個室の前に保護者が…
その映画館には、男性用・女性用トイレとは別に、子ども用のトイレスペースが設置されていました。男女共用の小さなトイレと手洗い場、かわいらしい椅子がいくつかあって、子連れであれば誰もが利用できる素敵なスペースでした。
私と娘がトイレに入ると、すでに1つの個室は閉まっていて、父親らしき男性が近くの椅子に座ってスマホを眺めていました。
私はそんな「普通」の光景に何の疑いもなく、娘の「ママ、もれそう!」の言葉に促され、空いている個室に入ったのです。
「パパ~」の呼びかけを無視!?
トイレを済ませ、娘の手洗いを見守っていると、閉まっていた個室から「パパ~ 出たよ!」という女の子の声。しかし、椅子に座っている男性は何も反応しません。
「あれ?」と不思議に思っていると、見覚えのない別の男性がトイレに入って来ました。
すると「Aちゃん、トイレ終わった?」と、個室の中の女の子に向かって声をかけたのです。
去っていった男性は何者?
「パパ、自分でふけたよ!」と無邪気に笑う女の子。
そんな女の子と父親のやりとりを見るなり、先ほどまで椅子に座っていた男性は、トイレスペースから無言で立ち去りました。
父親の登場にも動じることなく去っていったあの男性。もし私たちが先にトイレを出て、女の子と男性が二人きりになっていたら、女の子はどうなっていたのだろう。あの保護者ではない男性は、女の子を連れ去ることが目的だったのかもしれない……。
ゾッとした私は、思わず娘を抱きかかえ、トイレを後にしました。
一見、「わが子のトイレを見守るお父さん」にしか見えなかった男性。その存在も恐ろしいですが、それ以上に、自分自身の危機感のなさに恐怖を覚えました。どんなに短い時間であっても子どもから目を離してはいけないこと、そしてその危機感を家族と共有しておくことの大切さを、改めて認識した出来事となりました。
著者:夏目 しおり/30代女性。2021年生まれの娘を育てるママ。10年間、中学校教員として勤務。現在は非常勤講師として働きながら子どもとの時間を大切にし、ライターとしても活動中。特技はサックスの演奏。吹奏楽と水族館が大好き。
イラスト:あさうえさい
※ベビーカレンダーが独自に実施したアンケートで集めた読者様の体験談をもとに記事化しています(回答時期:2025年6月)