて、そんなことしてないわよ!」「彼からあなたと付き合ってるなんて聞いたこともないし……」と戸惑っていると、幼なじみは吐き捨てるように言いました。
「うわぁ~、この期に及んで白を切るつもりなんだ? あんたって本当にふてぶてしい女ねぇ~」「幼なじみの私が先に好きだったって、あんたわかってたくせに!」「後から手ぇ出しておいて、よくもまあシレッとした顔してられるわね!」「彼のこと、ずっと好きだったのよ……ずっとずっと想ってたのに! それを、平気な顔して奪ってくれたわよね……!」
……たしかに昔、「好きな人がいるんだよね」と幼なじみに言われたことはあります。けれど、まさかそれが彼のことだったなんて――。私はそのとき、ただの片思いか、職場の人か誰かのことだと思って、軽く聞き流してしまっていました。
幼なじみが何を言っているのか、すぐには理解できず、私はしばらく呆然とするしかありませんでした。
「彼のこと、ずっと好きだったのに……彼がいるって知ってから、1年も前からあの喫茶店に通ってたのに……」「なのに、先にあんたが付き合って、しかも結婚するだなんて……どうしてよりによって、幼なじみのあんたなのよ……! 友だちの好きな人に手を出すとか、マジでありえないから」
たしかに、私の彼氏は喫茶店に勤めています。幼なじみはそこの常連で、彼に告白するつもりだったと言うのです……。
「いつか彼は振り向いてくれると思ってたの……! そう信じてたのに……」「あんたが横から割り込んできて、全部ぶち壊したんじゃない……!」「私が先に好きになったのに……あんまりだわ」「それを奪ったあんたが、祝福なんかされるわけないでしょ。あんたの結婚式なんて、誰も本気で祝ってくれないよ」
そんな理不尽な理由で、私の結婚式をめちゃくちゃにしようとしている幼なじみ。幼なじみが一方的に電話を切ってしまったあと、私はしばらく悩み、妹に相談することにしました。
幼なじみの嘘を見抜いていた妹
まずは、幼なじみから妹に連絡があったかどうかを尋ねてみることに。
「ちょうどさ先週メッセージが来てたの! 『お姉ちゃんに大切な人を取られた、お姉ちゃんの結婚式には絶対に行かないで』って!」と妹。まさか私の妹にまでそんな連絡をしていたなんて……。「でも、あまりに唐突すぎて……どうせいつものかまってちゃんの冗談だと思って、様子見てたの」
「あのね、私は略奪なんてしていないから! 彼とは真っ当なお付き合いをしているからね!」と言うと、妹は「わかってるよ、お姉ちゃん」と一言。
「お姉ちゃんがそんなことするわけない人だって、誰よりも妹であるこの私が一番わかってるよ!」「それに、私だって小さいころからお姉ちゃんと彼女と遊んできたんだよ? あの人の考えそうなことくらい、私にだってわかるよ」
小さいころから幼なじみは、欲しいものはなにがなんでも手に入れようとするし、そのためなら事実を曲げても構わないと思っているようでした。そのせいで、保育園のときに「嘘つき」と呼ばれていたこともあります。妹は、今回もそんな幼なじみの暴走だろうと言いました。
「……ありがとうね、私を信じてくれて」と言うと、妹は即答しました。
「当然だよ!」
「それに、頼んでもないのに、なんだか写真まで送られてきたよ……。お姉ちゃんの彼氏との2ショットだった」
そして、妹はすぐにその写真を転送してきました。映っていたのは、喫茶店のカウンター前で撮られた、幼なじみと彼の2ショット。
「そういえば、彼女、1年くらい前から彼に会うために喫茶店に通ったって言ってたわ」喫茶店には、オーナーの意向で、お客さんのメッセージ付きポラロイド写真がコルクボードに貼られています。「店員さんと一緒に撮りたいって、彼女が言ったんでしょうね……」私はつぶやきました。
「そんな写真でも、信じている人はいるのかもね。実際、欠席の連絡が届いているし……」ため息をつく私に、妹はきっぱりと言いました。
「大丈夫だよ! お姉ちゃん」
「何人かには私のほうから説明しておいたの。先週あのメッセージが来たとき、ちょっとイヤな予感がして……」「お姉ちゃんの友だち何人かと連絡取ってるから、さりげなく聞いてみたんだ。そしたら、やっぱり『略奪婚だって聞いた』って」「でも、ほとんどの人が『やっぱりお姉ちゃんがそんなことするはずないよね』って納得してくれたよ」
「みんなに説明してくれたの……!? 本当にありがとう!」と言うと、「まだまだ気を抜いちゃダメだよ! お姉ちゃんはとにかく、結婚式が無事に終わるように頑張ってね!」と妹は私を強く励ましてくれたのでした。
新婦を略奪女と言いふらしていた幼なじみの末路
そして、結婚式当日――。
ウエディングドレスに身を包んだ私のもとに、例の幼なじみからメッセージが届きました。
「せっかくの結婚式に友だちが来ないなんて、本当に惨めねぇ」
「でも当然の報いでしょ?いい気味よ!」
「みんな来てるけど?」
「え?」
妹の活躍もあって、招待した友人たちは全員参加してくれました。私自身もあれから、自分の言葉で、一人ひとりにきちんと説明をしたのです。式の当日になるまで、来てくれるかどうかわからなかった人もいたけれど、それでも、全員が顔を見せてくれました。
……ただ一人、幼なじみをのぞいては。
「はぁぁぁ!? ちょっと待ちなさいよ! みんな来てるっていったいどういうことよ!?」「私からみんなに略奪婚のことをバラしたのに! 何人かは、欠席の招待状だって目の前で書いたわよ!?」と怒る幼なじみ。
「そうみたいね、でも訂正の連絡がちゃんと来たよ? 『彼女の嘘はちゃんと見抜いている、もちろん式には参加するから安心してね』って」「実際にちゃんと式に来てくれているし」と返すと、「なんでよ! 」と幼なじみ。
「……あと、あなたが彼のことを好きだったのは本当だったみたいね、彼が『実は何度か告白された』って教えてくれたわ」「でも、ちゃんと断ったって言ってたわよ?」
私が彼から聞いたことを話すと、「そうよ! だからって、諦めちゃいけないわけ? 何回告白したっていいじゃない!」と幼なじみ。そして「いつか振り向いてくれるって信じてたんだから」と嘆き始めました。
「……もうやめてくれない? 彼はあなたに一度も気持ちを向けたことなんてなかったし、私は彼と、ちゃんと向き合ってここまで来たの」「これ以上、誰かを傷つけるようなことはやめて。今日は、私たちにとって大切な一日だから。……もう連絡してこないでね」そう言って、私はやり取りを終えました。
そして私たちは、みんなに祝福されながら、穏やかであたたかな結婚式を迎えることができたのです。
翌日――。
「お姉ちゃん、やばいよ!」と妹から連絡が。幼なじみが「私には欠席するって嘘をついて、実際には参加するなんてひどい!」と、昨日の招待客に連絡して回っているそうなのです。
「『私を傷つけたんだから、謝ってもらわないと』って言ってるみたい……もう支離滅裂すぎるよ!」と妹。私も完全に同意でした。
私の結婚式を邪魔するだけでなく、終わったあとまで友人たちに迷惑をかけるなんて……。私は幼なじみに連絡を入れることにしました。
「ちょっと、話は聞いたわよ? あなた、私の結婚式に参加した友人たちに『謝って』って迫ってるんですって?」
すると幼なじみは、むっとしたようにこう返してきました。
「当然でしょ? みんなで私をだまして、あんな恥をかかせて……! 招待状は『欠席で出す』って言ったくせに、しれっと参加するなんて、どうかしてる!」
さらに続けて、まくし立てるように言いました。
「私は一人で笑いものにされたんだから! 少なくとも、全員、私にきちんと謝るべきよ!」
「……つまり、招待客のみんながあなただけに嘘をついたって思ってるから、怒ってるのよね?」尋ねると、幼なじみは食い気味に「そうよ! 」と言ってきました。
私は静かに追い打ちをかけました。
「……まあ、すでに彼は本気で怒ってるけどね。あなたのしたこと、名誉棄損にならないかって、詳しい人に相談してるらしいよ」「それに、職場の喫茶店の店長にも伝えてあって、あなたのこと、出禁にしたって言ってたわよ」
「え? ちょ、ちょっと待ってよ! 私が出禁……!?」「それに、名誉棄損って……?」幼なじみの声は明らかに動揺していて、ようやく自分のしたことの重さに気づいたようでした。
「あとね、私の母からあなたのご両親にも全部話してあるから」「自分が被害者のつもりかもしれないけど、実際に人を傷つけたのはあなたの方よ。略奪婚だなんて、根も葉もないことを広めて……」「これ以上勝手なことをしたら、こっちも本気で動くから。それなりの覚悟はしておいてね」
しばらくの沈黙のあと、幼なじみは電話を無言で切りました。
その後――。
結局、幼なじみはご両親同伴で、私や招待客のもとを回って謝罪行脚をすることになりました。
「結婚生活の邪魔になるような真似はさせられない」と判断したご両親により、彼女はしばらく実家に戻され、SNSや連絡も一切控えるようきつく言い渡されたそうです。彼女が落ち着くまで、ご両親が責任を持って見守るとのことでした。
幼なじみがここまで暴走してしまったのは、きっと彼への想いがあまりにも強かったから。ただの失恋では済まず、「自分の未来を奪われた」と感じていたのかもしれません。彼女にとって私は、恋のライバルというより「自分の人生を壊した張本人」に見えていたのでしょう。
そして、私を祝福した友人たちすら「敵」に見え始めてしまった……。今思えば、あれは悔しさとうっぷんをどうにかして晴らしたかった、そんな暴発だったのかもしれません。
彼女が謝罪に回る姿を見たという友人からは、「やっと落ち着いたみたいね」と連絡がありました。正直、今も胸のどこかにモヤモヤは残っています。幼なじみとの関係は、もう元には戻らないかもしれません。
けれど、味方になってくれた妹や友人たち、そして支えてくれた夫には、本当に感謝しかありません。いろいろと奔走してくれた妹には、夫と相談して温泉旅行をプレゼントしました。妹は「最高すぎる!」と喜んで出かけ、大量のおみやげと笑顔で帰ってきました。
夫は以前から、幼なじみの言動にひそかに困っていたようで、やっと落ち着いて働けるようになったとほっとしている様子。「いつか自分の喫茶店を出したい」という夫の夢を、全力で支えていこうと思います。少しずつだけど、大切な人たちと一緒に、私なりの幸せを築いていけそうです。
【取材時期:2025年4月】
※本記事は、ベビーカレンダーに寄せられた体験談をもとに作成しています。取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。